THE VESSEL
誰も頼る気はない。
もとより一人で終わらせる戦いだ。出せるものすべて……
「グオオオオオオオオ!」
彼は止まらない。魔物を―――魔界の侵攻を止めるまで。
そんな彼は魔物に吹き飛ばされながらもボロボロのマントを身にまとった。
相手の魔物はいまだ大きくなり続けている。
このままでは、魔物そのものが街を押しつぶしてしまう。
焦らねばならぬ状況。やらなければならない。そんな感情が彼のアサルト状態の拍車をかける。
自身に内包された魔力を一気に開放し、大剣を振るう。横凪から縦切り。
しかし、大きいゆえに痛覚が鈍いのか単純に防御力が高いのか攻撃が通った様子はない。
そこで彼は、躊躇なく魔物の皮膚に張り付くと、持っていた剣を相手につきたてた。
すると、魔物は大きな体をゆっくりと動かし、思いっきり真司を振り払った。
その勢いで彼は宙を舞い、学校の校舎の壁面に叩きつけられる。
大きいがゆえに動きは鈍重。しかし、それを補って有り余る力に真司は相当の苦戦を強いられる。だが、彼が暴走状態になってでも譲れないことがある。
そのためには負けられない。そんな気持ちだけが先行して、決めの一手につなげられない状況でもある。
だからこそ、彼はさらなる力を無意識下に求め続けて……
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『戦う理由はなんだ』
「……!?―――ここは?」
知らぬ間に真司は見たことない場所にいた。
だが、なんどかこの場所に来たことがあるような気がした。しかし、そんな気がしても記憶として思い出すことができない。
「誰だ、お前は……!」
『私は…………だ』
「なんて言った?」
『そうか、まだ届かぬか』
「なに言ってんだよ!届かないって何のことだ!」
『今のお前には関係のない―――いや、どうしようもないことだ。焦らずに過去を見よ。いずれ、私の名前を知ったとき、それは必ず大きな力になるだろう』
真司にはただの一つも理解できなかった。
確かに力を求めた。目の前のどうしようもない敵に打ち勝つための力が欲しかった。しかし、だからと言って不明瞭な力ばかりを手にするのはためらいがある。
今使っているアサルトのように暴走されては困る。今回は仕方がないからと使っているが、本来なら使いたくなものだ。
力が手に入るからとおいそれと手を伸ばすものではない。それはもう、彼が身をもって知っている。望めば望むほど失う。大切なものを手に入れる代わりに、一番遠くにある大切なものを失う。
遠いからと失っていいものでもないのに。
「俺を過去を見ている暇はない!そして、お前の言う力がどういうものかわからないなら、そんなものは……!」
『どういうものかわからない?そんなはずはない。貴様が望んで使う力ではないか』
「そんなわけ!俺は自分の力しか!」
『それは違う。私の仲間が私たちを呼び覚ますことになったようだが、純粋なお前の力はたった一つだけだ』
「それが戦う力なんだろうが!」
『違うな。お前は戦う才能はある。だが、力は魔界に対抗できるほどのものでもない』
言葉の意味が分からない。
自分の置かれてきた場所。青龍と出会ったことによって変わり果てた日常。
その中で生きてきたのは紛れもない自分自身の力だ。誰の力だって借りていないはず。だというのに、目の前の巨大な存在は……
『ならば私から一つ問おう。なぜ、お前は自分の力を制御できない?』
「それは……!俺の力じゃ、抑えきれないから。自分の器に収まり切っていないから!」
『それは違う。元来より生きものが器の大きさ以上の力を手にすることはない。溢れ出しても水を注ぎ続けるバカがいないのと同じ。体もそれを理解している』
「ならなんで!」
『だが、容量の違う器同士が水を分け合ったとき、一方は溢れてしまう。今のお前はそんな状態だ』
「それが正しいと仮定して、俺はどうすればいいんだ!体がお前の言う通り器だとして、その大きさは変わるもんじゃないだろ!」
『ならば、器が二つあればいい。それでも足りないのなら、三つ目、四つ目と増やしていけばいい。大きさが不変で、足りないというのなら、量ではなく器の数を増やせばいい』
「そんな暴論……!」
『今一度問う。貴様の戦う意味とはなんだ』
「俺が戦うのは―――」
その時だった。
「がはっ……!?」
真司は血反吐を吐き出した。
段々と薄れていく思考力。なぜ、今なのか。それを考える余裕すらもなくなる。
『時間か……やはりまだ届ききってはおらぬようだな』
「お、お前は……なん、なんだ……」
『私の名は…………。まだ聞こえぬか。次あったときに答えを聞こう。そして、青龍にはよろしく言っておいてくれ。私は人類の歴史を見届け、意味を見出したと』
「なにを……?」
そう発した瞬間に、真司は意識を手放した。
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「ん、んぐ……」
一瞬だけ気絶してしまっていた真司が目を覚ます。校舎の壁が崩れて、瓦礫の中で目を覚ました彼は自身の状態をすぐに確認する。
そして異変にはすぐに気付いた。
「ぐ……がはっ……アサルトが切れた?なんで、今までこんなこと……」
「魔力切れだ。やはり、アサルト状態はお前の内包する魔力を使っていたのだな」
「てことは、俺はもうすぐ死ぬのか?」
「諦めるな。徐々に回復しつつある。この回復速度は気になるものがあるが、今すぐ死ぬことはないだろうな」
「なら、早く戦わないと……」
「その必要もない」
「なんでっ……!」
「相手が休眠状態に入った。おそらく超急速な進化によって、体が崩壊しかけたのだろう。一時的に進化の速度を緩やかかつ運動機能のすべてを停止させたのだ」
その言葉を聞いて、真司はすぐさま瓦礫の外に出る。そしてそこには、一切の動きを見せなくなった魔物姿がった。しかし、よく見ると、少しずつ大きくなっているような気がする。
「なにをしている」
「倒さなきゃ……」
「無理だ。今の状態は防御に極振りとまではいかないが、それでも厄介な状態には変わりない攻撃も通じない上ただ。逆に変に刺激したらどうなるかもわからん。ただでさえ、魔界の門の崩壊という不確定要素があるんだ。ここは一旦引いて態勢を立て直すべきだ」
「わかった……ここは一旦下がろう」




