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救世のディアフトライ  作者: 波多見錘


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THE HELL OF THE PAST

 早着替えのごとく、彼は青龍の力を使って走りながら服を着ると、そのまま屋上に向かってダッシュをする。

 目にもとまらぬ速さで階段を駆け抜けていき、同時に放送室のマイクを遠隔でハッキング。そこから自身の声を変えて、発声する。


 『デモニア出現―――生徒各位は先生の指示に従って退避せよ。これは訓練ではない!繰り返す!これは訓練ではない!』


 短い放送ではあったが、一度デモニアがこの学校を占拠したという過去から、この不審な放送を疑って動かない者たちはいなかった。一斉に全教室からガタガタと席を鳴らす音が響き、ざわめく音が聞こえる。


 その後、屋上へと無事に駆け抜けた真司は、そのまま変身してプールのほうに飛び込もうとする。


 「青龍、クリムゾンで行くぞ!」

 「ああ、気をつけろ。すでにあの魔物は門が開いている」

 「最初から強くてニューゲームってやつか?ふざけてくれやがる!」


 言いながらクリスタルを回転させ、押し込もうとした瞬間―――


 「―――っ!?」


 ―――彼は学校にいたはずなのに、いつの間にか知らない場所にいた。

 その場所は真っ白でなにもない。本当に無の空間だ。いや、無の空間ではない。目を凝らしてみると、白いはずの床は血で赤く滲み、いたるところに黒ずんだ四肢が転がっている。


 「なんだここは?」

 『………由……ん…?』

 「誰だ?」


 そんな地獄のような空間で彼はなにかに問いかけられたような気がした。

 しかし、この感覚には覚えがある。


 何だっただろうか。


 彼の頭の中はその違和感を探るために回り続ける。

 しかし、答えは見つからない。


 いつか、こんなことがあったような気がする。そんな不確定な予感だけで、彼はなにをすべきかを忘れていく。自分はなんのために屋上に来たのか。なんのために彼が戦っているのか。果ては、なぜ生きているのか。それすらもおぼろげになってくる。


 (なんだ、これ?自分が、消えて……いく?)

 『た………由……ん…?』

 「なに言って……」


 自我が薄れいく中、わずかな意識を頼りに声のする方に向かっていく。

 声のする方に一歩、また一歩と近づくたびにあの時と同じと思える。しかし―――


 (あの時と……あの時ってなんだ?)


 ―――記憶も薄れていく。なぜここにいるのか。わからないことが、さらにわからなくなる。そして自分が何者なのか、それは意識の深層の中に沈んでいき、ついには自分が生まれてきたということすら忘れてしまう。


 「……」


 ついに言葉の発し方、思考の仕方、すべてを失う。まるで赤子の前に。いや、胎児として発生する前に―――はるか遠くの過去にいるように……


 近づくほどなくなる意識。彼は本能のままに進み続ける。もう、なんのために歩いているのかわからなくなる。


 もう口の開け方も、歩き方も、瞼の開け方も、呼吸の仕方もわからない。

 ただ本能の思うがままに動き続ける。記憶になくとも、本能で行われる機能以外作動しない。


 しかし、ついに彼の目の前に声の根源が現れる。だが、もはや彼には言葉の意味は分からない。だが、それははっきりと聞こえた。


 「戦う理由は何だ?」


 決まっている。決まっているはずだというのに、彼はこたえられない。応じることも、回答することも。その力も知能もない。ただ本能のままに動く“モノ”。これを人間と呼ぶには少々無理がある。


 しかし、それでも目の前の存在は呼び続ける。一生届かないとわかりながらも、その存在は諦めなかった。いつか届いた日、世界を救うときとなるその声は、彼の耳に届くまで問い続ける。


 『魔物と戦う意味はなにか』と


 そして、それに答えることを許されない彼の姿を見るのは、これで“何度目”だというのだろうか。

 またも届かぬ声に、目の前の存在は落胆する。


 『まだダメだというのか……もう2000年にも及ぶというのに。やはり、過去というものは遠い……』


 その目の前の存在はとある戦火の中にいた魔物。そして、その大きさは真司が初めて会った時の青龍と同じだった。だが、その姿はもう見えない。影となり、そのシルエットすらも大きな黒にしか見えないのだから。


 『―――じっ!』

 「……」


 そして、ある時代にこんな言い伝えがある。


 『―――んじっ!』

 「……」


 『未来に問いし大いなる亀の者。戦火に交わらず―――』


 『―――しんじっ!』

 「……」


 『ただひたすらに祈り続け、声届きし時―――』


 『真司っ!』

 「……っ!?」


 『大いなるつるぎが天より曇を割って降ってくる』


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「真司!」

 「……っ!?」


 真司はなぜか意識を失っていたのか、学校の屋上で棒立ちになって静止していた。そこに青龍の声が聞こえて意識を戻したところだった。


 「どうしたのだ真司」

 「いや……なんだかわからない。わかってることが全部わからなくなる夢?」

 「なんだそれは?とにかく、早くしろ。このままだと被害が大きくなるぞ」

 「わかってるって!」


 そう言うと、彼はクリスタルを“回して”変身する。そう、さっき回したのに。

 しかし、その異変に真司自身は気づかない。青龍もいちいち気にしていない。だが、ここで気付くべきだった。真司の異変に。―――そして、なにが起きているのかということを。


 そのまま走り出し、彼は無数に立っている乱立する柵の骨から1本を拝借し、勢いのままプールに飛び降りる。その間に柵の一部だったものは剣に変形し、段々と彼の目の前に水のなくなったプールの床が見えてくる。そして、そこから少し離れたところに、アリスや美穂、加藤の姿を確認する。


 「青龍……アサルトはなしだ。だが―――」

 「ああ、出し惜しみするつもりはない。だが、真司もアサルト状態をどうにか制御できるようにしろ」

 「わかってる!でも、それは実践にやることじゃないだろ!」

 「こんな状況でもなければ、お前は追い詰められないだろ!」

 「そうだけどさあ!」


 ズガァァァン!


 「キタカ……」

 「よお、また会ったな」

 「グラアアアアアアアアア!」


 対峙する両者。そして真司の手に握られた剣はすでに赤く発光している。最初から全開の技で迎え撃つつもりなのだろう。しかし、門を開いた魔物相手に通じるかはわからない。


 そして、彼が意識を失った刹那の瞬間。それになんの意味があったのか。

 それを知るものは今はまだ……

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