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警察も交えて

 『魔物だ』


 その言葉は真司に重くのしかかった。ほかの先生ならともかく自身に向き合ってくれる教師を裏切るようなことをしてしまうのは、彼とて思うことはある。

 だが、以前から真司は授業をバックレるなどよくあることだった。


 今日も授業を抜けるしかない。


 次の時間は昼休み。多少は問題ないはず。


 (どのくらいの強さだ?)

 『そこまで強くはない。だが、現れた場所がよくない』

 (どこだ?)

 『近くなんだが、確かこの場所は警察署があったはず……だからかはわからないが、魔物が何かと交戦している』

 (そこまでわかるのは聞いてないんだけど)

 『最近、力が戻ったのだ。戦えるほどではないが、力が戻っているのは確かなんだ』


 頭の中で会話をし、真司は考える。

 行くべきか否か。答えは行く一択のはずだが、迷いがある。


 「十神、どうした?」

 「い、いや……」


 だが、そんなことを言っている場合ではない。どうやっても、自分の生活と大勢の命。天秤は釣り合わない。


 「先生、ちょっとトイレ!」

 「うむ、ちゃんと授業時間が終わったら教室に戻れ。出席にはしておいてやる」

 「ありがとうございます!」


 そう言って真司は走り出す。


 「ったく、俺がどれだけお前のために苦労してるか……まあ頑張れよ」


 その言葉は真司に届かず、またそれがなにを意味するのか今はまだわからない。


 ―――グラウンドを去っていく真司を見ていたのは体育教師だけではなかった。


 「真司……?」


 今朝、幼馴染にひどいことを言われたが、やはり初恋は尾を引いてしまう。体育の授業中だというのに、いつもより彼のことが気になってしまう。

 どれだけのことを言われても、彼女には彼になにか裏があるのではと疑いと言うよりも希望のようなものが出てくる。


 だが、自分は本当に彼のもとにいていいのかは微妙だった。


 彼を一人にしないことはできたはずだった。一緒に登校するでもなんでも方法はあった。だが、理由をつけてはしなかった。いや、忙しいのは確かだった。だが、真司なら自分で立てると勝手に勘違いした結果のようなものだ。


 一人で頑張る彼を少しは支えてあげる。それができなかった美穂は本当に真司の隣にいていいのか。それは彼女自身が大きく悩むことだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 バンッ!バンッ!


 「きゃああああああ!」

 「逃げて下さい!早く!」


 現場は阿鼻叫喚だった。上からの許可が下り、発砲し続ける警察官。その音でパニックになり走り回る市民たち。

 そして、警察の銃撃を受けてもびくともしない魔物。


 到着した真司が見たものは、辛いものだった。

 彼は一時的に魔物を警察に任せて、自身は市民の避難誘導に徹した。


 『いいのか?』

 「大丈夫。日本には自衛隊だってあるし、最終兵器としての核も存在する。―――まあ、それはたぶんできないだろうけど。まだ日本は本気じゃない。だからまだ耐えられるはずだ」

 『そうなのか?正直、人間の人殺しに一番適した武器が銃なんだろ?』

 「銃と言っても色々あるんだよ。俺は詳しくないけど―――おじいさん、こっちに!」


 青龍と会話しながらも、彼は誘導を続ける。避難誘導をしている警察の示す方向に人を流していく。


 途中で見つけた動きの速くない老人や、けが人などを避難させた後に、物陰に隠れて変身する。


 「今回はどのタイプ?」

 「我にもわからん、煙のせいで何も見えなかった」

 「そうかい。使えねえなあ」

 「なんだと!」


 そんなやり取りをしていると、警察と魔物の間に動きがあった。


 「うわあああああ!」

 「お、おい!放せ!その手を放せ!」

 「グルル……」


 一人の警官が、魔物につかまれて身動きが取れないようになっていた。

 彼らを助けるにはもう出るしかない。


 真司は、警官と魔物の間に割って入った。


 「ちゃんとつかまれ」

 「へ?は、はい……?」


 無理やり腕をねじ込み、警官を強奪すると、真司は魔物をけって距離をとるように人を持ったまま後ろに下がった。

 後退し、魔物との距離は取れたが、今度は助けた男の仲間に銃口を向けられる。


 「て、手をあげろ!」

 「ちっ、そんなことしてる場合かよ……」

 「は、早く!」

 「こいつら、お前が怖いみたいだぞ」

 「ご丁寧に説明ありがとよ……あんた、銃借りるぞ」


 そう言うと、恐怖で動けていない助けたはずの男から銃を拝借して、魔物のほうに向きなおる。


 「あれはバッタの魔物だ。注意するべきはその俊敏性だな」

 「おけい。なら、メイズかな」

 「そうだな。早すぎる相手にはそれが有効かもしれないな」


 そう会話をした真司は、クリスタルを270°回転させて押し込む。すると、彼の下地の色が今度は黄色に変化した。


 メイズ―――基礎能力は全スタイル中最弱。殴りも俊敏もないに等しい。だが、メイズによる射撃はすべて百発百中の命中弾となる。

 デメリットらしいデメリットと言えば、防御の弱さゆえに敵の攻撃を受けるときの激痛がひどい。それに、命中させるときに使う空中演算による脳への負荷が半端じゃない。


 言ってしまえば、全スタイルの中で最弱で燃費が悪い。だが、特殊効果ゆえに使われる場面も多い。

 例えば、今回の敵のように攻撃そのものを当てることが困難な時に。


 真司は、メイズに変わると手に持っている銃を変形させた。

 通常状態よりはるかに大きい銃の完成だ。


 「行くぜ青龍」

 「ああ、早く撃て。逃げられる前に」


 ズドンッ!


 重たい一撃。それが敵に向かって、弧を描いて命中する。


 「ゲボガ!?」

 「まだまだ行くぞ!」


 ドン!バン!ズガガガガガ!


 次々に命中していく弾の数々。バッタの魔物は、よけようとするためにいろいろな陰に隠れてやり過ごそうとするが、横から撃たれたりと散々だ。

 だが、魔物もこの程度では終わらない。


 自身の跳躍力を生かして、真司に向かって攻撃を仕掛けてきた。


 跳躍からの、落下時の衝撃ものせた跳び蹴り。

 悪くない手だ。だが、相手が悪かった。


 真司は、跳躍したのを確認した瞬間、彼の銃の後方につけられていたレバーを引き、エネルギーを瞬間的にためる。

 そして、トリガーを引いてそれを一気に開放する。


 「グアアアア!?」


 強力な一撃をもらった魔物は、奇声をあげながら墜落した。

 しかし、やはりというか空が割れてしまったのだった。

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