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救世のディアフトライ  作者: 波多見錘


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THE MEDAL

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 プールサイドに立つ真司の体は、無駄のない筋肉がついていた。ボディビルダーの人たちを貶す意図はないが、彼の体は魅せるものというよりも実用性に富んだ筋肉で、はたから見るとあまり筋肉が多いようには見えない。そして、彼の体の傷は跡形もなく消滅していた。


 「あ、私の言った通りにしたのね」

 「さすがに傷だらけの体じゃ、みんなびっくりするだろ?」

 「それを言ったのは私だけどね」


 時刻は遡って、昨日の夜。

 お好み焼き屋で真司の元顧問に会った日の夜のことだ。


 アリスは思い出したように真司に聞く。


 「そういえば、体中にある傷はどうするの?」

 「ん……?別にどうもする気はないけど」

 「ダメでしょ―――一介の学生でしかないあなたの体にあんな傷があったら、なにごとかと思うでしょ!」

 「まあそれもそうだけど……」

 「日本じゃタトゥーがあるだけでプールに入れないんでしょ?なら、あんな歴戦の傷なんて」

 「歴戦って言うほどじゃ……」

 「ごちゃごちゃ言わないで!青龍に頼めば消せるんでしょ?―――ほら!青龍、出てきなさい!」

 「そんなに騒がなくても聞こえているぞ」


 そう言いながら青龍は姿を現す。

 しかし、変身以外で彼が真司の前に姿を現すのは久しぶりだった。


 「最近外に出てこないな」

 「我は空気の読める魔物だ。魔物が出てこない限り、お前たちの仲を害するような真似はしない」

 「本音は?」

 「被害がデカすぎて、修復にかなりの魔力を使って疲れているのだ。頼むから要件なら早くしてくれ」

 「―――だってさ」

 「わかったわ。青龍、とにかく真司の傷を全部治して!」

 「わかった―――古傷も多いから、今すぐに全部は消えないと思うが、明日の授業までには消えるから安心しておけ」


 アリスにそう伝えると、青龍は真司の周りをぐるっと一周回り、そのまま消えていく。すると、少しずつではあるが、出血を止めただけの彼の傷が次々となにもなかったかのように消えていく。


 その絵面のシュールさといったら言葉にできないもので、真司は何とも言えない表情でそれを見ていた。そんな姿をアリスは勘違いしたのか口を開く。


 「寂しいの?」

 「いや、そんなことは……」

 「前の傷は男の勲章って言うけど、やっぱり私から見たらそれだけその人が命の淵に立たされた証拠でもあるの。だから、人によってはカッコいいのかもしれないけど、私にとっては不安な気持ちにしかならないの―――だから、私は真司の傷をできるだけ見たくないよ」

 「いや、男の勲章なんて思ったことないぞ?」

 「ふぇ!?」

 「傷ついた分、もう一度開くのが怖い場所が増えるだけだし、さしていいことなんてない。それでも俺が傷を残したのは、アリスや美穂―――大勢の人が戦いの被害で失った元の生活に戻れるように青龍に主婦くするようにしてるからだ。町の修復に使って、からからの魔力で回復してもらうから、傷塞ぐだけで終わらせるのが一番効率的なんだ」

 「くっ……真面目ぶった私がバカみたいじゃない―――でも、私の想像した姿よりずっとずーっと、カッコよくて安心したわ」

 「ふっ、惚れ直したか?」

 「……前言撤回したいわ」


 そんなやり取りがあった昨夜から、いの一番にプールサイドに出た真司の隣にアリスはやってきた。

 彼女はちょこんと彼の隣に座ると、寂しそうに言った。


 「私、真司の彼女なの」

 「そうだな」

 「そのせいで、私みんなから怖がられたり変人扱いされたりで友達いないの」

 「みたいだな」

 「前は同性の友達くらいいたんだけどなあ……」

 「英語の授業で無双すれば?多少は英語教えてほしいとかで人気者になれるんじゃないか?」

 「そうじゃないわよ。プールの授業は男女混合とはいえ、2人一組でやるものでしょ?」

 「そうだな。去年もおととしも男女ペアは数組いたな」

 「どうせ真司もボッチでしょ?」

 「―――はぁ……一緒に組むか?」

 「いいわよ。この私が組んであげるわ」

 「なんで偉そうになる……」


 真司にペアを組んでもら事になったアリスは、実際にはしないが本当にガッツポーズをしたいほど喜んだ。多少無理やりとはいえ、彼自身から誘ってもらえたのが嬉しかったのだ。

 いつもは攻め姿勢なのだが、こういうふとした時にしてもらいたい欲があるのは悪いことではない。誰にだってそういう時はあるものだ。


 「真司、どうかしら?」

 「どうって、スク水を見てどうしろと?」

 「日本人ってこれで興奮するんじゃないの?パパはママにこんな格好させてたけど……」

 「しーっ!それ両親の触れちゃいけないやつ!それに、今のやつなんか―――」

 「それにしても、私がアニメで見たものと少し形が違うのよねえ……」

 「お前の日本知識のリソースはアニメだったか……道理でたまに変なこと言うと思ったよ」


 国外の人が日本を知るためにアニメを見る。それはよくあることでもあり、たまにそう言った方酔った知識のまま訪れる者も少なくない。

 まさかアリスもその一人だと真司は考えていなかったようで、ギャップに犯されていた。


 彼女の話を聞いていると、変なファンタジーではなく、恋愛ものだったおかげでダメージはあらかた少なくて済んだが、それでもたまに変な方向に知識が偏っている傾向がみられることが分かった。


 それがまさかプールの授業中―――いや、始まる前に発覚するとは思っていなかった。


 「ていうか、このスク水じゃポロリは無理じゃない?」

 「それはたぶん旧スク水だ。なぜそう言うのしか見てないんだこいつは……」

 「へー、今のはできないのね……」

 「待って、その言い方だとするつもりみたいに聞こえる」

 「あら?私は真司の前でならたとえひん剥かれても―――」

 「もう一旦口閉じろ!」


 彼らがそんなやり取りをしている間、誰も見ていないのが幸いしたのだろう。この二人の会話の内容を聞いているものなど誰もいなかったのが救いだ。しかし、そう思っていた真司の考えを打ち砕くようにそれを見ている人物が一人だけいた。


 「……真司、話してくれないなら自分で確かめるよ」


 ―――そう呟きながら彼らを見つめ、探ろうとするその人物とは唯咲美穂。アリスの言葉によって真司に疑念を抱いてしまった人物。そして、彼のことをアリスの次に想い、彼と同じくらい真司を大事に思っている幼馴染に目をつけられてしまっていた。


 「唯咲……まだ真司のこと……」


 と、その裏で少し違う予想をしてしまう加藤もいた。

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