THE TRUTH
翌日、週明けの月曜日に俺は水着をもって学校に登校していた。
今日は本当に高校1年以来に水の中に入る。―――もちろん水泳目的だ。揚げ足取って、じゃあ風呂入ってないんだとアホなことを抜かす奴らはいないとは思うが。
そんな真司はやはりアリスと並んで歩く。
昨日の一件で少し気持ちが軽くなったのか、真司の表情はいつもより明るかった。
「そんなに水泳が楽しみなの?」
「まあ、競技としては諦めたけど、遊び程度に泳ぐのはまだまだ好きだからな」
「ふーん……私と比べたら?」
「なんだその質問―――まあ、即答でアリスだよ」
「そう、嬉しいわね」
「嬉しいのか?」
真司の言葉にアリスは頬を緩ませる。発言はメンヘラのそれだが、真司が気にしていないのでここに悪はない。
だが、真司の家から通学路を歩くということは、当然家が近い人物と鉢合わせる可能性もあり……
「し、真司……」
「っ、美穂……」
若干歩くのが早い二人は、比較的歩くのが遅い美穂に追いついてしまう形になり、偶然鉢合わせてしまう。
3人の中に若干気まずい雰囲気が流れるが、美穂がそれを変えようと真司のことを見るが、彼の手に持っていたものが目に入ると一変した。
「水着……す、水泳部に戻ってきてくれるの?」
「いや、もう戻る気はない」
「そ、そう……そう、だよね。私、真司にひどいことしたもんね。たぶん、今日の体育のためでしょ?」
「どうした?なんかあったのか?」
「ううん……お母さんがね、真司はちゃんと前に進もうとしてるから邪魔しないの、って言われちゃって……」
「なんか聞いたのか?」
「……?私が真司に嫌われたから、諦めなさいって」
「嫌ってなんかないわよ」
力なく真司に言う美穂にそう言ったのは、意外にもアリスだった。
二人の関係性を深く知っているわけではない彼女は、今までのやり取りに口は出さなかった。しかし、真司が美穂のことを嫌ったという言葉は容認できなかった。
彼が誰のために戦うことを―――命を捨てる選択を取ったのかを知っていたから。
「あなたのお母さんがどう伝えたのかは知らない。でも、真司はあなたのことを嫌ったりなんかしない!こいつにとってあなたは―――大切な幼馴染なのよ!」
「でもっ!私は……真司と幼馴染以上の関係だと思ってた……ずっと一緒で、好きって言いあえるようになって―――なのに!私が……私が真司を追い詰めて……!」
「それはそうかもしれない!でも、真司が水泳部をやめたのは―――」
「アリスっ!」
「―――っ!?し、真司?」
「喋り過ぎだ」
アリスが本当のことを口走りそうになった瞬間、真司がそれを制した。
彼的にはそこまで威圧したような気はなかったのだが、アリスがヒュン!と怯えてしまう。玉があったら縮んでいただろう。
「真司が部活をやめたのは、なに?なにを言おうとしたの?」
「くっ、忘れなさい」
「真司、答えて!なんで水泳部を!」
「ちっ、事故のせいだよ。お前は関係ない」
「また嘘なの?ねえ、本当のこと言ってよ……せめて、相談に乗らせてよ」
「―――悪いけど、学校に遅れるから先に行く」
「あ、待って!」
真司は吐き捨てるように言葉を言うと、足早にアリスの手を握って歩き出す。
表情には出ていないが、彼の背中には怒気に似た雰囲気が出ていた。
「そ、その……真司、ごめんなさい」
「まあ、喋り過ぎだ。俺のことを第一に思ってくれるのはいいけど、アリスは突っ走り過ぎなところがある。そんなんだとモテないぞ」
「そ、それは悪かったけど……私、真司以外に好かれる気ないわよ」
「はぁ……まあいいか。ほら、学校行くぞ」
「うん……」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「真司……」
二人が去った後、美穂はその場に取り残されていた。
その理由はほかでもないアリスの言葉だった。
彼女の言った言葉―――水泳部をやめたのは。の後。それが彼女にとって一番知りたいことだった。
自身の母に言われて、自分が真司を追い詰めて、事故をきっかけに部を退部させた。
それが事の真実だとほんの少し前まで思っていた。
だが、聞いているとそれは違うらしい。
しかし、その理由はどれだけ考えてもわからない。
確かに真司は憔悴していた。事故によってまともに体を動かせない期間もあった。スランプもあって部活に対して不真面目になったせいで、ほかの部員からは厄介扱いされ、私からも精神を追い詰められることになった。それが真意にしか見えない。
でも、彼女が思い返すと、気になることがあった。
(そういえば、真司が部をやめる前日は辛そうな顔なんてしてなかった……でも、なんで?)
彼は退部寸前、誰に何を言われても響かない様子だった。
それまではなにかを言われるたびに、「お前には関係のないことだ」と一刀両断してプールサイドの雰囲気を悪くしていたのに、部にいた最終日は、彼は誰に何を言われても何も言わなかった。
ただ、プールの水の波を見つめるだけで何も言わなかった。
まるで、なにかの決意をしたかのように。
それに気付くまでに、美穂はそんなに時間を費やさなかった。
なぜかって?それは相手が彼女の10年以上も片思いし続けた幼馴染だからだ。彼のことは何でも知っているし、どんなことも覚えてる。
だから、真司のことでいっぱいいっぱいだったときよりふかんしてみることができる今だから言える。
アリスの言う通り、もしかしたら真司が水泳をやめた理由はほかにもあるのかもしれない。
追い詰めた自分が思うことでもないが、彼女にとっては希望的観測でもある。だが、だからこそ辛くなる。なぜ自分は彼の隣にいることができないのか。
大好きな彼と一緒になれることを何度想像したかわからない。
いろんなシチュエーションを想像した。いろんな幸せの形を妄想した。
なのに、彼の隣にいるのはぽっと出の転校生美少女。
許せない、だけど、彼が選んだ人だからいい人なのだろう、と納得してしまう自分もいる。
そして彼女は知っている。
おそらく真司は、アリスのことを大事にし続ける。おそらく小さな衝突はあれど、一生一緒にいるだろうことはわかっていた。
しかし、反面わかっていないこともあった。
真司とアリスに訪れる残酷な運命を。そして、それを知りながら一緒にいる意味を。




