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救世のディアフトライ  作者: 波多見錘


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THE SECRET

 「真司、久しぶりだな!水泳部にいないから、中々会えなくて……どうした?彼女の陰に隠れて」


 真司の反応の違いに敏感に反応したアリスが、彼と顧問の間を隔てるように体を持ってきた。彼女には目の前のお好み焼きが冷めてしまうことなど、もう気にしていない様子だった。


 しかし、そんな状況に周りは戸惑いを覚えるだけだ。


 初めて店にやってきた客に、今日初めてやってきた常連の彼女が射殺さんばかりの視線を向けているのだから。


 だが、当の本人である顧問はなんだか察したような目を向け、彼女の隣に座って話始める。


 「真司……水泳、やめたんだってな」

 「はい……」

 「なんでなんだ?お前なら、全国も―――なんだったらプロだって夢じゃなかったはずだ」

 「もう、才能がないんですよ。限界ってことですよ」

 「スランプか……俺にもそういう時期はあった。それを乗り越えきれずに夢を半ば諦めてしまったやつも知ってる」

 「すいません……」


 真司はアリスが初めて会った時の感じがあった。アリスの耳には、追い詰められて苦しんでいる者の声に聞こえてしまう。彼女にとってはそれが不快でたまらなかった。


 「真司、出ましょ……」


 そう言うと彼女はガッと彼の腕をつかんで退店しようとする。しかし、真司はその場から動こうとしない。なぜ苦しいのにいようとするのか。なぜ放そうとするのか理解ができない。逃げたいのなら逃げる。それが悪いことじゃないはずなのに。


 「アリス―――逃げてばっかりじゃなくて、ちゃんと向き合わないと」

 「……大丈夫なの?」

 「ああ……問題ない」

 「ダメだと思ったら今度こそ会計して店を出るからね」

 「わかった……」


 そう言うとアリスは目の前のお好み焼きを食べるのを再開する。だが、注意と視線は真司と彼の元顧問に向いていた。


 「もう水泳はやらないのか?」

 「もう、今からじゃなんの意味もないので」

 「今からでも、お前ならなんとかなると思うんだけどな」

 「もう、どうしようもないですよ。夢は夢のまま終わらせた方が幸せだったんですよ」

 「なんてな―――お前は全然本当のこと言わないんだな。事故のこと知らないわけがないだろ?」

 「―――笑えないですね」

 「そう、笑えない。助けるために事故って体の自由が利かなくなって、それでもマネージャーでもいいから水泳にかかわってほしい。少しでいいから泳いでほしい。アホかって話だな」


 元顧問は全部知っていた。

 彼がスランプに陥ってしまっていたこと。そして、すぐに事故に遭い、運動すらままならなくなったこと。そして、彼が幼馴染とライバルと一緒にいることがどれだけ苦痛になっているのか。


 だが肝心のところは知らない。


 「でも、授業を普通にサボるような奴じゃなかったはずなんだが。なにがあった?」

 「ただ不良ってだけですよ」

 「ないな。お前の家は厳しいし、お前もそれが正しいと思っていた。そういう馬鹿真面目な気質のお前はグレても授業には出るはずだ。ってことは、何かしらあったんだろ?」

 「ははっ、高校の水泳部じゃそんなことは一言も言われませんでしたけどね」

 「バカが―――お前の指導をこっちは3年もやってきたんだ。お前のことはお前より知ってるつもりだ」

 「それは―――かえって気持ち悪いですよ」

 「んだと!いつの間にこんな生意気になったんだ!」


 話していると真司に変化があった。

 表情はまだ笑っていないが、口角が上がっていた。その変化をアリスが見逃すはずなかった。それに、元顧問のする話は全て真司を理解している者の言葉だった。


 決して水泳をやめたことを責め立てたりしない。それが彼女の元顧問への評価を上げるには十分な理由だった。


 「まあ……ちゃんとした理由があるのなら、お前なりに生きればいいさ。もう、隣に支えてくれる人がいるんだろう?」

 「はい……」

 「大事にしろよ。さっきからお前の顔色伺って、気遣って―――こんなお前に優しい女なんか母親くらいなんだから大事にしろよ」

 「言われなくてもそうするつもりです……」


 そう真司が言うと、アリスは少し恥ずかしいのか頬を赤らめながら俯く。


 「ほら、注文のお好み焼きだ」

 「お、ありがとな。うまそうだな!」

 「先生、ありがとうございます……」

 「ん……?俺はなにもしてないぞ?」

 「いや、今まで指導してくれてありがとうございました」

 「ふっ……そういえば最近体育の授業に出たんだってな。明日の水泳の授業出るのか?」

 「そのつもりです……」

 「じゃあ、ちょっと無茶させちゃおうかな」

 「やっぱさっきの言葉は撤回させてください」

 「そんなこと言うなよー!俺と真司の仲だろ?」

 「うるさいわ!」


 周りは事故のことについてはうわさでは聞いていたが、詳しいことを知らないためもう少し深掘りしたかったが、二人の雰囲気に水を差すことも、真司の気を悪くすることもしたくないために誰も聞かない。

 アリスはちょっと置いていかれ気味だったが、それでも真司が笑えてるのならそれでいいと割り切っていた。


 その後、お好み焼きを全員食べ切り、会計を済ませた後、顧問は二人とは別方向に歩いていく。


 「すっきりしたって感じね」

 「そうだな……少なからず指導してくれた先生に顔向けできないって気持ちがあったから、ちょっと気が楽になったな」

 「そうなのね。まあ、あなたが今度さっきみたいな顔したら容赦なく連れ出すからね。覚悟しなさい」

 「ははっ、頼りにしてるよ」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「0号って上が言うような悪人なんですかね?」

 「違うでしょ―――あなたは0号を味方だともう思ってるんでしょ?」

 「……渡辺さんはどうおもいますか?」


 そう聞かれて渡辺は考えるそぶりを見せる。

 それは彼女にも判断しかねるところがあったのだろう。


 「そうね。これまでは味方でなくとも敵とは言えない、程度のものだったわ。でも」

 「でも?」

 「今回の一件で、彼は人間に近いなにか。もしくは、創作物のような人が変身している可能性があるわ」

 「それはなぜですか?」

 「伊集院君もわかってるでしょ?0号とのコミュニケーションが取れたということは」

 「そうですね。彼は確実に日本語を話していましたし、僕たちが戦いやすいようにも合わせてくれた」

 「ただ、最後のあれは見逃せない。まるで人が変わったように雄たけびを上げて、周囲の被害を考えない火力での攻撃―――そして、いつの間にかの撤退」

 「ですが、あれがなければ街そのものが終わっていた可能性も……」

 「だから、敵なのか味方なのかわからにところもあるのよ。本当に人が変わったようだったわ―――あ、あとね……」


 話しながらなにかを思い出したのか、渡辺は先の戦闘で使われた武器を取り出す。


 それは真司に奪われて使用された武器―――つまり、唯一0号の謎に近づくものなのだが……


 「これの点検を行ったところ、異常は一つもなかった」

 「え!?何でですか!これは0号が変形させて……!」

 「そう、おかしいのよ。信号もロストするほど違うものにされたのに、破損どころか傷一つない」

 「どういうことなんですかね……」


 彼ら二人の0号への疑念と謎は深まりばかりだ。

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