THE UNKNOWN
翌日―――真司がアリスに卵焼きを作ってもらった時間から少し経過して、ダラダラと互いに抱きしめあって時間を過ぎていったころ。
時計の針はいつの間にか12時を指しており、彼らはもう昼なのかと確認する。
「腹減ったな……」
「そうね……最後の食べたのが、あれじゃあね……」
最後の食事は夜中の卵焼きだけ。そうなると、朝食をちゃんと食べずに迎える昼は何ともきついものだ。
しかし、今日に限って冷蔵庫に材料もないうえに、明音も休日出勤のせいでいない。
リビングには昼ご飯作れなくて申し訳ないという紙と、二人分の食事代であろう5000円札が置いてあった。
なので、真司たちは昼ごはんは外食にしようと、家を出た。
自宅の外に出た瞬間、彼らはお互いの手を絡ませる。
家の中で抱き合っていたら二人は、外にいてもお互いの肌の温度を感じられるようにしたいだけのようだ。
「そういえばアリスはなにが食べたい?」
「そうね……この間はラーメンと餃子とチャーハンを食べたし―――あ、あれよ。お好み焼きを食べたいわ!」
「……?そんなのでいいのか?5000円ならもうちょっと贅沢できるぞ?」
「いいのよ。正直、真司と食べれるのならなんでもいいわ」
「そうか。なら、たまに母さんと食いに行く店―――たしかランチとかやってたはずだけど……」
そこからしばらくして、二人はとあるお好み焼き屋につく。
個人経営なのでこじんまりしているが、近所の人見知りがよく使っているので、彼にも見知った顔はいくつかあった。
「お!明音さんのとこの坊主じゃねえか!久しぶりだな!」
「あ、お久しぶりです……」
そう言って真司は話しかけてきた中年のおじさんに会釈をする。
しかし、真司は気まずそうにしているのでアリスは小さい声で耳打ちをする。
「(誰?)」
「(すっごい悪いんだけどさ。わかんねえんだよ)」
「(えぇ……むこう、めっちゃ微笑んできてるわよ)」
「(とりあえず話だけ合わせときゃなんとかなるだろ)」
「(そうね。これが処世術ってやつね)」
「(こんなところで使うもんじゃねえけどな)」
話し合いながら二人はカウンター席に座る。とは言っても、ここは店主と向かい合うカウンター席しかないのだが。
着席し一息ついたところに、店主が声をかけてくる。
「明音の坊ちゃん、注文はどうするんだい?」
「そろそろその呼び方やめません?真司ですよ、真司!」
「へいへい―――そっちの嬢ちゃんは?」
「え、えっと……」
「ああ、こいつはアメリカから来たばっかなんだ。オーソドックスにお好み焼きを頼む」
「坊ちゃんは?」
「いつもの」
「あいよ!」
そう言って店主はお好み焼きを順番に作り始める。
こうして待つ時間ができ、暇なひと時ができるかと思えばそんなことはなかった。
「嬢ちゃん、坊の彼女か?」
「あ、はい……一応、彼の彼女です」
「おっさん、アリスが怖がってるだろ」
「お!?坊が言うようになったじゃねえか!」
ガハハと笑いながら真司に話しかけたおじさんがバシバシと彼の肩をたたく。
内心真司は対応を間違えたと思うが、そんなに痛くもないので好きにさせていた。しかし―――
ガッと真司を叩く手を掴む者がいた。
それが誰かと聞かれれば、アリスとしか答えようもなかった。
「あ、あの―――叩くの、やめてもらえますか?」
「じ、嬢ちゃん?」
「真司のこと、叩くのやめてもらえますか?」
「お、おう―――坊……お前の彼女、過保護すぎやしねえか?」
「んなことねえよ……」
真司はアリスがなぜこんな行動をとったのか知っている。まあ、過保護ということはわからなくもないが、明朝に傷の話をしたばかり、やはりそういう行動が敏感に思うところがあるのだろう。
しかし、それは真司の隣に座る者には伝わらない。
「にしても、久しぶりだな。中学以来か?今でも水泳はやってんのか?」
「え?たまにここに来るって……」
「中学時代はな。大会でいい結果残したとか言って、ここによく来てたよ。なんだ?この子にカッコつけたのか?」
「いや、たまに行ってたのは間違ってないだろ。あと、水泳はやめた」
「……そうか。あの時のお前の笑顔を見れないと思うと、どっか寂しいけど、それは俺の口出しすることじゃねえしな。あいよ、これが嬢ちゃんの分のお好み焼きだ」
そう言って店主はアリスに注文された品を出す。
彼女は目の前に出された初めて生で見るお好み焼きにくぎ付けだった。
「これが、お好み焼き?ずいぶんと大きいわね」
「食いきれなかったら言うんだぞ。俺が食うから」
「大丈夫よ!これでも私、食べる方なんだから!―――いただきます!」
「―――ところで、美穂ちゃんはどうしたんだ?俺は坊が付き合うのなら美穂ちゃんだと思ってたんだが……」
アリスが食べようとした瞬間、店長によって投下された爆弾で彼女の箸が止まる。
明らかに地雷を踏みぬいてしまったことを理解した店長は、驚く。
「まさか、喧嘩してそれっきりなのか?」
「そんなわけ……」
「店長、その話はしないで上げてください。真司だって、辛いこともあるんです」
「そ、そうか……深入りはしねえ。でも、仲直りは近いうちにしろよ?」
「はい……」
真司が力なく答えると、店長は真司の注文品を出す。
明太子ソースが中に入れられているもの。真司が好んでやまないものだ。
ひとたび口に含めば、彼の曇った顔が明るくなっていく。
それだけおいしいものは人を笑顔にできるものだ。とは言うが、店長の思う笑顔と違って、今の真司のそれには少し陰りがあった。
そんな彼の3年の変化に少し寂しさを覚えたが、これからの彼が今いる彼女と笑える姿を見せてくれればそれでいいかと考える。しかし、彼は―――いや、彼らは知らない。真司がもうすぐ死ぬことを。だからこそ、将来とものを言えるのだ。
「真司、おいしい?」
「ああ、おいしいよ。いつもの味だ」
「私にも一口ちょうだい?」
「ああ……あーん」
「あーん―――ふふっ、やっぱり真司は私に甘いわね」
「そういうのじゃねえだろ……」
二人でイチャつき始めたところ、ようやく店の雰囲気が戻りかけていたころ。
ガラガラガラ
「店長、ここっていまやってる?」
「らっしゃい!やってるよ!」
「……っ!?」
「ん……!?あ、真司じゃねえか!久しぶりだな!」
中学時代の顧問に遭遇し、またも真司がいづらそうな表情に変わるのだった。




