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救世のディアフトライ  作者: 波多見錘


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THE VOID MOTHER

 戦いが終わった後、真司は倒れるように自身のベッドで眠る。

 意識が消えゆく中、彼が感じるものはなにもなかった。


 先の戦闘で力を出し切ってしまった。

 緊急事態だからと伊集院を守るために出した暴走状態の力。その効果は確かなもので、見事に攻撃を受け止めて、反撃の一手にも出ることができた。しかし、その中で彼はすべての力を放出した。


 そのために、魔物が逃げた後になにもできずに倒れこんでしまったのだ。


 そして消滅した後に送還される先は自宅のベッドだ。

 そのまま血まみれのままベッドの上に倒れこむ。もう、シーツが血まみれになるとか気にしている場合ではなかった。

 体のあらゆる各部が痛い。血が噴き出して、貧血になり、思考が続かない頭で精一杯考える。


 (あ、そうだ……学校に行かないと……荷物が……)


 そんな重要でもないことを考えながら彼は目を瞑る。死んだように入眠した彼は、近くで見なければ死体にしか見えなかった。


 ここまで彼が消耗するのは“最近”では珍しいことではなくなった。

 最近まで周囲の人物にバレていなかったのは、彼が自己修復可能な状態までしか怪我をしなかったからだ。たまに強い敵と邂逅して、大けがをすることがあったが、所詮2年の間で2,3回程度。その時も、部屋に閉じこもったため、学校で何かあったのかと思われるくらいで、バレるようなことにつながることはなかった。


 しかし、さすがに最近は瀕死の重傷レベルのケガが多い。青龍の治癒の術式がなければとっくの昔に死んでいるようなレベルのものが、ここ数か月で頻繁に起きている。


 これでは、バレるのは時間の問題だったかもしれない。

 そして、今の怪我の状態を見るに、3日は学校にいけない。出席単位ギリギリの彼にとってはかなりの痛手となる。


 戦いに勝てるのかというよりも、シングルマザーの母が一生懸命働いて出してくれた学費を卒業できずに無駄にしてしまうのか。そちらの方が、真司にとって大事な問題なのかもしれない。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「ただいまー」

 「あ、おかえりー、って真司はどうしたんだい?」

 「―――家に帰ってきてないですか?」

 「いや、あいつの姿はまだ見てないな」

 「今日の昼休みに戦いに行ったんですけど、戻ってきてないですか?」

 「あー、もしかしたら寝てるのかもな。あいつ先頭から帰るときは、瞬間移動か何かして戻ってくるときがあるんだよ。荷物取りに学校に戻ってないってことは、真司の部屋で寝てるのかも」


 そう言って明音はアリスを上げる。

 最近はすっかり、アリスがいることも不思議ではなくなった。


 息子の恋人という存在だということが、明音にとって嬉しいものなのだろう。最近はアリスと明音で一緒におしゃべりすることも少なくない。

 最初はものすごいハーフ美人としか思っていなかったのだが、日本語も流暢で真司のこと大好きで、色々と変な発言はあるけれど、彼の母として理想の恋人だった。


 天才が故に、アリスは思ったことと感じたことを、自分の言葉で口に出す。そんな裏表のなさも明音に響いた。


 そう、アリスは真司にとっても明音にとっても理想の女性と言える存在だ。


 そんな理想の将来の娘を手に入れた明音はアリスが真司の部屋に行くために階段を上がっていったのを確認すると、夕飯の準備を再開する。すると―――


 「きゃあああああああ!?」

 「っ!?な、なに!?」


 2階から突然響くアリスの悲鳴。近所に響き渡るような甲高い声だったが、そんなこと気にせずに明音は真司の部屋に飛び込む。

 すると、そこにいたのは―――


 「真司!ねえ真司ってば!」


 ゆさゆさと自身の恋人の体を泣きそうな顔で揺らしているアリスと血まみれでベッドを赤く染めながら目を閉じている真司の姿があった。

 そんな信じられない光景を目の当たりにした明音は、「あぁ……」と言いながら意識を手放してしまう。


 「へっ!?お、お義母さん!?―――と、とにかく真司は……」


 いきなり明音が倒れたことでパニックになりそうな彼女だったが、深呼吸をして落ち着きを取り戻すと、自身の耳を彼の胸に当てる。

 すると、しっかりとした鼓動が聞こえる。


 ドクドクといつも彼に抱きしめられたときに聞こえる心音と同じものが聞こえる。


 「よ、よかった……生きてる……」


 安堵からかアリスはヘタッとその場に座り込む。そんな彼女の目尻には涙が溜まっていた。

 まだ自分の卵焼きも満足に食べさせられてないのに、真司に死なれるなんて悲しすぎる。と、訴えたいようだ。

 寝ている彼に色々と文句を言いたい気持ちはあったが、それよりも息子の悲惨な姿を見て失神してしまった明音を彼女の寝室に運んでいく。


 部屋自体はすぐそこにあったので、あまり力のないアリスでも大した苦労をせずに運べた。

 部屋の中を見渡すと、シンプルという言葉が似合うような部屋だった。


 特にこれと言ったインテリアはなく、本棚とでっかいPCとそのモニターとキーボードを置くための机といすがあるだけ。人としては十分な生活ができるレベルだが、それ以上がない。アリスは真司に母は仕事人間だけど家事までするスーパーウーマンと聞いていたが、ここまで無趣味だとは思っていなかった。


 ふと、明音を寝かせた後にある写真が目に入る。


 「これは……?」


 コトッとそれを持ち上げる。

 手に持ったものは唯一部屋にあった飾り―――写真立てだった。


 その中には明音と真司と思われる赤ん坊が抱かれている。


 「こいつが真司?可愛いー!」


 そう言ってごまかそうとするが、どうしても写真のもう半分が気になってしまう。

 写真は一般的なサイズのもの。そしてその写真の半分には、明音と真司(赤ん坊)。そしてもう半分はズタズタに引き裂かれていた。


 「これは……人?もしかして、お義母さんの元旦那さん?」


 アリスは一応真司から話だけは聞いていた。

 明音と仲良くするにあたって、彼の父の話だけはしてはならないことを。

 今は乗り越えているが、ずいぶん前に離婚したらしいことも。離婚の原因は元旦那の浮気らしいことも。


 今は何でもないようにしているのは、真司が明音にこれと言ったひどい言葉を浴びせたり反抗したりしなかったため。明音が元ヤンであったりして、少々の非行を許せる器があったこと。色々あったが、浮気が発覚し離婚が成立した時は、真司の前で見せないながらも、本当に元旦那を憎んでいた。


 そんなような話をアリスは全部聞いている。そして、手に取った写真からすべてを読み取れる。そう考えると、もしかしたら明音の母は、これが原因で心のどこかが空虚になって、その心が部屋の様相に現れてしまっているのではないかと考える。


 だが―――


 「それにしても、お義母さん変わらないわね―――10年くらい前の写真よね?ていうか、写真の中のお義母さんもすっごく若いのね」


 一般的な家庭なら1児の母で高校3年の子を持つのなら、だいたい40代くらいでもおかしくない。だというのに、真司の母は写真でも今でもアラフォーとは思えないくらいに若く見える。


 今度若さの秘訣はなにかを聞いてみようと決心するアリスだった。

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