THE DOUBLE EDGE
名前なんて考えたことなかった。
伊集院にどう呼べばいいのか迷われたとき、そう思った。
自分をなんて呼んでほしいかなんて一度も考えてこなかった。なぜかと聞かれれば、それは真司にとって不必要なことだったから。名前なんてあっても、どのみち関係ない。名指しで否定される分苦しいだけ。
事実、彼は誰にも明かしていないが、自分につけられた0号という名で罵声を浴びせられるのは、中々来るものがあった。
だが、今回味方として呼んでもらえた気がする。それだけで彼は、少しだけ伊集院と分かり合えるような気がしてしまった。今まで一人で戦うと決めていたのに―――いや、その誓いはアリスと関係を結んだ時点で破られている。
敵はゴリラ型のビースト級。
先のエルダー級ほどではないが、力がそれにも勝るほどのものを持っていて、知能もそれなりにあり、近接戦の組み立てもうまい。
遠距離でちまちまと削る戦いに持ち込みたいが、力のわりに素早いためそれも難しい。
今の彼らの勝ち筋は、なんとしてでも魔物に対応し、一瞬の隙に叩き込む以外ない。
それは二人の共通認識のようで、彼らの動きは見事にシンクロする。
「グルオオオオオオ!」
魔物は二人を仕留めようと、両腕を大きく広げてダブルラリアットの態勢で突っ込んでくる。
パワーバランスを考えれば二人を仕留めることをできない技でもない。だが、互いがしっかりと役割を果たせば―――
「ぬんっ!」
「ふんっ!」
真司は右腕と左腕の二本で、伊集院は武器一本で見事に受け止める。それでもラリアットの勢いは死なないが、地面を削りながら力強く踏み込んでようやく止める。
そのまま右腕を受け止めている伊集院が左手で、左腕を受け止めている真司が右手でそれぞれの目の前にある腕をつかむ。そうして、残った片腕で、回転しながら肘鉄を放つ。
片方だけだったら足りなかったかもしれないが、今回は二人のジャストヒット。
魔物は見事にノックバックして、完全に態勢を崩す。
そこに伊集院が携帯していた武器を振り下ろす。
何が仕込まれているのかはわからないが、相手に当たった瞬間に火花が散る。
「シッ!」
「グルオォ……!?」
人間の攻撃が効くとわかって、明らかに狼狽えるが、すぐに冷静になって後ろに下がる。
そして―――
「オレ……青龍、コロセしかイワレてない」
「喋れるのかよ。いや、ビースト級の知能ならあり得るか―――てか狙いは俺か」
「喋れる……?というか、ビースト級ってなんですか?」
今まで声を出すことがなかった魔物が初めて人語を介してくる。だが、知能が高いと言ってもこちらの人間の言葉を流暢に話せるほどではないようだ。少々イントネーションなどがおかしいところがあるが、気にすることではない。
それよりも気になる発言をした。
「俺だけを殺せと言われたのか?」
「オマエ、侵攻のショウガイ。だから、アピス様がオマエを……」
「アピスってのは知らねえが、敵ってことには変わりねえんだな?」
「オマエ、敵……コロス」
「ご苦労なこった」
伊集院は目の前の話についていけないが、魔物と真司はどんどん進んでいく。
そして、真司は伊集院の持っていた武器を奪い取る。
「借りるぞ」
「えっ!?ちょっ!」
『あー、あー、聞こえるかしら?』
「わ、渡辺さん!?」
「ああ、聞こえてるぞ」
『一応、スーツにスピーカー的な機能があったから……スピーカーはわかるかしら?』
「一般常識の現代科学くらいはわかる。なんの用だ?」
伊集院が奪われた武器を取り返そうとした瞬間、彼のスーツの外側から現場にはいない渡辺の声が聞こえてくる。
目的はまだわからないが、なんだか変身した真司に接触したいようだった。
『一般常識はわかるのね。0号、あなたはデモニアの敵?それとも私たちの敵?』
「どちらともいえる。今はあいつらの敵だが、もしお前らが俺に躊躇なく攻撃をするというのなら、俺も反撃はさせてもらう」
『……それはそうと、その武器は現状スーツを纏った人にしか使えないわ。システム的なロックがかかるのよ』
「それは気にしなくていい。お前らは、二人で話し合って援護の方法でも考えておけ」
そう言うと、話を切り上げて真司は魔物に向かっていく。
この短時間で魔物は完全に態勢を取り戻し、こちらの様子を伺っていた。突っ込んでくるのも時間の問題。ここは、話の整理をつけていない伊集院を連れていくのは、少々不安が残る。戦力が削れるのは痛手だが、まあ、今の伊集院では使い物ん位ならないということだ。
『だから聞いてないのかしら?あなたには武器は―――え?信号ロスト……?』
突然武器の信号が途絶えて驚く渡辺。その時には、真司が自身の剣に変化させていたのだった。
「じゃあ、勝負といこうか」
「オマエ、ナニガ目的……ナカマじゃないのか?」
「はっ、お前と仲間なんて反吐が出る。そんなんなら死んだほうがマシだ」
「そのチカラは魔界のもの……」
「俺はもう決めてんだ。最後には人間として死ぬって」
そう言って真司は魔物に飛び込んでいく。
しかし、今の力では倒せない。そうなればどうするか。そんなのは決まっている。周りの被害を一切考えずに行く。どうせ周りに一般人はいない。
建物は青龍の術でどうとでもなる。ここは迷わずに行くべきだ。
限界まで青龍の魔力を剣に集中させる。
この後に立てるかどうかなんて彼には関係ない。ただ目の前の敵を倒すための一撃を欲していた。
そうして剣にクリスタルをかざすと、柄を挟んで刃の反対側にも赤色の光を纏った刃が伸びて、まるで天秤刀のような形に変化する。
「はああああああああ!」
「グルオオオオオオ!」
しっかりとエネルギーをためた剣で向かってきた魔物の腹を斬る。そして、振り向きざまにも一気に振り下ろし、そのままの体勢から剣を横凪に一閃。
3本の斬撃が魔物の体を捉える。
しかし、攻撃はそこで終わることはなく、剣が纏っていた赤い光が段々とそれを握っている拳の中に入っていき、攻撃の第2段階に入る。
そうして放たれたのは、全力のストレート。絵面こそは地味だが、攻撃は魔物を貫通して、後ろの地面をえぐり、さらに建物を吹き飛ばす。
その旋律の光景を生み出した攻撃をもろに受けた魔物は、もうよろよろで戦うことは無理かと思われた。
だが、ここで終わるなら楽だった。
しかしここで空に禍々しい門が開いてしまった。




