THE OVERWHELMING POWER
「きゃあああああ!」
悲鳴を上げる一般人に向けて異形の存在が拳を振り下ろす。魔物の姿はゴリラのような姿。
人型に近いがゆえに、遠目から見ると巨大なだけの人に見えなくもなかった。
しかし、その力は絶大。
おそらくこの振り下ろされた拳がこの人間に当たってしまった暁には、綺麗な肉塊に変わってしまうことは確実だろう。
だが、その拳はその人間には当たらない。
代わりに真司が全身を使って庇っていた。
「なにしてる!早く逃げろ!」
「(コクコク!)」
目の前の情景に言葉が出せず、首を縦に振っただけで去っていく。
だが、それでいい。ここから反撃を、と思った瞬間―――
ドガッ!
「かはっ!?」
「グモオオオオオオオ!」
真司は振り下ろされた右こぶしを受け止めるのに全身を使っているので、フルスイングの左手の張り手になすすべなく吹き飛ばされる。
ものすごい勢いで吹っ飛んでいき、後ろにあった建物に叩きつけられて止まる。
砂煙を周囲に漂わせながら彼は青龍と話す。
「今の……ビースト級か」
「そうだ。奴は見てくれは力だけのように見えるが、かなり頭もいい種族だ」
「まるっきりゴリラじゃねえか……しかも、今のクリムゾンでも行けるかわかんねえぞ」
「そうだな。力だけなら魔界でも随一のものかもしれないとは言われているな」
「マジか……」
相手の力量に若干の気だるさを覚えながら真司はブラックからクリムゾンに変える。
パワー勝負ならと切り替えたものの、勝てる気がしないのは彼の杞憂なのだろうか。
「どっせえええい!」
「グルモオオオ!」
お互いに雄たけびを上げながら取っ組み合う。
最初は力が拮抗しているかと思われたが、そんなことはなかった。
段々と力の差があらわになってきて、少しずつ真司の膝が地面についてくる。
「まずい!真司、脱出しろ!」
「出来たらもうやってる!―――握力があほみたいに強すぎて、抜け出せない!」
「グモォ!」
真司が抜けられない理由を青龍に言った途端、相手の魔物は彼を引っ張り、自身は空中に跳んだ。
そして、そのまま真司が空中に滞空している間に、魔物は彼にドロップキックをお見舞いする。
またも真司は吹き飛ばされて建物に叩きつけられる。
さすがにクリムゾンとはいえ、2度も叩きつけられるのはこたえたようで、少々悶絶している。
「ごほっごほっ……!」
「大丈夫か?」
「けほっ……大丈夫な、わけねえだろ!ごほっ!」
だが、そんな彼に魔物は容赦しない。
ゆっくりと動けない真司に近づいてきて、とどめを刺そうとする。しかし、そんなところにエンジン音が聞こえてくるのがわかった。
こんな瓦礫だらけで足場もクソもない場所に誰が来ているのかと思ったら、正体はすぐに判明する。
ズガン!
エンジン音の正体はバイク。それに乗ってきたのは、先日の自爆をしようとしていたパワードスーツだった。おそらく中に人がいるのだろうが、真司はいちいちDBTのメンバーの顔と名前など覚えていない。
『いい?今度自爆しようとしたらただじゃおかないわよ』
「わかってます」
『とりあえず、上から言われてる最優先討伐対象は0号だけど……』
「現場判断で、新出のデモニアにするべきですね」
『わかったわ。カメラで見るからにゴリラね―――射撃用の武装のロックを解除。一気に畳みかけなさい!』
「了解!」
二人はそんなやりとりをすると、伊集院はすぐに行動に移る。
バイクに搭載されたロケット砲を手に取って構える。
もちろん自身の力に自身のある魔物はそんなものに臆することはなく向かってくる。
だが、それは伊集院も同じ。冷静に的を定めて、砲弾を発射する!
すさまじい反動とともに放たれるロケット砲。
弾丸のように真っすぐは進まないが、搭載された追尾機能で、完璧に魔物の胸板を捉えて爆発する。
周りの瓦礫が吹き飛ぶほどの威力。
これが兵器として流用されれば―――と、誰もが一考するだろうが、今回は緊急事態と言ってもいい。特別に許可された事案。と言えば、聞こえはいいが、兵器流用のための実験の思惑があるのは誰も否定できない。それは、伊集院も渡辺も理解している。
『弾砲命中確認……』
「まだ生きてますね……」
『そうみたいね。でも、できるだけ近接に近づかないこと。必ず一定以上の距離を取って―――』
「わかってま―――」
わかってます。そう言いかけたとき、魔物は一瞬で近接の間合いに入ってきた。
「―――す、って?」
『どうしたの?』
通信の関係で渡辺はまだ処理ができていない。だが、伊集院は本能的に理解した。
(は、はやっ!?―――てか、死ぬ……!)
一瞬の間に間合いに入られたこと。そして迫りくる拳。
そのすべてが、彼にとっての死の要素。約束が守れないと内心諦めたとき。
ズガァン!
「ぐふっ……!」
「なっ!?あなたは……!」
拳と伊集院の間に真司が入ってきた。
あまりにも突然のことで伊集院も混乱していたが、真司はそうではない。
「近接を避けようとするのはやめておけ」
「ですが……力ではかないませんよ……」
「わかってる。だが、相手があそこまで速い以上はやるしかない」
そう言いながら真司は伊集院に手を貸しながら立ち上がる。
この姿を上層部がみたらカンカンものだろうが、今の彼らには関係ない。
共通の敵を倒すにはこれしかない。
『伊集院君、近接用武装のロックを解除したわ』
「了解です」
渡辺の通信を聞いた伊集院はバイクの横に仕込まれている棒を取り外した。
そして彼が持つと、鍔から先が青く発光し始める。
『間違っても人に当てちゃだめよ。そんなことしたら、スパンって焼き切れちゃうからね』
「わかってますって。武装の説明は、事前に受けてますから」
そんな会話をしてから伊集院はバイクを離れて真司の隣に来る。
「一緒に戦いましょう。―――えーっと」
「めんどいから0号でいい」
「では、行きましょう、0号さん!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
屋上から去っていった臨時講師の男は少しだけ驚いていた。
屋上に真司が向かうのを見たと聞いたときは、彼の幼馴染の子と一緒にいるのかと思ったが、屋上には真司はおらず、代わりにかなりの美人の少女がいた。
かなりしっかり目に威嚇されていたから、自分のことは彼から聞いているのだろうと考えるが、そんなことよりも、唯咲美穂と彼がくっついていないことに驚いた。
中学の時の交友を見ている感じでは、どんな喧嘩をしても仲直りしそうなほどだったのに、いつの間にか一緒にいなくなっている。
彼がどんな女性を選ぼうと勝手だが、中学の真司しか知らない男にとって、少しだけ驚きで、少しだけ寂しいものだった。




