表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
救世のディアフトライ  作者: 波多見錘


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

78/214

THE GIANT KILLING

 今日の体育の授業はバスケだった。

 水泳をやろうにも、いまだ水温がみたっておらずプール開きすら行われていない。


 そして、その体育の授業ではクラスの全員が驚くべき光景を目撃し、絶句していた。


 「お、おい、あれ……」

 「ああ、なんであいつが……」


 授業前に準備運動は終わらせておけという体育教師―――川峯の言う通りに、全員が授業開始前に集まってやっているのだが、その中には普段そこには入らない人物がいた。

 準備運動は見学の者はやらなくてよい。なので、今回も彼は準備運動に参加するはずがなかった。


 しかし、いつも見学の彼は1年生の最初の最初に見せた姿以降、久しぶりに参加していた。

 クラス内でも、その姿を見たことがあるのは数人だけ。そして、彼の運動神経の情報などとうの昔に正との間では語られなくなった。


 うっすらと覚えている生徒はいるようだが、この場にいる誰もは、前のように動けるはずがないとバカにしていた。


 『本当にやるのか?』

 (当たり前だ。別に体育が嫌いってわけじゃなかったんだ。本当はやりたい気持ちだってあったんだよ。それにな―――)


 そう青龍と会話をしながら彼は体育館のもう半分のほうを見る。

 今回の体育は、体育館の半面ずつ男女が使用することになっている。今回はたまたま競技が男子はバスケ、女子はバドミントンと必修競技の使用場所がかぶってしまった。


 ということは、彼の視線の先には彼の恋人がいる。


 そうしていると、見られていることに気付いたアリスは彼にウインクを返す。

 色々あってクラスの女子から敬遠されているされている彼女は、クラスでこれまた目立たない女子とペアを組んでいて、相手の女子がどうしたらいいのかおろおろしていた。


 (ははっ、あんま迷惑かけんじゃねえよ)


 そして、話は今朝に巻き戻る。


 ―――


 「あれ?真司、今日は体育だろ」

 「あー、そうだな」

 「生徒手帳、書かなくていいのか?」

 「それなんだけどな―――もう、今日から書かなくていいよ」

 「は?いや、お前、ケガで休んで……」

 「もう、その必要がない。色々あって加藤と美穂にバレた。芋づる式にバレてくる可能性だってあるし、そうでなくても、出たほうが成績がいいのは確かだから」


 そう言って彼は母親の申し出を断る。

 いつもなら、ここで生徒手帳に体育欠席の旨を記載するのだが、ここ数年初めてそれを断られた。母として嬉しいが、なんだか寂しくもある。そんな複雑な心境を抱えながら、彼女は彼を送り出した。


 「ったく、御託ばっかり並べて……アリスちゃんにいいとこ見せたいなら、そう言えってんだよ」


 さすがは彼の母。誰よりも長くいて、誰よりも彼を愛する時間が多かっただけのことはある。

 言わなくても、すべて筒抜けのようだった。


 ―――


 授業が始まり、川峯がやって来るなり真司が参加していることに驚いた。


 「と、十神!?―――お前、授業に出るのか?」

 「はい」

 「そ、そうか……無理はするなよ?」

 「大丈夫ですよ」

 「俺は嫌だからな。体育に出したら、ただでさえとんでもない大けがだったお前が再起不能になんてなったら」

 「ははっ、考えすぎですよ!」


 クラスの大半が早くしろと思うが、誰も口に出さない。川峯は体育教師らしく、怒らせると面倒だったし、なぜだか真司のことを気に入っているようだった。


 (((あいつのどこがいいんだよ)))


 そんなことを心の中で想うクラスの中心メンバーだった。


 その後、バスケのチーム編成はなにかの陰謀か、クラスの主要メンバーの策略か。それはまあ、明らかではあったが、真司は明らかに雑なメンバーに入れられてしまった。


 4人編成なのだが、真司を除いた全員は、明らかに体育を楽しくなさそうに参加する運動音痴と言ったらあれだが、そんな感じの3人が集まった。


 「その、ごめん、十神君……」

 「僕たちが運動神経悪いから……」

 「いや、気にしなくていい。これでも、俺は勝つ気だから」

 「む、無理に決まってるよ。ほら、あっちにはバスケ部のキャプテンもいるし」


 言いながら3人はうなだれる。授業はトーナメント式。

 この試合の成績で、単位評価が変わるわけではないが、最下位は醜態をさらすことにはなる。そして、こういった場は自称運動できますのイキり場所だ。真に運動の出来るものは、こんなところで本気で素人をつぶしたりはしない。


 そしてクラスの人間たちは知らない。というよりも、忘れている―――


 「お前らは雑魚殴って満足か?」

 「「「へ?」」」

 「スポーツの面白いとこは自分より強い奴倒すとこだろうが」


 ―――彼が生粋のスポーツマンであったことを。


 1回戦1試合目は、十神チーム対鳴島チーム。

 相手チームのキャプテンとなっている鳴島は、先ほど真司のチームメンバーが教えてくれたバスケ部主将だ。


 「はっ、チームメイトに運がないな。悪いけどストレートで勝たせてもらうわ」

 「お前、ゲームの前の口上のやつか?リアルだとクソダサいぞ」

 「んだとてめえ!」

 「所詮、3回戦敗退ってわけか」

 「ぶっ殺す!」


 確かにバスケ部のキャプテンになれるほどの実力なのだろう。だが、真司から言わせてもらえれば、しょせん準決にすらいけない半端部の戯言にしかならない。彼はそういうところだと、心の中で馬鹿にした。


 試合のホイッスルが鳴り、タイマーが刻々と残り時間を刻み始める。

 ジャンプボールは、相手のキャプテンが見事にとり、相手のほうが先攻という形になった。


 ある程度運動神経のいい者で固められた者たちの勢いは、素人には恐怖に見え、続々と道を開けていく。そして真司も見抜いていた。

 彼らが体育を嫌う理由を。


 それは、単純にそういうイキりのせいで自分たちがうまくスポーツに参加できないからだ。

 ならば真司がその場を作ってやればいい。


 せめて体育の授業くらいは素人でも楽しめるように。


 開始から速攻で自分たちのゴールの目の前に来た相手チームは、ブロッカーもいないのに不必要にパスを出す。それだけ真司たちを煽りたいのだろうが、それは悪手だった。


 ここで真司がパスカットに動いた。

 完全に油断していたところに、誰も見えないところから走ってきた。普段から運動している姿を見せていおらず、どのくらい足が速いのか、どれだけ体感が強いのか。そのすべてが謎だった彼が見せたのは、このクラスで誰よりもすさまじい身体能力だった。


 これでも彼はかなり手を抜いてる。

 まあ、2年以上も戦い続けているのだから、常人なんか相手になるはずがない。


 そしてそのままレイアップで得点を決める。

 そのままネットはパサッと乾いた音を出してボールを吐き出す。


 「まずは2点……」


 その時、バドの試合そっちのけでアリスが見ていたのは、真司には秘密だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ