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救世のディアフトライ  作者: 波多見錘


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THE SET

 バチィン!


 部屋の中に渡辺が伊集院を張った音が響き渡る。彼の下独断での自爆未遂。

 到底彼女にとって看過できることではなかった。


 「なにを考えてるの!私はあんな命令を出した記憶はないのよ!」

 「すいません……ですが、僕の変わりなんていくらでも―――」

 「いないわよ!あなた、死のうとしてるからかはわからないけど、あんな相手に恐れをなさずに前に立ち続けることがどれだけすごいことかわかってないの?」

 「あれは、警察としては当たり前のことですよ」

 「そんなことないわ。警察だって人間よ。あんな追い詰められた状況になったら、逃げてもおかしくないのよ」


 そう言って伊集院のことを怒りつつたたえる。

 本当ならもう一度拳を加えたいところだったが、彼の雄姿は褒めるべきところはあった。


 だから、彼女はなにも手を出せない。


 「それにしてもあのスーツはすごいですね。こんなにすぐに怪我が治るなんて」

 「違うわ……」

 「え?」


 彼が自決しようとしたこと以外に、彼女にとっての予想外が起きた。それは戦闘後の伊集院が無傷だったこと。

 彼が現場で倒れているところに救護班が駆けつけて、救護した時にはすでに気を失っていたが、傷一つ見えなかった。しかし、戦闘中確かに伊集院の右腕には異変がった。


 仮に骨折じゃなかったにしても、打撲痕ぐらいはあるものだと考えていたが、綺麗な状態だったという。


 「あなたは、スーツから出てきた瞬間から無傷だったわ」

 「じゃあ、スーツの耐久性がすごかったんですね」

 「違うわ。システムは確実にあなたの体にエラーを吐いていた。だというのに、一切の傷がない。これはおかしいのよ」

 「何度も言いますけど、渡辺さんの作ったスーツがよかったんじゃないんですか?」

 「こんなのは私の物とは言えないわ。こんな急造でこしらえて、私のシステムが完全に模倣できるわけがないじゃない」


 なんども彼女は伊集院に説明しているが、彼の使うスーツは渡辺の作ったものを不完全ながら形にしたもの。戦争兵器になるからと封印されていたそれは、魔物の出現に伴って急ピッチで作成がされて、彼女の思っていたものとは完全に別物と化してしまったものだった。


 しかし、それに対して伊集院は言う。


 「なら、渡辺さんが、渡辺さんの思うものにしてください。あなたの考える完璧なものに。僕が戦いますから」

 「―――バカね。私の作るものが使いこなせるつもり?」

 「使いこなして見せます。たとえ、使い捨てでも、一般の方々を守るために」

 「……わかったわ。でも、それまでに死ぬんじゃないわよ」

 「当り前ですよ。僕、楽しみにしてますね」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 翌日のニュースは、真司の存在は一切が消された映像が出回っていた。


 周辺住民は避難していたせいで、目撃者は一人もおらず、DBTの初陣がうまくいったという嘘は誰も気づくことができない。

 ただ、倒した瞬間の映像がないことに疑問を呈するものはいたが、それは多の意見によって押しつぶされてしまう。


 「真司、早く学校に行かないと遅れちまうよ」

 「大丈夫だよ。1分前でも間に合うから」

 「いや、アリスちゃんと一緒に行ってるんだろ?遅れるなよ」

 「冗談だよ。もう行くよ」


 そう言って、真司は家を飛び出していく。

 本音を言えば、もう少しニュースを見ていたい気分だったが、そうもいかないのはわかっていた。


 少し残念な思いをする彼に、青龍は尋ねた。


 『よかったのか?あのスーツの中の男の傷を治してしまって』

 「問題ない。どうせ、俺たちはほとんど戦ってないんだ。青龍も周りの建物を直すのとやっても余力はあったろ?」

 『そうだが、お前を殺そうとしている相手ではないのか?』

 「何度も言わせるな。そういうのは関係ない。相手はただの人間だから守る。それだけだ」

 『本当にお前は強いな』

 「……母さんの育て方のおかげだ。女手一つで、よくここまでやってくれたよ」


 なのに、息子は残酷な運命を背負う。

 なんて自分は親不孝なんだろうか。と考えてしまうのは、真司が優しいからか、責任感が強いからだろうか。


 それから少し歩くと、アリスが待っているところについた。

 いつもは彼女が真司の家まで来たり、真司が彼女の家まで行ったりするが、本当はここが彼女と彼の登下校の道の合流点。


 本来ならここで分かれたりするのだが、時間のない彼らには別れの時間すら惜しいものだ。


 「おはよう、真司」

 「ああ、おはようアリス」

 「なんだか、こういう集合場所に集まるのもいいわね」

 「まあ、確かにいつもアリスが俺ん家に来てる印象だな」

 「一刻も早く会いたいもの―――なんで、こっち見ないの?」

 「いや、今はちょっと―――勘弁してくれ」


 そう言ってアリスから真司は視線をアリスから外すが、その態度に彼女はニヤッとすると彼の頬を両手で挟み込んで無理やりこちらを向かせようとする。


 「こっち向きなさい!ほらほら!」

 「な、なんでこういう時だけ強引なんだ!」

 「うっさいわね!ほら、その恥ずかしい顔を見せなさい!」

 「は、恥ずかしい顔はしてないぞ!……たぶん」

 「大丈夫よ。あなたは十分イケメンよ!」


 言いながら無理やりのアリスに抗うことができず、真司は振り向いてしまう。

 彼の頬は真っ赤に染まり、振り向いてもなおアリスに目を合わせることができないのか、きょろきょろと視線が泳いでいた。


 「~~~っ!ちゅっ!」

 「……!?―――な、なにすんだ!?」

 「キスに決まってんじゃない!可愛い顔しやがって!」

 「ま、待て!あいつ、あんな足速いのか!」


 真司の唇を突然奪った彼女は、彼につかまらないように早々に走り出す。だが、真司も運動神経が悪いわけではない。彼女を見失うほど引きはがされはしないほどに走ることはできたが、それでも選抜の実力は確かなのか、彼はアリスに追いつけなかった。


 だが、アリスも疲れたのか立ち止まったところに、真司は飛び込んだ。

 飛び込んで、後ろから抱きしめる。そして、彼女の耳元で囁いた。


 「愛してる……」

 「ひゃ、ひゃわ……!?」

 「ほら、行くぞ!アリス!」

 「もー!待て!真司!」


 二人は運命を忘れられるほど幸せになれた。そんな真司の手には体育着と運動用シューズが入った袋が握られていた。今日、彼は生徒手帳に自身のケガのことを書いてきていない。そうしなければ、体育の授業を休めないというのに。 

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