THE GRIT
「ふぅ……久しぶりに来るな。それにあいつらも元気にしてるかな?」
そう呟いた男は真司たちの通う高校に消えていった。
そしてこの男は知らない。この男こそが真司を不幸に叩き落す張本人になることを。
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噂が出ていた。
臨時講師だかなんだか知らないが、中学水泳で多くの全国選手を輩出したという有名な人がうちの学校に来るらしい。しかも、すごいイケメンらしく、女子たちはその話題でもちきりだった。
どうでもいいが、真司にはその特徴の中学教師というのは心当たりがある。だが、もしその人物だったとしても彼が関わろうとすることはない。
真司がなにも考えずにクラスの噂話に耳を傾けていると、そこにアリスが急に耳打ちしてきた。
「おはよ」
「……っ!?―――ああ、お、おはよ」
不意打ちにびっくりした彼だったが、すぐに持ち直し彼女に挨拶を返す。
学校が再開してから数日。特に魔物が出現することもなく真司たちは平和に暮らしていた。いつものように何気なく授業を受けて、アリスと一緒に昼ご飯を食べて。
真っ当に高校生をやっていた。
戦う能力を持っているとはいえ、ただの男子高生なので当たり前のことなのだが。それがどれだけ大切なことかは、彼が一番かみしめている。
そんなこんなで迎えた放課後。特に用事のない彼は早々に支度を済ませて帰ろうとしていた。するとそこに、いつかの後輩女子3人組が教室に姿を現した。
「あの、十神先輩っていますか?」
3人のうちの1人がそう言い放ったことで教室内の空気が固まった。
はたから見れば告白の呼び出しだ。なんであんな奴がと嫉妬の視線。なんであんな人を選ぶのかと後輩に向けられる憐みの視線。どちらも見ていられないほどには鋭いものだった。
そんな空気を知ってか知らずか真司はその3人組に向かっていく。彼はなにかを感じ取っていた。
「なんの用だ?」
「ここじゃ、あれだから―――校舎裏に……」
「どうした?」
「な、なんでもありません……!」
恐怖。なにか根源的な恐怖が彼女が支配していた。そして、その畏怖の感情は真司に向けられている。
なぜなのかと考えるよりも先に、彼の体は動いていた。ちなみにアリスはというと、その姿を見ていた。しかし、彼女は浮気を疑ったりはしない。真司同様、やってきた女生徒たちの様子がおかしかったことに気が付いていたから。
校舎裏についた4人は何とも言えない雰囲気のまま時間だけが過ぎていき、女生徒たちは話の切り出し方を完全に忘れてしまっていた。
そんな状況にさすがの真司も呆れたのか、彼から話始める。
「なんの用だ?告白、なら断ってるところだけど、そうじゃねえだろ?」
「あ、あの……わ、私たち見たんです……」
「なにを……?」
彼はそう言うが、なんとなく全部察した。それでもなにをかを聞いたのはワンチャンないかと思ったから。しかし、現実はそう甘くない。
「私たち、十神先輩が第0号になるのを―――見て……」
「もしかしたらあの時に倒れたのって関係があるんじゃ……」
「はぁ……やっぱりか」
「ど、どうしよ―――やっぱ消されるのかな?」
「それを本人の前で言ってどうする……まあお前たちがほかの人に言わなければ、俺は特に問題視はしない。これでいいか?たぶん、俺のことを知って、俺に殺されるんじゃないかって不安だったんだろ?」
彼女たちの心を見透かしたように言う真司。ただ、それは間違いではなかった。
自分たちが不用意に言ってしまってどんどん広まって、最終的に自分たちはその報復で殺されるかもしれない。もしかしたら、知ってることはすでに知っていて、命をすでに狙われているかもしれない。そう思うと、夜中に自然と涙が出てきてしまうほど怖かった。
ただ、当の本人にそう言われると少しだけ安心はしたが、結局嘘をつかれていたらどうしようもない。
「ほ、本当ですか?嘘をついていて、背中を向けた瞬間に一突きとか……」
「はあ……このことは絶対誰にも言うなよ」
そう言うと、不安そうにする彼女たちに戦いの経緯―――真司が変身する理由を話した。
しまいまで聞いた彼女たちは、最後には不安がぬぐえたのか、真司に頭を下げた。これまでの噂を信じていたこと。そして、勝手な印象、メディアの報道で恐怖を抱いていたこと。その他諸々の失礼なことを謝罪した。
特段彼の話を聞いて涙するということはない。だが、それでも戦う覚悟を決めた彼には最大の経緯をはらうべきだと思ったのだろう。
「「「ごめんなさい!」」」
「えぇ……いいよ謝らなくて。ちゃんと説明してないのはこっちだし、ああいう報道は半分しょうがないよ」
「じ、じゃあ説明すれば……」
「俺が表立ってどうする。家族にも何かしら迷惑がかかるし、たぶん俺は実験台にされるだけだ」
「え、なんで……」
「こんな扱いやすい兵器はいないだろ?少なくとも魔物と契約すれば強い力が手に入る。その前例ができた。何かしらの方法で戦力にできないかするはずだ。そんなことになってもいいかと聞かれたら、否と答えるしかない。だから隠してきたんだ。お前たちもほかの人に言うんじゃないぞ」
「「「は、はい……」」」
そう言うと、彼たちの話は終えた。
別に彼女たちを味方として学校で一緒にいてほしいとは思わない。なんせ彼には―――
「真司終わったかしら?」
「ああ、終わった」
「熱烈なアプローチもらっちゃった?」
「見てたくせになにを言ってるんだ」
「せ、先輩その人は?」
「あら?こいつは学校中で有名なのに、私のことは知らないのね?」
「あ、も、もしかして、十神先輩の恋人の……喜瀬川先輩!?」
「「ま、マジ!?」」
アリスの登場に驚く3人だが、そんなことより気になることがあった。
「そ、その先輩は知ってるんですか?」
「あ?こいつが、変身すること?当たり前じゃない。じゃなきゃ、私はこいつと隣の席ってことくらいしか接点ないわよ」
「じ、じゃあ知ってて付き合ってるんですか?」
「そうよ。ていうか、そう言ってるのよ。こいつがバカだから私がいないと不幸になるのよ」
「おい……」
「なによ、本当のことじゃない」
そのやり取りを見て、真司を呼び出した3人は確信した。
彼が根っからの善人であること。そして、アリスも同じであること。そしてなにより、この世界の危機に戦う人が真司のような人で良かったと。
決して自分たちでよかったと思ったわけではない。
真司のように覚悟の決まった人―――いや、決められる度胸を持った彼でよかったと。彼の手にかかってると言われても、どこか安心できる。ただそれだけの理由なのだ。




