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救世のディアフトライ  作者: 波多見錘


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THE DATE

 アリスの意識がちゃんと覚醒してから数時間―――真司たちはいつの日にか来たショッピングモールに来ていた。


 「ねえ真司、覚えているかしら?」

 「そうだな。俺とアリスが初めて一緒に来た場所だな」

 「あの時の真司はツンデレだったわね」

 「ツンデレ言うな」


 そこにやってきた彼らの首にはペアのペンダントをつけていて、アリスは真司のそれを見つめながら彼の腕を組んで歩いていた。

 前に来たときは手を繋ぐ―――というよりも、彼女が引っ張っている形だったので大きな進歩だ。


 真司のほうも多少の歩きづらさは感じていたが、それよりも彼女の幸せそうな表情が見れただけで満足だった。


 そんな二人がやってきたのは国内流通No.1の衣類メーカーの店だ。


 「アリスはここで何買うんだ?」

 「あなたとおそろいのTシャツをそろえるわ」

 「……そうか。じゃあ俺は外で待ってるから、好きに選んどいてくれ」

 「待ちなさいよ。あなたも選ぶのよ。じゃないと、どんな奇抜なデザインを選ぶかわからないわよ」

 「大胆な犯行予告だな。はぁ……ついてくしかないか。本当にやりかねないし」


 そう言うと真司は、アリスに引っ張られて店の奥に連れていかれた。


 店に入ってすぐに目につくのはコラボTシャツの数々。


 「あ、これ最近の映画のやつじゃない?」

 「あー、なんだっけ?最近、映画なんか見てないし、わかんねえや」

 「ったく、今度映画も行くわよ。地獄の3本連続視聴で」

 「もっとに普通に見る手段はないのか?」

 「うっさいわね。あなたの青春を取り戻してあげるって言ってんのよ!」

 「別にいいんだけどな……まあ、アリスがそう言うなら頼むわ」

 「あなたは私に寄り添ってればいいのよ。あなたが、あなたさえ幸せになってくれれば……私は幸せだから……」


 そう言って暗い目をするアリスを見た真司は何も言えなくなる。自分を想ってくれるのは嬉しいが、ここまでしろとは言ってない。とも言えずに、黙り込んでしまう。


 少しだけ二人の間に気まずい空気が流れたが、アリスはそんな空気を払しょくするように一枚のシャツを手にした。


 「これとかどう?」

 「いや、これは……」


 彼女が手に取ったのは、真ん中にでかでかと『命』とかかれたTシャツだった。

 率直な感想というよりも―――


 「ゴルゴ〇本かよ」

 「ゴル―――誰のこと?」


 ―――ツッコミだった。そして、生粋ではないにしろ、アメリカで育った彼女はその人物を知らないらしく、しっかりと反応することができなかった。


 「そっか、知らないのか。あの人が激辛食ってんの面白かったんだけどな」

 「なにそれ気になる!」

 「最近はテレビでめっきり見なくなっちまったよ」

 「まあ、あとで動画調べてみるわ―――で、どう?」

 「うーん……率直なこと言うと、着たくないなあ」

 「なんでよ。いいじゃない、『命』って」

 「いや、命は大切だし、重要なものだよ?でも、なんだか俺には皮肉にしか……」

 「あ、ごめんなさい。それは思慮不足だったわ」

 「いや、そこまで気にしなくても……悪い。空気を悪くするつもりは」

 「いいのよ。あなたが気に病む必要はないわ。ただのおふざけだったし―――これなんかどうかしら?」


 そう言うと、彼女は比較的普通のシャツを手に取った。

 ガラは派手過ぎず、だからといって無地にはせず、いい塩梅の柄物だった。


 その彼女の選択に真司は特に文句はなかった。


 「うん、これなら着ても恥ずかしくないかな」

 「恥ずかしいって、あなたは私の隣で歩くことは恥ずかしいことなのかしら?」

 「まあ、発言がたまにヤバくなるから恥ずかしい時くらいはあるな」

 「否定しなさいよ!ここで肯定するとかあるの!?」


 そうは言うが事実である以上真司は隠さない。その程度で関係が崩れるほど浅いものでもない。

 そして、真司はLサイズを手に取り、アリスはXLを手に取った。


 「デカくね?」

 「私くらいのプロポーションになると、そこいらの雑魚じゃ入らないのよ」

 「雑魚って、MとかSのことか?」

 「そうよ。この胸が邪魔して、着たい服が着れなかったことが何回あったか……」


 そう言って遠い目をする彼女はなんだか見ていて痛ましかった。

 ただ、着たい服を着れないのは女子にとってはかなりきついものなのだろう。そう思い真司はなにも言わなかった。


 買い物も終わり、店を出るとアリスはすごく楽しそうに笑っていた。なかなかデートの時間が取れなくて、少し寂しかったのだろう。まあ、一緒に学校に行ったり、今朝みたいに一緒に寝ることはあるようだが。


 それとこれでは違うということだろう。


 そうしていると前方から見知った顔が見えてくる。


 「あ、あれ?真司……?」

 「美穂……なんでここに。いや、デートか」


 彼の幼馴染である唯咲美穂と加藤の姿だった。

 二人はおそらくデートに来ているのだろうが、お世辞にも楽しそうには見えなかった。明らかに美穂の顔が暗いのだ。


 「お前、なんでここに」

 「見てわからないのかしら?私と真司は恋人よ?デートに決まってるじゃない」


 加藤の喧嘩腰の問いにアリスが応戦する。

 ここに一触即発の雰囲気がピリつくが、すぐにそれはなくなる。代わりに―――


 「あー!風船!」


 建物の吹き抜けを超えて下の方からそんな悲痛な少女の叫びが聞こえてきたのだ。

 そういったことを無視できない真司はすぐに吹き抜けの柵に手をかけて下を覗き込んだ。


 すると、こちらに向かって飛んでくる風船と、それに手を伸ばして精一杯ジャンプしている幼女の姿があった。

 こちらに向かってくるとは言ったが、真司たちの方向に来ているのではなく、風船はただ上に上昇している。


 ジャンプする幼女は届かないとわかったのか、今度は泣き出してしまう。


 「こっちも手を伸ばしても届かない、か」

 「真司……?―――ここ、5階だよ?」

 「大丈夫なのはアリスが知ってるはずだ」


 彼のつぶやきに隣に来ていたアリスが反応して、なにをするのかを理解した彼女は一応彼に聞く。

 まあ、彼女は彼がなにを言ってもやることも、絶対に無事でいられることも知っている。ただ、後ろの二人は違う。


 柵から身を乗り出そうとする真司の姿を見て慌てだした。


 「ちょ、なにしようとしてるんだ!」

 「ま、待って!真司が死んじゃう!」

 「―――うるさい」


 そう吐き捨てると、真司は飛んできた風船に向かって飛びつき、見事にその紐を掴むと、下に―――吹き抜けが終了している1階に飛び降りていった。


 ストンと綺麗に人がいないところに着地した真司は、すぐに幼女に風船を手渡した。


 「はい、もう手放しちゃだめだよ」

 「……うん!ありがとう、お兄ちゃん!」

 「ほ、本当にありがとうございます!そ、その足とか大丈夫ですか?」

 「いいですって、そんなに気にすることじゃないですから」

 「本当にありがとうございます!」


 しばらく彼はお礼の嵐を食らっていたが、エレベーターで急いで降りてきた三人がやってきたことでようやくそれが止んだ。かと思ったら―――


 ガッ!


 アリスよりも先に走ってきた加藤が、真司に向かって思いっきり拳を振りぬいた。

 周りはぎょっとしたが、触らぬ神に祟りなしとばかりになにもないかのように素通りしていく。


 「な、なにするんですか!?」

 「十神!お前っ!運動できないんじゃ……足まともに動かせねえんじゃねえのか!」

 「ちっ、細かいことばっか……」

 「お前、なんで治ってるのに泳がねえんだよ!唯咲さんがあんな辛そうにしてんのに、なんでお前は―――!」


 そう叫びながら加藤は真司を殴る。

 その気迫に幼女が怖くなり、泣き始めてしまうがそんなことはお構いなしだった。


 しかし、その加藤に鉄拳を食らわせるものがいた。―――誰でもないアリスだった。


 かつてないほどの怒りに満ち満ちた表情をした彼女は、加藤の胸倉をつかむと力いっぱいに振り向かせてその勢いと衝突するように拳で頬を射抜いた。


 その勢いで加藤は吹き飛び、真司から離れるのだが、彼女はそれでも止まらなかった。


 「あなたたちね、真司にあれやれこれやれって、こいつはあんたらの物じゃないのよ!これ以上、私の大事な人を傷つけるな!心を殺そうとするな!」

 「アリス……!」

 「怪我が治ろうが治らまいが、水泳を続けるのはこいつの意思なの!なにも知らないお前たちが―――」

 「アリスッ!」

 「っ!?」

 「……もういい。もう十分だ」


 そう言ってショッピングモールから立ち去ろうとする真司。そしてそれになにも言わずについていくアリス。その場には皆の雰囲気に気圧されて涙目になる幼女とその母親、加藤と美穂が残されていく。

 そして、真司が完全に立ち去る寸前、振り返って美穂に言った。


 「美穂、そんな楽しくなさそうな顔ばっかしてたら、お前らのエースがかわいそうだぞ」

 「真司……私はっ!」


 美穂の言葉、それを最後まで聞くことはなく、真司は足早に外へと向かっていった。


 外に出た彼はしばらく無言で歩いていたのだが、信号で止まってアリスが横に並ぶと言った。


 「アリス……ありがとな」

 「……!?―――ふふっ、あなたは私と家族と世界を守る。だから私は、あなたのお母さんと一緒にあなたを守って見せるわ」


 その言葉の重みは真司に伝わった。

 これが嘘偽りのない言葉であることも、本当に今実行していることも。それをわかっているからこそ、彼の胸はあんなことがあったというのに満たされていた。


 「昼、なにが食いたい?」

 「うーん、ラーメンが食べたいわね。こっちに来てから、なんだかんだ食べてないわ」

 「そうか。なら、餃子とチャーハン奢ってやる」

 「え?そこはラーメンじゃないの!?」

 「お前、ラーメン屋でチャーハンと餃子頼まないのはないだろ」

 「そうなの!?ラーメンだけじゃないのね」


 少しだけ楽しそうな雰囲気を取り戻した二人だった。

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