FLASH IN THE PINCH
『真司、魔物だ』
(またか……一応授業中なのにな。虫なら夜に活動しとけよ)
『夜行性の魔物は少なくないが、地域によっては昼のほうが人が集中するから襲うのには適しているのだ』
(それを人的被害を最小限で抑えるのが目的ね……)
『そうだ。あとは我が直して、話は噂として広まるだけだ』
(それはいいのか?)
『人は都市伝説は信じない。まれにオカルトじみたことに足を踏み込むものも存在するが、しょせんうわさでしかない話は、誰の気にもとまらないものだ』
「じゃあ行くか……」
そう言うと、真司は“初めて”の戦闘から1週間もしないうちに2度目の戦いに身を投じるのだった。
また授業中だということもあって、彼が平常点を落とすことになるのだが、この問題はまた別の話。
変身し、現場に急行すると、そこには腕が鎌のようになっていて、背中は明らかに頑丈そうな甲羅を背負っている魔物がいた。
その姿はまるで―――
「タガメ……?」
「そうだ。奴らはこの間の魔物よりも力が強い。気を引き締めていくのだぞ」
「あいよ」
そう言って真司は魔物にとびかかる。
飛び上がって、背中の装甲を掴んで投げようとするが、思いのほか重量があり、思うようにいかなかった。そして、魔物もさすがに真司の存在に気づいたのか自身の鎌で斬りかかってくる。
さすがにその攻撃を食らうわけにはいかないので、彼は1歩後退し攻撃を避ける。だが、もう片方の鎌も飛んできて万事休すかと思われる。
それでも彼は上体を後ろに倒し、バク転の要領で攻撃を避けると、その勢いを利用して蹴り上げを振られた鎌に衝突させて上に弾く。そこで終わらず、真司は一歩前に進み、魔物との距離を詰めると、状態が振り上げられてがら空きになった足元を蹴りで払う。
すると、相手は腰を中心に回転し、思いっきり下に倒れこんだ。
真司もそこで油断することはせず追撃に走らず後ろに後退する。
「2回目の戦いでよくそんなことできるな」
「漫画で見た。使えそうだからやってみた」
「だからと言って、すぐに実践できるのは才能だぞ」
「そりゃどうも」
青龍の賛辞の言葉を嬉しくないと軽く一蹴すると、彼は魔物にもう一度とびかかる。
魔物もその攻撃を予期し、自身の背中を彼に見せる。
本来なら敵に背中を見せることはタブー―――攻撃してくれと言っているようなものだが、相手は魔物。そんな常識の通じる相手ではなかった。
ガァン!
金属を殴ったような鈍い音―――真司の拳が魔物の背中の装甲に衝突した音だった。
「―――ぃっつ……なんだこれ?」
「真司!集中しろ!」
「あ……?!まずいっ!」
下から振り上げられた斬撃。ギリギリで気付いた彼は受け止めるが、対応が後手に回ってしまったため、ろくに力が入っていない。
そしてそれを機と見られたのだろう。すぐに魔物が横の斬撃も加えてきてすぐに真司は態勢を崩される。
どうにか片手ずつで鎌の動きは止められているが、力は拮抗してるとは言えなかった。
「ぐっ……」
「キシャアアア!」
上から押し付けられているわけではないので膝をつくことはないが、彼の腕が悲鳴を上げていた。
そして、ついに抑えきれなくなった魔物の攻撃は2本とも彼の上半身を捉えた。
「がっ……!?」
「真司っ!クソ……やはり力比べでは……」
「ギギャアアアアア!」
奇声をあげながらの魔物の蹴りは彼の腹部を捉えて、真司はなにもできずに後方に吹き飛ばされた。
飛ばされた先は、いつもなら子供たちが楽しく遊んでいる公園だった。
「ゴホッゴホッ!」
「大丈夫か?」
「血は……出てないな?」
「ああ、そもそも生体装甲で守られてる。普通の攻撃なら、まず血は出ない」
「そうかい。便利な体だこと」
カチャ
青龍の言葉を聞いてもう一度立ち上がろうとすると、真司の足に何かが当たった。
「なんだこれ……エアガンか?」
「真司、これはなんだ?」
「いや、戦いには関係―――いや、近接戦が不利なら銃が……いや、使えるわけないよな」
青龍はまだこの世界に来て日が浅い。なので近代兵器の銃のことを知らなくても無理はない。なんせ青龍が知っている武器は、人間そのものなのだから。
しかし、真司はそれがエアガンであることもちゃんと理解していた。ただ、それを見た瞬間に銃で戦えないものかと考えた。どのみち相手は武器を使っている。素手だけでは限界がある。
だからこそ、この武器が使えれば……
そう考える真司は無意識に落ちていたエアガンを手に取った。
「なあ青龍」
「なんだ?」
「俺は武器を使えないのか?」
「使えない―――ことはない。だが、今のままではお前の力が足りない」
「そうか……」
「ギギャ!」
青龍との会話で完全に気がそれてしまったのだろう。
魔物が放った斬撃が真司を捉えた。
彼は声を発することなく砂煙の中に身を隠してしまった。
それでも勝利を確認しない魔物は煙の中で真司にとどめを刺そうと走り出す。
だが、魔物が煙の中に到達した瞬間、後ろに倒れこんでしまった。
「ギリ……?」
「はぁはぁ……不意打ちは卑怯だろうが」
真司が完全にマウントポジションを取って銃口を魔物の頭に置いていた。
しかし、銃と言ってもただのおもちゃ。それが魔物に通じるはずが……
「はぁはぁ……これが本物の銃ならこの零距離で撃てば、たとえ後部の生体装甲を頭に持ってきても防ぎきれないだろ」
「だが真司、それには殺傷能力はないんだろ?」
「うるせえ、お前の魔術とやらでどうにかしろよ!このマウントポジションでもさっきの装甲を持ってこられたら拳じゃ意味ねえ!」
「そんな魔術は万能ではない!いいから、それを捨ててすぐに距離を取るのだ!」
「うるせえ!こうなったら、イチかバチかだ!どらあああああああ!」
真司がそう叫びながら引き金を引こうとした瞬間―――
彼の体は黄色く変色し、エアガンの形が変わった。
その事実に青龍も真司も驚いたが、引こうとした引き金は引き抜かれ、変形した銃から弾丸が放たれた。
魔物もとっさに装甲を頭に持ってきたが、それはなんの意味も持たずに貫通を許してしまう。
脳天をぶち抜かれた魔物は、そのまま蘇生不可能になり爆散した。
「黄色く、なった?」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「もー、エアガンなくしたってなに?」
「だって、化け物が……」
「もー、お父さんにやっと買ってもらったんでしょ?すぐになくしたら世話ないでしょ!」
「でも、怖くて……」
「じゃあ、私が倒してあげるから!探しに行くわよ!」
そう言うと、二人組の片方―――気の強そうな女子が気弱そうな男子の手を引いて化け物を見たという公園に向かっていった。
しかし、そこには化け物の姿はなく、そこにいたのは―――
「あ、ぼ、僕のエアガン……!」
「お兄さん!それ、返してください!」
「ん……?ああ、お前たちのだったか?」
「いえ、それはハル君の!だから返して!」
「だ、ダメだよ。大人にそんなこと言ったら……」
「ハル君って言ったか?」
「は、はい……」
「なんで、こんなものを外に持っていったんだ?」
―――エアガンを持った青年はそう男子に問いかける。
「そ、それは……シズちゃんを守りたいから……」
「バッカじゃないの!私が守るからハル君は私の後ろにいればいいのよ!」
「守りたいなら、こんなものを使うな。人も、そうじゃない生き物も―――こんなもので撃たれたら、殴られたら。誰だって痛いんだ」
「う、うん……?」
「誰かを守りたい。誰かを笑顔にしたいなら、力より優しさを選ぶんだ」
「やさ、しさ?」
「そうだ。これは返す。でも、こんなもので何かを得ようとするんじゃないぞ」
「え、うん……ありがとうございます……」
それだけ子供言い残すと青年は―――真司は立ち去っていった。
彼の言った言葉はきっと子供たちにはまだ理解できない。ただ、彼にとって銃を使うこと。魔物を殺すことに、どこか罪悪感があったのかもしれない。




