THE GAMBL
「かはっ……!?」
「ようやく起きたか」
「お前は―――アピスか……なぜここにいる」
「お前が負けそうだからと、陛下が助けろと私に命令したのだ」
「そうか……私は、負けたのか」
アヌビスが目を覚ますと、彼の目の前にはアピスと呼ばれた牛人がいた。
こうして対等に会話できるということは、アピスもまごうことなきエルダー級の魔物だ。
先の話に戻るが、アヌビスは暴走した真司に敗北した。
それが明らかになった瞬間に、アピスがどさくさに紛れてアヌビスを人界から魔界に連れ戻ったのだった。
「お前は負けた。どうなるかはわかっているな?」
「ああ……こうなった以上は、さらなる覚醒しかない」
「その意味は分かっているな?」
「ああ―――次に私が負けたら、私の命は愚か、私の統治する魔界領土並びにそこに住まう魔物が……消滅する」
「だから本来はエルダー級が前線に出ることはまずありえないのだがな。今の魔王は、その犠牲を払ってでも人界を支配し、隷属させるつもりのようだ」
「当り前だ。我々が1000万年前に受けた屈辱は先代から受け継がれたもの。そして、我らが陛下はその戦役で父上を―――先代の魔王を失っている。奴らが滅んだ以上、奴らが生み出した模造人類を殲滅。または、屈辱を味合わせる。そうでなければ、魔界の呪いの歴史がとかれることなどないのだ」
「―――お前がそう言うのなら私が口出しすることはない。ただ、これ以上は負けないことだ」
「まあ、負けたら、お前が俺を食ってくれ。誰かの力になれるのなら、我は死んでも構わん」
「お前が負けたときに、私が近くにいたらな」
そう言ってアピスは、アヌビスの寝ている部屋を出ていく。
それを見届けたアヌビスは、自身の覚醒を始めるのだった。
「すまない、民たちよ―――お前たちの命、賭け皿に乗せさせてもらう」
この事実は民には伝えられることはない。まさに知らないほうが幸せなこと。
しかし、知らぬ間に命を懸けられる、それがなんと不幸なことなのだろうか。
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時間はかなり巻き戻って―――
真司の放った虎の銃弾は大きな爆発を起こし、校舎の一部を破壊した。
その姿を報道ヘリがすぐにとらえる。あまりにも早すぎる出来事に、明らかに待機していた言わざるを得ないレベルだった。
しかし、そんな生徒や教員の考えを置き去りに、学校の破壊後に残った真司の姿はしっかりとテレビに映し出された。
と、思ったら真司はまるで虚空に消えるかの如く、ゆらゆらと消えていく。
その後、報道は真司の姿を完全に見失い、映像をスタジオに返して特集を組むのだった。
消えていった真司たちは誰の目にもつかないところで変身を解くと、ゆっくりとその場に座った。
壁にもたれかかるように弱々しくしゃがむ姿は、世界のために戦っているとは思えないくらいに、脆弱だった。
『なぜ我の制止を聞かなかった』
「だから違うと何度言えばわかる。あの力は俺の意思とは関係なく現れる。まあ、ある程度俺がもっと力が欲しいと思ったら出てくるみたいだけど」
『なら、力を求めなければ―――』
「じゃあどう勝てって言うんだ。無茶を言うな。足りないものは短時間では補えない。誰かにすがるしか方法がないんだ」
『しかし……』
「たしかに押さえることはできたと思う。俺の心持次第なのかもしれないからな。でも、それ以上に負けるわけにはいかなかった」
真司のその言葉に青龍は黙ってしまう。
これでは、青龍の力がないせいであの暴走の力を使わざるを得なくなっていると言われているようなもの。しかし、それが正しいこともすべて理解している。
それでも彼には命を無駄にしてほしくない。
誰かを守ることはどんなことよりも難しくて、どんなことよりも誇り高く気高い行動はあるが、すべて命あってのもの。
命の危険があると言っても契約し、自身を助けてくれた真司に、青龍は言いようのない感謝の念を覚えているのだから。
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体育祭は中止。
生徒は集団下校と言う形で帰宅することになった。
しかし、アリスは家に帰るや否や、着替えを取り浴槽に向かっていき、そこを出たかと思えば、すぐに真司の家へと向かっていく。
真司宅に到着すると、彼女は真っ先にリビングに移動して彼の母に帰ってきているかを聞く。
直行で真司の部屋に行かなかったのは、戦いで疲れているであろう彼に無駄な負担をかけないためだ。
「お義母さん、真司君帰ってますか?」
「アリスちゃんか。今日はまだ帰ってきてないよ。あんなニュースもやってるし、ねぎらってやりたいんだけどねえ」
「あんなニュース?」
「ああ……そうか。今日は体育祭だったし、大変だったみたいだからまだ見てないのか」
そう言って明音はテレビをつけてアリスに見せた。
画面に映ったのは『やはり0号は人類の敵か』というタイトル。
それと一緒に流されている映像は、遠くから捉えたであろう暴走した真司が必殺技を撃った瞬間と学校は爆破されている様子だった。
本当はアヌビスという存在がいたのだが、テレビではいないものとして扱われていた。
「な、なにこれ!」
「あいつがなにもないのに変身なんかするはずないのにねえ。まあ、0号の正体を知ってるのは私たち含めて3人しかいないからね。世間の人にはわからないさ」
「そうですよね……って、3人?」
「ああそうか。アリスちゃんは知らないのか。あいつの幼馴染の美穂ちゃんって知ってるかい?」
「はい……申し訳ないことをしたとは」
「そうじゃない。その子の母さん―――穂香が知ってるんだよ」
「じゃあなんで唯咲さんは真司のことを?」
「大切だから、傷つけたくない。関わらせたくない。それだけさ」
そんな会話をしていると、玄関のほうから扉が開く音がする。
真司が帰ってきたのだ。
「ただいまー」
「あ、真司!」
「真司、おかえり」
「あー、今は眠いから寝かせてくれねえか?テレビでやってることもだいたい知ってるから心配すんな」
「へ、真司……?」
なんでもないようにする彼にアリスはすぐに違和感を覚えた。
それは彼の母親も同じ。意味は違うとはいえ、二人の愛する存在である彼の隠し事は彼女たちに通じないらしい。
そんな予感が的中したのか、真司は階段から降りる途中に後ろに倒れこんでろくに受け身も取れずに落ちてしまうのだった。
「「真司っ!?」」




