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救世のディアフトライ  作者: 波多見錘


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THE MISSION

 結局真司は帰ってこなかった。


 グラウンドで前の走者の走りを見ながらアリスはそう思っていた。

 別に彼がいないと走りたくないというわけではない。ただ、彼の最後の体育祭。なにかいい思い出くらい作ってあげたかった。


 恋人が優勝する様くらいなら、少しは記憶に残るだろう。


 そう思っていたが、ここに来て運悪く彼が魔物との戦いに向かっていった。

 まだギリギリ先生たちは気づいていないが、バレたときにどうするかも考えておかなければならない。


 「真司、帰ってくるわよね……」


 今の彼女には待つことしかできない。

 しかし、彼女は選抜の選手―――ならば、ここで気持ちよく勝って優勝したと笑顔で彼に伝えることがアリスの役目と言うものではないのだろうか。


 「喜瀬川さん!」


 考えにふけっていたところで、彼女は声をかけられて意識を取り戻す。

 もう目の前に走者の生徒が迫ってきている。もう彼女の番なのだ。アリスはクラスの総力の要―――彼女が本気で走らなければ負けてしまう。


 そんな勝負だ、アリスには集中しないという選択肢など存在しなかった。


 そう思い、バトンを前の男子から受け取ろうと、それに触れた瞬間……


 『―――っ!』


 音が―――咆哮が響いた。


 腹に響くような強烈な重低音。それは全校生徒にも聞こえていたのか、その場にいた生徒や教員、保護者も動きを止めて周りをきょろきょろと見渡し始める。


 だが、アリスには誰の咆哮なのかわかっていた。

 いや、わかりたくなかった。―――こういう時、真っ先に知りたくなかった事実を突きつけてくるこの耳が大嫌いになる。


 そう、その咆哮の正体とは―――


 ズガァン!


 グラウンドのど真ん中に先刻に学校を襲ったアヌビスの姿と、それを手で鷲掴みにして校庭のグラウンドに叩きつけているデモニア0号の姿が。

 しかし、報道でやっていた姿や先刻で生徒たちが目撃した姿とは一線を画すほどに変わり果てた姿をしている。


 ―――その正体とは、十神真司なのだった。


 「しん、じ……?」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 まずい―――


 青龍が思ったことはただそれだけだった。

 真司の意識がどこかへ沈んでいくような感覚に加えて、自身の意思もなにかに押さえつけられていく。この感覚は真司は玄武の力を出した時と同じ―――いや、わずかな違いがあるが、空気感も彼自身の意思が消えつつあるのにも気づかないわけがなかった。


 そして、いつの日か見たあのボロボロのマント―――おそらく、これが真司の暴走のサインなのだろう。


 しかし、ボロボロのマントを纏ったからと彼の意識が消えるわけではないようだった。


 「ぐっ……」

 「真司、まだ意識はあるのか?」

 「あ、ある―――あるにはあるけど、多分もうなくなる……」

 「やめろ!今すぐその力を押さえるんだ!」

 「無理だな―――力が勝手に発現してる。この力は意思とは関係なく俺に力を与えるものだ。そこに俺は存在していないんだ……」

 「早まるな!せめて、変身を……」

 「バカか。ここで解けば、正体をさらすようなもの。それに、まだ戦闘は終わってない。なら、ここはこの力に任せるしか、ない……」

 「おい!真司!」


 力なく青龍の言葉に答えると、彼はその意識を深層に落としていくのだった。


 「ふむ……意識がなくなった。とどめを刺していくか」


 真司の意識が消えたからと意識喪失状態に入ったと考えたアヌビスは、とどめを刺そうと近寄ってくる。だが、それが命取りの行動となる。


 「……ふんっ!」

 「―――グルル……グルアアアアアア!」

 「なっ!?」


 彼の命を刈り取るために振り下ろされた鎌に、真司が飛びついたかと思えば、間髪入れずに暴走した彼はアヌビスの右腕を腕十字固めを立った状態のまま固める。

 あまりの唐突な攻撃ゆえに、相手は抵抗できずに関節技(サブミッション)を極められる。


 だが、そこはエルダー級―――超上級ゆえに実力もかなり高い。そんなアヌビスは、すぐに冷静になり先ほどの攻撃をしようとする。


 「ぐ……だ、だんざ―――」


 ボギャッ!


 あたりに響く鈍い音。それはアヌビスの腕の骨が砕ける音だった。

 しかし、アヌビスはそれに動じることなく腕を切り離して真司の技から抜け出す。


 「くっ……なんだ、その力は……?」

 「ガアアアアアアアア!」


 彼はアヌビスの言葉に一つの返答を寄こさない。


 関節技を外された真司は、メイズとは思えない機動力で地を駆けると、一瞬でアヌビスの懐に飛び込む。


 「なっ!?そんな動き、今ま―――でっ!?」


 懐に飛び込まれたことに心底驚くアヌビスに、真司はなんの容赦もなく掌底を叩き込む。

 暴走によって彼以上に力を引き出されたこの力は、なんなくアヌビスを吹き飛ばす。


 その勢いで相手を建物の壁にたたきつけるが、それだけでは終わらない。


 「グラアア!」


 壁に大の字に埋め込まれたアヌビスのがらんどうの腹に蹴りを打ち込む。

 そのまま真司とアヌビスは二人で一緒に次々と家屋を貫通しながら空中に舞い上がる。


 その際緩衝材のような形で、前側は真司の蹴り。後ろ側は、家屋の破壊に挟まれて、すでにボロボロと言ってもおかしくない状況だった。


 それでも攻撃の手を緩めないのが今の彼。


 一切の躊躇なく殺そうとするさまは、もはや畏敬の念すら覚えてしまう。

 空中に打ち出され、ただ放物線を描きながら吹き飛ぶアヌビスとは対極に―――


 「グオオオオオオオオオオ!」


 ―――大きく咆哮すると、クリスタルを激しく輝かせてアヌビスの頭を鷲掴みにする。

 そのまま真下に下降していき、彼は地面に勢いよく相手を叩きつけた。


 直撃した地面が陥没するほどの勢い。下に真司の学校の生徒がいたことは知ってか知らずか、奇跡的に誰一人に攻撃を直撃させることはなかったが、彼が人波の中に攻撃を打ち込んだのは事実。これはどうなるのか。


 しかし、そんなことは彼に関係ない。

 今の真司にはアヌビスを倒すことしか頭にない。


 「ぐ……や、やめ……」

 「グアアアアアアアアアア!」


 アヌビスの決死の抵抗にも意を介することなく咆哮しながら手元に力を込めていく。

 相手を殺さんとするその勢いは、一切衰えなかった。


 その姿を高校の生徒たちは恐れ、恋人であるアリスは心配をする。


 だが、彼は止まらない。ただ一つの目的を達成して終えるまで。

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