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救世のディアフトライ  作者: 波多見錘


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POWER DRIVE

 真司の射撃後は、まだ煙幕が濃く全身を見ることができず、両者はすぐに前に出ることができない。その間に彼は思案する。


 アヌビスは速い。それに力も強く、今までの魔物とは一線を画すレベルの魔物。その上に、先刻の先頭でセトの魂を吸収し、実質的な魔物としての力は万全の青龍たちと同等級レベルの力を手に入れている。


 それゆえに、簡単に対抗できない。もはや、国の軍事力など意味をなさず、力を持った真司しか戦えない。しかし、その頼みの綱の真司も頼りになるかと言われたら口を閉ざしてしまう。


 ただで負けるわけはない。ただ、勝つ見込みもない。

 それに、今彼には明らかなハンデがある。見えている負け―――それでも、真司は引けない。守るべきものがあるのだから。


 そしてクリムゾンからメイズに切り替えた彼は、接近戦から中距離戦に変えた。


 近接はあまりにも分が悪い。彼自身は力が劣っているとは思っていないが、それ以前に暴走の危険がある。確かにそれを使えば倒せるのかもしれないが、被害がデカくなりすぎる。


 そうなると、コルバルトかメイズの二択―――しかし、コルバルトは速さ全振りがために力の競り合いに弱い。それに、腹の重さのせいで持ち味の素早さを生かしようがない。なら、それを使う理由もない。消去法でメイズしかないのだ。


 また、ブラックも選択肢にあるが、これもコルバルトと同じ理由のため却下だ。


 「できるだけ牽制を重ねて、相手の近づく暇を与えないように動くぞ」

 「ああ……もはや、エルダーの進化は前例が少なく、ブラックボックスだ。我は情報集めに終始する。攻略法を発見次第、伝える」

 「頼むぞ……」


 そろそろ完全に煙幕が晴れる。


 煙幕が晴れてからのアヌビスの動きは、大きく分けて5パターン。

 ひとつ、瞬間に接近し近接に持ち込まれる。

 ひとつ、瞬間に射撃し、迎撃の隙に距離を詰めて近接に持ち込まれる。

 ひとつ、射撃に傾倒し、完全な中、遠距離戦になる。

 ひとつ、様子を伺い、なにもしてこない。

 そして最後の一つは、今までに見せてこなかった戦法、または技で攻めてくる。


 5つ目をされたらどうしようもないが、少なくとも接近戦に持ち込まれたく現状―――どうにかして、1つ目二つ目を避けなくてはならない。

 だとするなら―――


 「矢継ぎ早の射撃で……」


 ―――近づかせる暇を与えない。


 そう判断した瞬間、真司は煙幕が晴れるギリギリのところで射撃を開始する。

 アヌビスからしたら、突如始まった弾幕の嵐。驚きつつも彼はそれを避けるために動くしかない。


 「くっ……やけくそか!?」


 アヌビスの言葉の通りに受け取ってもおかしくない攻撃。

 確かに、腹の中がどんどん重くなっていく彼は動くことができず乱射しか選択肢がないように見える。


 しかし、ちゃんと真司にも考えはある。


 (近くに人の気配はない。なら、ある程度の爆発は問題ないはず……)


 なにかをたくらむ真司は乱射によってアヌビスを近くのビルに裏手に誘導し、彼もゆっくりとアヌビスを射線から外さないように移動を続けて目的のものを発見する。


 「まさか……!?真司、壊した建物は―――」

 「お前が直せ」

 「ばっ……!味方かどうかを図られてるんじゃないのか!」

 「平和と保身―――どちらを取るか。答えなんて、あの日からとっくに決まってる」

 「だとしても……!」


 制止する青龍の声を聞かずに真司はそのまま発砲する。

 放たれた弾丸はアヌビスを捉える―――ことはなく、すぐ後ろにあったタンクに着弾した。


 着弾は2発―――1発目はそのタンクを貫通し穴をあけて中のガスを噴出させる。そして、2発目は貫通した穴の淵に掠めさせて火花を散らせて、ガスと酸素の混ざり合った空気に着火させる。


 (日本の都市部ならこうはうまくいかなかっただろうな……)


 弾丸が火花を散らせた瞬間、アヌビスの背中でとてつもない爆発が起きた。

 周りの建物を巻き込んでの大爆発は見事に相手を捉えて、真司の思惑は完璧に成功した。


 彼は表情を崩すことなく飛んでくる瓦礫を耐え続けながら、アヌビスの沈むさまを拝もうとする。


 しかし、今は爆発の影響で起きた瓦礫の倒壊などの煙で前が見えない。

 その状況に、青龍もしびれを切らす。


 「どうなった!」

 「ふぅ……倒せてねえな。明らかに気配が残ってる」

 「―――待て。なぜ、真司が魔物の気配を察知できてる?」

 「今はどうでもいいだろ。次が最後の一撃だ」

 「ああ……わかった」


 煙が晴れ始めると、段々と爆発の中心部が光っていることがわかる。正体は謎だが、真司にも青龍にもだいたい何のかは察しが付く。


 「まだあれだけの力があるのか……」

 「舐めるなよ、人間……」

 「舐めたことはねえよ。ただ、しぶといなと思っただけだ」


 万全とは言えないくらいにはボロボロになったアヌビス。その姿を確認するも、相手はなにか魔力と言うのだろうか、力をためているようなしぐさを見せていた。


 「ぶっ飛べ青龍、人間!」

 「そうはいくかよ」


 アヌビスが叫びながら弾を放つが、真司もそれに対応してクリスタルを銃にかざして射撃する。

 両者の放った弾は、お互いに衝突し、強烈な衝撃波を放つ。


 互いに拮抗した力。ゆえにちょうど真芯で捉えることができなかったため跳弾となり、真司のは上にアヌビスのものは下の地面に直撃と言う形になった。衝撃で砂煙が巻き上がって前が見えなくなるが、真司は一瞬の窮地を脱したとみて安心する。


 ―――しかし


 トン……


 腹部に何かが触れる感覚―――彼の腹にアヌビスの手が添えられていた。


 (まさか……詰められた!?)


 「油断、だな……」

 「まず……!?」

 「『断、罪』……」


 そうアヌビスが言った瞬間、真司の腹の中で何かが暴れるような感覚に襲われる。


 「ごはっ……!?」


 吐血するような感覚を覚えながら、真司は前のめりに倒れこもうとする。


 「おっ、と―――まだだぞ」

 「ぐっ……」


 しかし、倒れこむ寸前にアヌビスに顔を鷲掴みにされてダウンを阻止される。

 そのまま前に倒れこもうとしていた彼の動きに反するようにアヌビスは、後ろに倒れこむように放る。


 しかし、放っておいて倒れこむことを許さずにアヌビスは真司の胸に蹴りを打ち込んで後方に吹き飛ばす。


 「ぐえ……」


 ガラガラと音を立てて崩れる建物とともに彼は、どんどんと学校のほうに向けて飛んでいく。

 そして、ようやく止まったかと思えば、そこはもう避難が完了していない。と言うより、想定戦闘範囲をゆうに超えている場所だった。


 「くそっ……勝てるわけねえ。こんな腹にハンデがある状態じゃ……」

 「諦めるな!真司、お前が戦わなければ……」

 「わかってる!でもっ!機動力が―――戦力に差がありすぎる!」


 負けは濃厚だった。

 ここまでよく食い下がった方。


 しかし、それでも負けたくない。負けるわけにはいかない。

 そんな感情が、いつの間にか彼の力を欲する原動力になっていた。


 (そうだ……もっとだ、もっと機動力が―――力が、もっと強い力が……いや、初見殺しでいい。今を―――窮地を脱せる力さえ……)


 「あああああ……ああああああああああ!」


 追い詰められた真司の絶叫。それが招いたのは、いつか見た体中に迸る電撃。そして、いつか見たボロボロのマントだった。

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