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救世のディアフトライ  作者: 波多見錘


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罪の重さ

 正体不明の毒。

 それは、真司の体を蝕んでいった。最初は、腹の中に存在する異様な異物感のみだったが、いつしかその異物感は重みへと変化していき、真司の動きに制限をかけていった。


 「ぐっ……なんだ、これ……」

 「なんだこの毒は……見てくれはクモ形のセクト級だというのに」

 「魔界の門の力じゃねえのか!」

 「違う……門の力は、この魔物からは感じない」

 「じゃあ、さっきの再生能力は!」

 「違うものと考えるべきだ―――まさか、我の知らない新たな力……?」


 クリムゾンの力で無理やり拘束を解いて距離をとるが、それでも腹部が重くなっていく。

 わけのわからないままに体が動かしづらくなっていくのは、恐怖に値する出来事だった。


 しかし、それでも彼には早く終わらせたい。それだけの理由がある。


 「アリスが、あいつが待ってるんだ……」

 「わかっている。全開で行くぞ」

 「ああ……だああああ!」


 重く苦しい体に鞭打って、真司は走り出す。

 もう倒れてもおかしくないというのに向かってくる彼に、魔物は一抹の畏怖の念を覚える。そして、迫りくる刃。魔物はそれを腕でガードする。


 ブシャア!


 しかし、クリムゾンの力を止めることはできずに真司の剣は相手の肩に命中する。


 「ここだああ!」


 そのまま彼は肩口で止まった剣を下に振り下ろし、肩から腰元まで大きな切り口を作る。

 しかし、その傷もすぐに再生を始める。―――しかし、彼はそこで攻撃を緩めることはしなかった。


 「ふんっ!」

 「ピギャッ!?」


 なんと彼は、再生しつつあった傷口に手を突っ込んだのだ。突っ込んだ手を、自身の切り傷に沿って這わせて、再生して閉じかけた傷をもう一度開く。


 透明の体液が、返り血のように真司にはねてつく。


 そうして彼は持っていた剣を捨てて魔物の後ろに回り込むと、再度開かれて最初より大きくなった傷口にもう一方の手を押し込んだ。


 「グギャ……!」

 「クッソが……きたねえ液体まき散らしやがって!」


 両手を傷口に入れたまま互いの手を反対側に動かす。

 段々と傷は外側から広がっていき、傷と関係なかった場所も段々と裂けながら開いていく。そしてそれが前側から後ろ側に浸食していき―――


 「グギャアアアアアアア!」

 「でりゃああああ!」


 あまりの苦しさに魔物ももがいて抵抗を試みるが、やはり赤い真司にはただの攻撃など意味をなさない。

 そうこうしているうちに、魔物の体からがブチブチと肉が千切れるような嫌な音がし始める。


 音が聞こえ始めた瞬間、真司は一気に腕を振り上げた。


 ブチブチブチブチィ!


 亀裂は見事に背中まで到達し、魔物を真っ二つにする。そのえげつない所業に、クモ形の魔物はなにもすることができず、ただ茫然としていた。下半身も司令塔である頭を失ってしまい、ただ力なく倒れていった。


 上半身は頭は残っているので意識こそ存在するが、真司はそれを気にすることなく近くの壁にたたきつける。

 たたきつけられた魔物は、最後のあがきとばかりに生きようとうつ伏せの形になり、這って空に手を掲げるが、この魔物の核も限界だったのだろう。静かに砕けて、クモの魔物はその命を爆発とともに散らせてしまった。


 「クソ……倒しても治んねえぞ、これ」

 「どういうことだ―――今までは、と言うより魔物の力は、死ねば消える。今回の毒も魔物が死ねば治るはず……」


 相手の魔物を倒しても腹の重みが消えない。

 そのことに、彼は困惑していたが、魔物のことを彼以上に知る青龍のほうが困惑していた。しかし、その疑問はある魔物の一言によって解決するのだった。


 「それは、その毒―――能力の持ち主が死んでいないからだ」

 「「―――!?」」


 声のほうを振り向くと、魔界の扉が開き、中からおぞましいほどの力の波があふれていた。

 しかし、この気配には真司と青龍には覚えがあった。


 「てめえ、アヌビスか……」

 「いかにも―――ところで、罪の重さはどうだ?」

 「罪の、重さだと?」

 「そうだ。貴様のその腹の中にあるものは、罪の重さ―――奪ってきた命の重さというものだ」


 そう言って人界に現れたアヌビスは、すでに天秤を鎌に変えていて、戦う準備はできているようだった。


 しかし、それよりも罪の重さと言う言葉が気になる。彼はその言葉に対して質問する。


 「罪って、なんだ?」

 「それはお前が奪ってきた魔物の数だ」

 「そういうのは罪って言わねえんだ。それに、そう言うんだったら、お前たちも人間の世界を侵攻してるだろ?」

 「すべては法の下に―――貴様ら矮小な存在が決めた決め事など、我らには関係ない。我らは我らの法で裁く。つまり、人間を殺すことは無罪。そして、魔物を殺すことは有罪だ」

 「ちっ、めちゃくちゃだ……」


 吐き捨てると、彼は構える。

 もはや、あの時―――学校襲撃の時のような速度で向かってくるのなら、彼だって反応しきれない。


 しかし、構えると言っても真司は剣を握っていない。つまりは―――


 「貴様らは―――セトを殺した貴様らだけは絶対に許さん!」

 「ぐっ―――!」


 超高速で突進してきたアヌビスの攻撃は、真司の両腕で受け止められる。


 ―――すべての意識、力を防御に回す。

 反撃などと悠長なことを考えずに、とにかく相手の攻撃を防げ、策を思いつくまでなんとしてでも耐えることに全力を注ぐ。


 「ふっ、体が重くなっててくれて吹っ飛ばなくてすんだよ」

 「それは貴様に逃げて避けるという手段を失わせただけに過ぎない!強がりで咆えるな!」

 「強がりかは―――今から見せてやるよ!」


 彼はそう言うと、自身の腕で止めていた鎌に腕を回して器用に上にはじいて、アヌビスの胴をがら空きにする。

 そのままがら空きの胸板に、真司は両手で2本同時に正拳突きをお見舞いする。


 すると、その勢いが完璧に相手の胴に伝わったのか、後方に吹き飛ばす。

 吹き飛ばされたアヌビスは、後ろのビルに叩きつけられて壁の中に突っ込まれるが、すぐに復帰すると鎌を振り下ろし斬撃を飛ばしてくる。


 「遠距離攻撃もできるのかよ!」

 「エルダー級は、そんじょそこらの魔物ではない!真司も強くなっているとはいえ油断はするな!」

 「それは、最初から、してねえよ!」


 ドゴオン!


 斬撃を受けきり、手元で爆発させた真司の姿はアヌビスから一切見えなくなる。だが、煙幕の中が一瞬光ったかと思えば、アヌビスの頬を弾丸がかすめた。


 「……!?」

 「ちっ、外したか……」


 煙が収まり、その姿を現した真司の姿は、赤色の体から黄色の体に変わり、武器も剣から銃に変化していた。

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