呆然と
魔物……
真司はその異変に一瞬で気が付いた。
その日の早朝と同じく、かなり近い位置に出現した気配を前に、彼は動くべきかどうかを思案していた。今は体育祭。しかも、よりによってアリスと玉入れに参加してしまったことで注目を集めている。そんな状況で場から離れようとすれば、少なからずついてくるものもできてしまう。
どうするべきかと悩んでいると、真司の察知からワンテンポ遅れて青龍がしゃべった。
『魔物だ―――って、どうした?』
(いや、なんでもない……)
『早くしろ。このままでは、手遅れに―――』
皆まで言わずとも理解している。それに青龍が気付いたということは、早朝とは違って魔物が暴れ始めたということだ。このままでは、体育祭も中止になる。
そう思って考え込んでいると、アリスが心配そうにこちらを覗き込んできた。
「どうしたの?」
その問いに、真司は周りに聞こえないようにつぶやいた。
「(魔物だ……)」
「(近いの?)」
「(そうだな。それに近づいてきている。もうすぐアリスのリレーだってのに……)」
「(行きなさい)」
アリスの競技に励む姿を見れないことを怒られるのかと思えば、そんなことはなく彼女は魔物に向かわない彼を怒った。
「(どんなことがあっても、あなたは誰かのヒーローなのよ。そんなあなたが行かなくてどうするの?)」
「……」
「(行きなさい真司。私はいくらでも待っているわ。体育祭が終わって、みんなが打ち上げに行っても)」
「(すぅ……ありがとな。行ってくる)」
そう言うと真司は、学校の校舎裏に走っていきそこで変身して戦いに赴いていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
戦いの場ではすでに警察との交戦が―――行われていなかった。
「誰も来ていないのか?」
「もう、世間もお前頼りなのではないのか?」
「いや、そんな馬鹿なはずはない。少なくともいまだ政府は、俺のことは敵か味方かすらも決めかねている状態だ。その状態で警察を動かさないのはあり得ない」
「一般人では思いつかないようなことを考えているのではないのか?」
「だとするなら、それは俺たちにどうこうできることではないな。よし、行くぞ」
「ああ……対象は、クモ形の怪人―――すでに門は開いているな。奴の得意な技は、中距離以上の距離から糸を吐きだすものだ」
「おーけ―――なら、零距離で攻撃の隙を与えなければいいだけだ」
そう言うと彼はクリスタルを回転させて赤色に変化する。
そのまま落ちていた棒切れを手に持って、魔物に斬りかかった。
「でりゃああああ!」
叫びながら行った後ろからの奇襲は、見事に敵の背中に命中し3本の腕を切り落とす。
ちなみに、相手は人間のような体に、背中から6本の腕が生えている。人間のような腕2本に、クモのような腕の6本。計8本と、そこはクモに忠実だった。
しかし、切断した腕(足)は、切り口からすぐさま再生する。
クモの足が即座に修復される話は聞いたことはない。ならば、それは魔界の門の力ともいえるのだろう。
「だるいな。切り口を燃やすってのは効くのか?」
「一般的な物理法則に通じる相手だと思うな。細胞が死のうが死ななかろうが、無制限に再生を続けるだろうな」
「そうか……なら倒す手段なんて……」
「いや、核を破壊すれば一撃だが、この相手はそれを絞れない―――なにか、大きな力に覆い隠されていて、この魔物の詳細が見ることができんのだ」
思いがけない強敵―――セクト級であることは間違いないのに、明らかに今までの存在より強い。しかし、これを魔界の門の力だけであると考えるには少々の疑問がある。
そんな疑念を抱きながらも、真司は剣をふるう。
攻撃が通らないほど防御が固いわけではない。ただ、相手の再生力が高すぎるのだ。斬った傍から回復していく。真司も知らぬ間に、精神を消耗していってしまう。
「グルル……ギピャ!」
一瞬、本当に目にもとまらぬ速さで展開された魔物の背中の腕は、一気に彼の背中にまで回された。
そのまま腕は閉じ、魔物側に真司は引き込まれてしまう。
そして、魔物は真司を引き込んだ瞬間に腹から液体を噴出する。
「ぐっ!?―――なんだ、これ……っ!」
腹に駆け巡る異物感―――ただ液体を浴びせられただけなのに、体の中に固形物を押し込まれたような気持ち悪い感覚。
それに負けじと、彼は自信に巻き付く腕を力づくで剥がし、空いた隙間を使って魔物に両足蹴りを放つ。
そうしてどうにか離れることはできたが、腹の中の異物感はぬぐえない。
「毒、か?」
今は生体装甲のせいで見えないが、真司はだらだらと嫌な汗をかいている。
意識の酩酊もなければ、体が動かしづらいということもない。本当になにをされたのかがわからない。
「く、っそがあああ!」
彼はクリスタルを押し込んで、無理やり魔物を倒そうとするのだった。
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時間は少し巻き戻って―――
「また告白?」
「うん……今度はサッカー部の部長の先輩」
「あー、面倒くさいね、マネの人が手を出すなオーラ出してたもんね」
後者裏にて、いつかの後輩の女子たちの姿があった。
彼女たちは陸上部の女子で、そこそこ容姿がいいのでそれなりにモテる。それゆえに周りからの僻みやっかみなどに巻き込まれてきたため、男子の告白を受けることはない。
それでも告白してくる男子がいるため、日々断る毎日だ。
今日も、メンバーの一人が先輩に呼ばれて告白をされていた。
彼女たち的には、わざわざ体育祭の休み時間を縫ってそれをされるのは疲れるので、正直やめてもらいたいが、相手が先輩の―――しかも、人気者の男子と言うのだから、強く出れない。
「そういえばさ、椎名先輩大丈夫かな?」
「あー、この間倒れてたもんね」
「ああいわれたけど、なんか隠してるような気がするんだよねー」
「マジそれな。でも、私たち先輩と親しいわけじゃないし、聞けないよなあ……」
「あれ?―――あれって椎名先輩じゃない?」
三人が話していると、そこには突如校庭から走ってきた真司の姿を見つけた。
「ほんとだ、なにしてんだろ?」
「そう言えば、転校生の喜瀬川?先輩と付き合ってるらしいよ」
「え!?唯咲先輩じゃないの!?」
そんなことを言っていると、3人は信じられないものを目にする。
目の前の真司がクリスタルを押し込んだかと思えば、最近何かと話題のデモニア0号に変身したのだった。あまりにもこれは非日常すぎて、3人はただ茫然と固まるしかなかった。
「「「は……?」」」




