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救世のディアフトライ  作者: 波多見錘


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玉入れ

 『宣誓―――』


 体育祭は、体育委員の宣誓の言葉とともに始められた。

 真司は例年通りにサボるというわけではないが、見学と言う形で生徒席に居座りつもりだった。その通りに、去年までは選手名簿からも名前が消されていて、完全に体育祭の出場ができないようになっていた。普段の彼の素行の悪さは、仕方ないとはいえ学校内でもかなり目立っていた。


 その影響で名前が消えても教職員たちからも特に問題視されることはなく、また怪我人と言うことも相まって誰もそれに異議を唱えるものなどいなかった。


 しかし、今年は違った。


 彼のそばに番犬のような女がついてしまったのだ。


 その少女は彼の周りを無理やり変えていき、有無を言わさずに捻じ曲げる。半ば界隈での有名人がためになにをされるのか怖くて、怖いようだった。


 まあ、そもそも彼女の気が強すぎて、言うことを聞く以外ないのだろうが。


 そんな環境の中、真司も変わるのかと期待もされたが、結局なにも変わっていない。

 授業はいつの間にか途中でいなくなっているし、そのくせ点数は取る。


 デモニアの件で大きく世間が揺れているが、結局学校規模などその程度の悩みで終わるものだ。


 「真司、頑張るわよ」

 「玉入れだけだろ」

 「あら?リレーにも出てくれるのかしら?」

 「ぬかせ―――知ってて言ってるだろ」


 彼はそう言うと、すぐそこのベンチに座る。アリスもそれに連動するように座り、リハーサルの時のような隣り合ったポジションに落ち着く。

 誰もなにも言わないが、クラスの人間からしたら鬱陶しいことこの上ない。


 二人だけの空間を作り出し、クラス中からのヘイトをなかったことにするようなことは見ていて不快なのだ。特に、真司を嫌う男子は多い。特に遊んでいるメンバーが彼を毛嫌いしている。


 しかし、真司の不良を半殺しにするまで反撃したという噂を聞いて手を出し切れていなかった。


 思いのほか真司は、知らぬところで己の身を守っているのだ。


 『プログラム1―――体育祭最初の種目は「男女別リレー」です。1年生の皆さんは入場門に移動してください』


 「じゃあ行ってくるわ」

 「まあ、頑張れよ」

 「当り前よ―――1位で帰ってきてやるわ」


 そう言うとアリスは意気揚々と入場門のほうへと歩いていった。

 ベンチに一人残された真司は少しだけ寂しさを覚えながらも、彼女の背中を見守る。


 その背中に真司は再度「頑張れ」と小さな声で応援するのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 結果だけ言うと、男子は惨敗。女子は大勝だった。


 男子リレーは途中まではせっていたものの、アンカーの前の走者が転んでしまい一気に順位を最下位まで落としてしまったのだ。

 対して女子は、絶望的と行かなくてもそれなりに差がついて1位は無理かと思われたが、アンカー前の女子とアンカーのアリスがここを巻き返した。


 同じ熱戦であった二つの勝負は、皮肉にも対局の結果を出してしまうこととなったのだった。


 そして席に戻ってきたアリスは、誰にも話しかけることなく真司に話しかけてくる。


 「イェイ!」

 「―――おめでと……あの状況でよく走ったな」

 「私に不可能はないのよ!」

 「はいはい―――この後、なにに出るんだ?」

 「うーん、あとは玉入れとリレーくらいかしら」

 「意外と出てないのか」

 「あら?私の雄姿をもっと見たかったのかしら?」

 「まあそうだな。アリスくらいしか俺と話す奴なんかいないからな……」

 「悲しいわね―――ある意味」

 「あんまそういうこと言うな。俺が自分で選んだことなんだから」


 真司の言葉を聞いて、アリスは彼の隣に座る。そして言った。


 「私が真司のオンリーワンってわけね」

 「まあそうだな」

 「反応が薄いのがむかつくわね」

 「そう言われても……」


 それからは特に問題なく競技は進行していった。と、言うが、そもそも真司が競技に出ていない時点で彼を起爆剤にした問題なんて起こるわけがない。


 そうして迎えたのは午前の部最後の競技―――クラス対抗の玉入れの時間となった。


 この種目はクラス全員が出る競技。それゆえに得点源となりやすいほどに大量得点が狙える種目。

 だというのに―――


 「なんであいつが出てるの?」

 「なんでも喜瀬川が無理やり入れたらしい」

 「え、なんで?」

 「どうせ私情だろ。あいつら付き合ってるらしいし」

 「キモ。そんなことのために私たちは負けなくちゃいけないの?」


 競技開始前、真司は陰口に近い悪口を浴びせられていた。おそらく相手は聞こえているのはわかっているが、それでも陰湿な吐きだし方をしてくる。正直、気にするなと言われても気分は悪い。


 「やっぱ、俺……」

 「真司、逃げるんじゃないわよ。私が隣にいるから」

 「アリス……」

 「どんなにひどいこと言われても、私が盾になるから。せめて、この競技くらいは一緒にさせて」

 「……わかった。この競技の間は耐えるよ」


 そう言うと、真司は合図を待ちながらとげのある言葉の数々を耐えていった。

 アリスも、その言葉の数々にいら立ちを覚えているが、真司のために今は怒るところじゃないとどうにか押さえ込む。


 『位置について―――!』


 これまた、事後報告の形となってしまうのだが、真司の所属するクラスは惨敗だった。


 真司への嫌がらせも兼ねたクラスメイト達の行為があまりにもエスカレートしすぎて、結果的仇となって勝ちを逃した。


 内容を言うと、真司の持とうとする玉のすべてを横からとって彼に触れさせないように画策していた。

 それで、スタートの瞬間選手の半分くらいが真司の周りの玉を一斉にとることに集中しすぎたために、玉を投げることを完全に忘れていたようだった。


 当の真司はと言うと、この目論見をほぼ見切っていたアリスの手によって特に競技に参加できないということはなかった。

 一斉に真司の周りに集まったということは、それ以外が手薄と言うこと。


 真司がヘイトを買っている間に、アリスが自身の手で玉を拾っていった。

 単独で20個ほど集めた彼女は、体育着のへそあたりを袋のようにして持ってきた。そのあまりにも際どすぎる姿に真司は度肝を抜かされたが、アリス自身もそれをわかっていたのか―――


 「このままじゃ私の下乳が全校生徒にさらされてしまうわ」


 などと馬鹿なことを言ったので、彼は頑張ってその玉を消費するしかなかった。

 と、こんな感じで、真司を陥れることに躍起になり過ぎたクラスの人間たちは、皮肉にも真司とアリスが一番楽しめる形を作り出し、そのうえで無残に敗北してしまうのだった。

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