コルバルト
「きゃああああああ!」
あたりに響き渡る絶叫。真司たちが現場に到着したころには、現場は阿鼻叫喚と化していた。
今回は、初めて建物の倒壊なのではなく、人中心に襲っているように見える。
―――だが
「数が多いな」
『カマキリの魔物だな』
「カマキリ……初めてのタイプだな。それにカマキリだとするのなら、繁殖力?それとも、卵から生まれるときの数的な?」
『なんとなく言いたいことはわかるが、魔界において、カマキリの魔物は数が少ない。産卵数は多いのだがな。結局共食いしてしまうから』
「ほえー―――じゃないじゃない。行くぞ!最初からコルバルトで」
『はいはい……』
真司は手首にはめられたクリスタルを180°回転させて押し込む。
今度は、下地が黒でも赤でもなく、青色になる。
今回変身したコルバルトは速度重視の能力。しかし、速度についていくための感覚がかなり鋭利になっているため、通常のダメージがそれ以上に感じるデメリットが存在する。
いつもなら、矢が腕を貫通したくらいは耐えられるのだが、この状態だと悶絶するほどの痛みをおおぼえるようになってしまう。
その姿に変身して、いざ戦おうと思った瞬間、真司の目に入ったものがあった。
「はあはあ、誰か……」
「グルル……」
建物の下。ちょうど、真司たちがいるところの真下に逃げ遅れた女の子がいる。
それを確認した彼は、その場にあった格子のうちの2本をはぎ取り、L字にへし折る。
そのままトンファーのように持ち替えて、いつものごとく変形させた。
形状はほとんどそのままだが、手で持つタイプではなく、自身の腕から生えているような形状に姿を変えて、外側は鋭利な刃物に変わった。
まあ、ここではトンファーブレードと呼ぶことにしよう。
変形を確認した真司は、何も言うことなく少女のところに飛んでいく。
今にも襲われそうな彼女と魔物の間に割り込み、目にもとまらぬ早業で斬り伏せた。
「は?え……」
「早く逃げろ!今のうちならまだ走っても逃げ切れる!」
「は、はい!」
真司の助けた少女は、叫ばれるがままに騒ぎとは違う別方向に進んでいった。
そんなこんなで少女を逃がすことに成功した真司は、すぐさま戦闘脳に切り替える。
「敵の数は?」
「ざっと100……多いね」
「それは俺のセリフだろ。まあ、驚く数値でもないか。多いってだけっぽいしな―――さっさと終わらせるぞ。こいつらのせいで、俺の単位がピンチなんだ」
そう言うと、真司はさっさと終わらせようとばかりに、先ほど変形させた武器に左腕のクリスタルを当てた。
すると、刃の部分に青い光が集まってくる。
それと同時に、真司の感覚もさらに鋭くなり、まるで自身が目で追いきれないほどに加速するようなものだ。
―――
そして、それは音にもならなかった。何かが通り過ぎたような感覚。それだけはあったのだが、魔物たちにはなんの変化も現れない。
そして、突如として起こった爆風。その勢いで、ほとんどのカマキリの魔物が細切れに切れていった。
「やったか?」
「真司、カマキリの魔物は殲滅できない。というより、母体か卵を破壊しないと無限に増え続けるぞ」
「なにそれ?魔界の生態系、イカれないの?」
「さっきも言っただろう?奴らは産卵期やその他いろいろなタイミングで共食いに走って、一気に数を減らす。被害はあるが、そこまでのものじゃない」
「へー……で、母体とかはどこにいんの?」
「おそらく、魔物がやってきているこの町の奥だ」
「わかった。見つけたら言ってくれ」
そう言って走り出す真司。道中は、ほかの人に被害が出ないように一匹ずつ丁寧に屠っていった。
そうこうしていると、明らかに魔物の数が増え始めて、正直真司にも何がどうなっているのかは察しがついた。
「真司、あの建物の中に卵がある」
「ああ、なんとなく察しついてたよ。だって明らかに数多いんだもん」
「そうだな。もう気配を数えるのも面倒になる数だな……」
青龍が卵のある場所と言ったのは、明らかにカマキリの魔物が200―――いや、もっといるかもしれない。
それくらいに凶悪なほどの魔物がぞろぞろと集まっていた。
さすがの真司もこれを突破するのは中々の苦行―――そう思っていた時
ガシャン!
あの時と同じ音がして、空が砕けた。
「「魔界の門!?」」
忌まわしき門。魔物を強化する光を照射する門。
それをわかっていても、二人には見ることしかできない。青龍が教えてくれていたからだ。
―――開かれた門は、何人も破壊することはできない。
門から降り注ぐ光は、一帯にいた魔物たちに当たった。
その光の中で、数多くの魔物たちは一つの魔物に集まり始める。
「なにが……」
「合体しようとしてる?より、大きく強力なものに?」
「あんだそれ!蜂と強化の仕方が違うのか?」
「我にもわからん。だが、あの時のようなへまを……」
「しねえよ。大丈夫だ」
そうして光が収まると、目の前にはカマキリの魔物など一人も存在していなかった。ただ、真司の目の前には、巨大なカマキリが現れた。
人型ですらなくなったその姿に、真司は焦りを覚えた。
さすがにヤバい。でかすぎて、よけるのも大変なのだ。
「グギャアアアアアアア!」
振り下ろされる大鎌。だが、それが通り過ぎた後に真司の姿はなかった。
後ろに移動したのだ。
「あれに当たったら一発でゲームオーバーだろ!やりすぎだよ!」
「そんなことを言ってる場合じゃないぞ。ほら、次の攻撃も―――ここはクリムゾンでごり押しのほうが……」
「却下に決まってんだろ!あれをろくに受けたら、切れるんだよ。打撃とはわけが違う!」
「じゃあ、どうするんだ」
「少しずつ削って、いくっ!」
大鎌を避けた先に、真司は着地する。だが、鎌の上には想定していないことが起きた。
「グルル……」
「うわっ!?キモッ!」
大鎌の中から手が伸びてきて、真司の足をつかんだのだ。
そう、このカマキリは多くの魔物が集合して一匹になったのではなく、あくまで集合体。個々の自我を確立しているおぞましいものなのだ。
そして、真司はそのうちの鎌にいた魔物に足をつかまれたのだ。
「ちっ、これじゃあちまちま削る手段は無理だな」
「じゃあ―――」
「そうだな―――」
「「結局一点突破ってことだな」」
そう言うと、彼は自身のクリスタルを押し込む。
その瞬間、ブラックの時のように青龍の虚像が現れて、腕についていた刃が足に移った。
「狙いは、奴の心臓になっている母体。それの気配はわかるな?」
「ああ、ちょうど腹の部分。下位種は腹でものを考えると言われるくらいだからな。中枢機能はそこに集中しているはずだ!」
「しゃあっ!行くぞ!」
カマキリの心臓に狙いを定めた真司は、そこに向かって走り出しドロップキックの形でその場を跳ぶ。だが、当然のように威力が足らずに鎌に撃墜されてしまうかと思われる。―――と、見せかけて、後ろに待機していた青龍が火球を放ち、それを背中に受けて彼が一気に加速していった。
「どらあああああ!」
ドン!
しかし、その勢いをもってしてもカマキリを貫くことはできない。―――と、思われた瞬間、真司が錐もみ回転を開始した。
そのままドリルの要領でカマキリの装甲を超えていき、ついに母体を撃破する。
母体を破壊した瞬間に、すべてのカマキリの魔物が動きを止めて、黒い灰になって消えていった。
「終わったな」
「そうだな。だが、あの光は一体……」
「考えるのはよそうぜ。もう、あの光はどう考えてもわからん。だったら警戒するだけだ」
こうして、真司たちは人知れず変身を解除して学校に戻るのだった。
ちなみに、すでに学校の授業は終了し、またもや真司のサボりが確定してしまうのだった。