体育祭前夜
―――なぜ力があるのに戦いを楽しまない?私には到底理解できるようなことではない。
奪う快感、女子供が泣き叫び喚く姿はいいものだ。なぜ貴様はその力を思うままに使わない。なぜ、気づかないふりを続けるのだ。私にいくつ、質問させるつもりだ。
お前は誰かに幸せにしてもらうほど弱くもなければ、誰かの力を借りなければ幸せになれない軟弱でもない。ましてや―――
―――魔物ごときの力なんぞ借りなくても、貴様は十分世界を滅ぼしうる力を持っている。
…………
ガバッ!
そんな謎の声にうなされていた真司は、飛び起きた。
夢だったはずなのに、はっきりとその言葉を覚えている。
「力が、ある……」
呟いてみて、確認のために自身の手を何度か開いたり閉じたりするが、当然変化はない。ただ、自身の夢の中で効いた言葉を無視するということもできない。
真司が一般人なのなら、厨二病を拗らせただけで済ませるが、今の彼は一般人と言えるほど都合は良くない。
あの言葉の真意を知ることは彼にはできない。―――そう思っていると、頭の中で何かが駆け巡る衝動……魔物の出現を感知する。
「まだ、攻撃態勢には出ていない―――青龍はまだ気づけない。行くしかないか」
そう言って、真司はベッドから飛び上がると家から飛び出した。
勢いよくしているため、母親が起きるかもしれないがそうも言ってられない。かなり強力な気配を彼は感じていたから。
しかもよりによって、町の中―――かなり近いところにいる。
しかし―――
「っ……!?消えた……?」
突然その気配が消えたのだ。
特に暴れることもなく消えていったことに違和感を覚えるも、なにかできるというわけでもない。
そもそも青龍が感知していない時点で変身ができない彼は戦うこともできないはず。
『む……ここは?』
「ああ……外だよ」
『なぜ外に?寝ていたはずでは……』
「―――最近色々あったからな。少し冷たい風に当たりたくてな」
『そうか、なら我はもう少し寝る』
青龍はそれだけ言うと、音もなく眠ってしまう。まあ、いびきが脳内で響き続けたら彼の頭がおかしくなってしまうので、音があっても困るのだが。
青龍がいなくなったところで真司は考える。
今日の夢の声はなにか。自分がなぜ魔物の気配を感知できるのか。そして、最大の謎はなぜあの時自分にだけ青龍の言葉が聞こえて、戦う力を持つことができたのか。
もちろん青龍に選ばれたから。だが、それだけで片付けるにはどうしても違和感があった。
特になにか証拠があるわけではないが、この違和感をぬぐえない限り彼は力をふるいきれないのも確かだ。
そしてこれが、アリスが来る数時間前の出来事―――この後、家に帰って就寝するが全然寝れずに、睡眠不足になるのはここだけの話だ。
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朝食を終えた後、登校までの時間は真司の部屋で過ごすことになった。
先ほどの母親の前でのキスが響いているのか、お互いに会話がなかいが、それでもお互いの手はがっしりとつかんでおり、熱を感じあうには十分。そして、その静寂を破ったのはいつも通りアリスだった。
「ねえ……」
「なんだ?」
「私のこと好き?」
「好きだよ」
「私も……」
ほかの人が聞いていたら悶絶しそうなじれったいやり取り。だが、これはこの話を振ったアリスが悪い。
「そういえば、体育祭の全部の競技に出ないの?」
「そうだな。怪我してるって名目で体育休んでるからな」
「でも、玉入れとかクラス競技くらいは出れるでしょ?」
「あのなあ……俺がどんだけ嫌われてると思ってんだよ」
「―――そうだったわね。本当、なんであなたのことを誰も理解しないのかしら」
「自分のことを理解しようとしてもらおうとするのは、ただのエゴだ。まあ、それでもたまたまだったとしても俺のことを理解できる人のことは大事に思うけどな」
「じゃあ、私は真司にとって大事な人なのね?」
その言葉に返答はしなかった。
その代わりに、彼は珍しく自分から行動に出た。
つながれていた手を放し、自分と反対側の彼女の肩に乗せる。そのまま彼女を己の胸の中に抱き込む。
「これが答え」
「ふふっ……照れ屋さんなんだから」
「うるせえよ。慣れねえんだよ、こういうの」
アリスの綺麗な金髪が自身の顔の目の前にやってきて、シャンプーの心地よい香りが彼の鼻腔をくすぐる。そしてそれは、自分が鼻にしてきたどの匂いよりも心地よく脳がとけてしまいそうになる。そんな気持ちの悪い思考を巡らせながらも、アリスを抱き続けると彼女は言った。
「いい匂いでしょ?」
「な、なんのことだか……」
「いいのよ。半分そのつもりだし―――なんならあなたにいつ襲われてもいいように、すでに朝の湯浴みは済ませてるわ」
「ただの朝風呂だろうが」
「もう、雰囲気ないわね」
「ほら、もう時間だから行くぞ」
「あ、ちょっと!……っ!?」
真司はその場の雰囲気に耐えきれず立ち上がる。
アリスもそれに続いて立ち上がるが、たたらを踏んでコケてしまう。
しかし、それを真司が受け止めた。
「気をつけろ」
「あ、ありがと……」
「可愛いんだから、もう少し自分のことは大切にしろよ」
「いいのよ。なんせ、私の彼氏が守ってくれるもの」
「はいはい」
会話をしながら真司は出発の準備を始める。とは言っても、用意するのは体育着のみ。
それも彼は運動をしないので、本当に必要ない。本当は制服で応援席にいたいが、暑いし、学校側の規則として参加できない場合も体育着を着るとあるので、素直に持っていくしかない。
まあ、授業サボりまくりの彼が今更なにを言うと言いたいが、彼自身やりたくてサボっているわけじゃないので、これは仕方ないことと言える。
例年なら出席をとるために流し目程度に眺めている程度だったが、今年だけは本当に集中してみようと考えている。特にリレーを。
なんせ自身の恋人が走っている様を見ることができるのだから。
「ん……なに?」
「いや、ただ頑張れよってだけ」
「当り前よ。誰よりもあなたが見ているのよ、手を抜く理由も負ける気もないわ」
「そうか」
「それでね真司―――もし私の活躍で優勝出来たら……」
「体の関係は―――」
「違うわよ。もし出来たら、今日の夜、添い寝してくれない?」
「―――いいよ。いくらでもアリスの言うこと聞いてやる」
「あ、言ったわね!言質とったからね!」
「はいはい……お好きにどうぞ」
口では適当に言う彼だったが、アリスはがぜんやる気になり、真司もそんな彼女を応援するのだった。




