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救世のディアフトライ  作者: 波多見錘


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屋上で襲われかけて

 今朝、真司は数日ぶりにアリスと歩いた。


 昨日に恋人関係になったものの、だからと言って何かが変わったわけではない。

 手を繋いでいるわけでもないし、腕を組むわけでもない。ただ普通に横に並んで歩いているだけ。ただそれだけでも、二人は十分幸せだった。


 真司にとって、恋なんてもうできないと思っていたし、アリスも好きな人と結ばれることができて、それだけで満足であった。

 そうして、二人は程よい距離間で横に並び登校した。


 学校は体育祭シーズンということで、少しずつ会場づくりが進んでいき、いつもの校庭とは違う姿に変わりつつあった。


 「アリスはどの競技に出るんだ?」

 「私は、女子リレーとクラスリレー、あとは学級選抜リレーね」

 「アリスって足速いのか」

 「そうね。ぶっちぎりというわけではないけど陸上部とタイマン張れるくらいにはね」

 「じゃあ、当日はしっかり応援しないとな」

 「あら、ちゃんと体育祭には来るのね」

 「まあ、出席取られるしな。数少ない出席数を稼がないと、留年しちまうからな」

 「変なところは真面目よね」


 そう言いながらアリスはごく当たり前のことのように真司の机に自身のをくっつけて話す。

 ラブコメのように肩に頭をのせたりはしないが、今朝に比べると距離感が近い。


 そんなアリスの行動に一瞬驚くも、いつも通りにふるまう真司。

 距離感が遠くなったと思ったら、またも近くなった二人にクラスメイト達は驚いているが―――


 体育祭が近い。それだけで、授業の大半が体育に変わり競技の練習に時間を割くことになるのだが、それが終われば間髪入れずに中間テストが始まる。なんと体育祭の次の日からテスト1週間前だ。


 その事実に学校の生徒はおびえつつも体育祭に取り組んでいる。だが、真司にはそんな心配はなかった。

 なんせ彼は運動ができない。本当はできるのだが、一度事故の影響で無理だと言ってしまった手前、体育に復帰することは彼にとって不可能なこと。となれば、体育祭の練習などせずに勉強している方が有意義なのだ。


 そうして時間も過ぎていき、彼にとって退屈ともいえる時間が過ぎていき、昼休みになる。その時間に。彼はアリスと弁当を食べる約束をしている。

 着替えのない彼は彼女よりも素早く移動して、すでに食べ始めていた。


 そこにアリスがやってくる


 「あ、もう食べてるの?」

 「休み時間は短いからな」

 「本当よね。なんで1時間もないのかしら。ゆっくりお昼ご飯食べたいわ―――あ、これおいし

 「それは母さんに言ってやれ。毎日仕事と弁当―――朝早く起きてやってくれてんだ」

 「本当にあなたってマザコンね」

 「うるせえよ」

 「否定しないのね」

 「はあ……父さんに裏切られて、憔悴して自殺までしようとして―――気にかけないわけもないし、ひどい言葉もかけられるかよ」

 「―――マザコンなんて言って悪かったわね」


 真司のカミングアウトにアリスは言葉のトーンを下げてしまう。だが、真司はさほど気にしていないようで、口に運ぶ橋の速度を緩めることはなかった。


 その姿にアリスもなにか思うことがあったのか、彼女の弁当に入っていたハンバーグを箸でつかむとおもむろに真司の口に近づけていった。


 「あーん」

 「……?なにしてんの?」

 「日本では好きな人にこうするのが当たり前なんでしょ?」

 「お前、絶対確信犯だろ。そんなこと―――」

 「あら?私のパパママはやってるわよ?パパもこれが普通って言ってたし」

 「はあ……半分というかほぼ全部間違ってるな―――まあいいか」

 「あら、意外と素直ね―――あーん……ふふ、なんか真司が可愛く見えるわ」

 「もう2度とやるか」

 「えー」


 真司がちょっと不機嫌そうにそっぽを向くと、アリスもそれが不満とばかりにくっついてきた。


 「お前さ、くっつき過ぎじゃない?」

 「あら、これくらい普通でしょ?感情は体で表現するものよ」

 「一応ここは日本だからさ、お淑やかにしていた方がモテると思うぞ」

 「いいのよ。私が生涯に人を愛すのは一人だけって決めてるの。たとえあなたが死ぬことになっても、私はあなただけを想ってあなただけを生涯の伴侶として生きていくわ」

 「おっも……若気の至りってやつか。20後半くらいになったら、それも変わるだろうしな」

 「あなたは本当に私のことをわかってないわね」

 「お前も俺のこと知らないだろ?」

 「それはどうかしらね」


 そう言って彼女は真司にべったりとくっついた。

 あまりにも唐突な行動に度肝を抜かれる彼だったが、それ以上のことが彼を襲った。


 「ちゅ……」


 アリスが彼に抱き着いて、頬にキスをしてきたのだ。

 だが、それだけにとどまらず、彼女は抱き着いた態勢のまま真司に呟く。


 「私は知ってるわよ。強がってるけど、寂しがり屋で夢を諦めきれてない弱いあなたを―――そして、私にこうやって迫られてる時に、頭で考えて言葉で否定してるけど、でも本当はこうされるときの温もりが好きで、愛おしくてたまらないって思ってることも」

 「は、離れて、くれ……」

 「私はもうあなたを離さない。言ったでしょ?あなたを一人にしない、って」


 言いながら彼女は離れようとしない。むしろ、真司が拒絶の言葉を出せば出すほど全身をくっつけてくる。


 「そして、少なからずあなたは私の体に興奮してる」

 「な、なにを……」

 「あなたの部屋にありきたりにエロ本なんてなかった。でも、パソコンにはいっぱい履歴があったわね」

 「待て、パスワードがあったはずだぞ」

 「そんなものすぐに解いた―――というより、見ちゃったのよ。あなた、意外と人の目の前でパスワード開けちゃうんだもの」

 「しでかした……」

 「ここ最近、私と出会ったくらいの時から、視聴回数が増えてるわよね?」

 「もう、黙ってくれ……」


 予想外の攻めに真司はタジタジになってしまうが、アリスはそれだけでは許さない。

 というか、彼女はこの状況を楽しみ始めている。


 決してヘタレというわけではないが、彼自身の運命のせいで彼女に手を出そうとしない。少しだけ悲しい事実だが、襲われないことがわかってるアリスはこうして真司を気兼ねなく攻め立てることができる。


 「ほら、私の自慢の体があなたなら好きに―――ひゃあ!?」

 「はあ……はあ……」


 そう思っていたのに、突然屋上の床に押し倒されたアリスは本気で驚いた。

 そして、仰向けになったアリスの上に覆いかぶさるようにしている真司は、息を荒立てていた。


 「ちょっ、真司?……ま、待って……」

 「はあはあ……」

 「待っ、て―――お願い……」


 覚悟をしていたつもりだった。だが、いざその時になると、アリスは若干の恐怖感を覚えてしまった。

 恐怖感からか自然と涙をこぼしてしまった彼女を見た真司はすぐに我に返り、彼女から退いた。


 「悪い……でも、怖いなら本当にそういうことはしないでくれ」

 「ごめん、なさい。でも、私があなたとしたいのは、本当なの……」

 「嘘はつかないでくれ」

 「バカ!私はあなたに嘘なんてつかない!大好きな人に、傍にいてほしいもの!」

 「……」


 返事はない。

 ただその叫びに、真司は頬を赤らめながら緩めさせるのだった。




















 「(ごめんな―――長生きできなくて……)」

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