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救世のディアフトライ  作者: 波多見錘


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始まりの君へ

 ―――体の自由が利く。


 普通の人にとって、それは当たり前のことだろうが、昨日までの真司にとっては違った。


 病院でリハビリをして、ようやく退院して最初の壁がこれだった。

 どれだけ筋肉が回復し、ギプスを外した直後よりはマシだったが、それでも後遺症のような症状が残り、彼は前ほど体を動かせなくなっていた。


 日常生活に支障はないと聞いていたが、問題ありありだった。

 なんせ、自分が今までできていた動きができなくなっていたのだから。


 それが昨日の出来事で一変したのだ。


 契約―――戦い、命を削る代わりに元の体以上の性能を渡された。

 元々希望もなにもない彼にとって命を削るということに迷いはなかった。そんなことよりも、世界の危機―――自分の大切な人が死ぬかもしれないという事実に躊躇している場合ではなかったのだ。


 『起きたか?』

 「うおっ、なんだ!?」

 『我はお前の中にいる。いつでもこんな風に話しかけることができる。これには慣れてもらうしかない』

 「慣れ、ねえ……まあいいや。学校ではあんまりやるなよ。さすがに学校で急にビクつくのはまずいだろ」

 『まあ、魔物が出てきたりしなければ、我も出てきたりはしない』


 そう話して、真司は学校に向かうが、青龍が四六時中話しかけてくることになるのだが、それはまだ知ることじゃない。


 退院後も問題なく学校に通う真司には、一つだけ問題があった。

 やはり事故に遭い、入院していたともあり、クラスの人間からの同情の視線がキツイ。それに、幼馴染である美穂の勧誘がしつこいのだ。


 「あ、真司……おはよ」

 「……」

 「ねえ、やっぱり水泳部のマネージャーになろうよ。真司ならさ、選手のことよくわかると思うし、良いマネになれるよ!」

 「……」

 「ねえ……だからさ……返事くらい、してよ……」

 「なあ―――」


 美穂は勧誘がしつこい。それは彼女なりに真司に寄り添って考えようとしてくれたから、どうにか笑ってほしいからどこまでも食い下がってきているのだ。


 彼女にとっての幸せは、なによりも彼が笑うことだった。

 彼の頑張る姿を見てきたからこそ、美穂は頑張れたのだ。


 彼女は願っていた。どんなに壊れて、間違っても―――いつか優しい真司は帰って来てくれる。そんな期待を込めた彼女の言葉は、彼の一言によっていつも一蹴される。


 「何度言ったらわかるんだ?戻る気もないし、マネもやる気はない。―――そもそも、お前は俺に惨めな気持ちになってほしいのか?」

 「違う!わ、私はっ!真司に笑ってほしくて……」

 「あのな―――夢ってのはな、自分の道を縛る枷なんだ。志破れて夢へのレールから外れても、一生ほどかれることのない枷が俺を縛って苦しめ続けるんだ。これ以上、誰かの活躍する姿なんて、見てられねえよ」

 「でも!いつか、真司だって運動が―――」

 「できねえよ―――バカな期待してないで、大事なエース様のマネージメント、した方がいいんじゃないの?」

 「……ばか―――なんでわかってくれないの……」


 二人の言い合いは、いつも真司の一言で美穂が半泣きになって終わる。

 いつもこんな言い争いをするものだから、基本的に真司が退院した後の教室は空気が重い。そして、そのヘイトは全部彼に注がれている。


 正直なところ、クラスの全員は美穂の気持ちを知っている。だからこそ、真司のあの態度を許せないのだ。


 『お前はあれでいいのか?』

 (急に話しかけるなと言っただろ)

 『我が質問しているのだ』

 (いいんだよ。あいつは俺といてもどうしようもない。だったら、あいつと本気でぶつかれる加藤のほうが……)

 『……人間とは難儀な』


 そうしてHRも終わり、授業が進んでいくと、また青龍が突然話しかけてきた。

 先ほどとは違い、少しだけ神妙な空気を出していたため、彼も無下にはできなかった。


 『真司、覚悟はいいか?』

 (なんだ急に?)

 『魔物だ』

 (授業中だぞ?)

 『わかっている。だが、どちらが大切だ?』

 (……どこに行けばいい?)

 『物分かりが早くて助かる。―――南西に30キロほどだ』

 (遠いな)

 『大丈夫だ。すぐに移動できる―――今のお前なら、2分もかからない』


 それを聞くと、真司は立ち上がり、なにも言わずに授業を抜けようとする、だが、そんなことを高校教師が簡単に許すはずがない。

 すぐに気付き、真司を席に戻そうとする。


 「おい、十神。どこに行く?トイレなら一言―――」

 「さっさと授業続けとけ」

 「なっ!?お前、先生に向かってなんだその態度は!」


 ガラガラガラガラ


 「あ、おいっ!待て!」


 そのまま彼は先生の言葉を無視して、学校を飛び出していった。


 「真司……」


 その姿を、心配そうに見る美穂だった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 青龍に言われた場所に到着すると、そこには魔物と言われる怪物がうろついていた。


 「あれが魔物……」

 『驚かないのだな』

 「昨日、お前を見たんだぞ。むしろ、こんな虫みたいなやつまだ可愛い方だろ」

 『お前、そういう趣味か?』

 「どういう勘違いだ―――で、俺はどうすればいい?」

 『左手のクリスタルを押し込んみろ』

 「こうか……?」


 言われたとおりにクリスタルを押し込むと、すぐに真司に変化が訪れる。

 真司の体は黒く変わり、昨日見た青龍が小さくなった姿で出てきて、自分の周りにくっついていく。


 その姿こそが、後の0号と呼ばれる存在だ。


 「姿が変わった……」

 「この姿でなら魔物と対等にやりあえるはずだ」

 「対等に……ていうか、普通に肩から喋んなよ」

 「仕方がないだろう?ここが一番ちょうどいいのだ。足でもいいが、意味がわからないぞ?」

 「まあいいや。殴ってればいいのか?」

 「そうだな……まあ殴れば問題ない。この姿では、これ以上できることもないはずだ」


 この姿という言葉に、わずかだが引っかかりを覚えたものの、真司はそのまま魔物殴り掛かった。

 おそらく、彼の美点はここだろう。


 なにかが危機にさらされる。それが分かったときに、彼は迷いなく相手を襲える。そしてそれが、後のヒーローとなりうるものの素質なのだろう。


 「しっ!」


 単純な肉弾戦―――経験のない彼は、見よう見まねでパンチを繰り出す。最初こそ力みまくりのなんのダメージもない拳だったが、段々とそれは速く重く変わっていき―――


 「ふんっ!」

 「ぐぎゃ!?」


 胸を捉えた一撃―――それが魔物の核を破壊し、真司は初めての戦闘を白星で終えるのだった。

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