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救世のディアフトライ  作者: 波多見錘


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デモニアと0号

 ―――動物愛護主義者が騒ぎ始めた。


 団体のほうはコメントを避けているが、明らかにSNSでの動きが活発になってきている。


 前々からちらほらとそういった話は見受けられて、そのユーザーたちからの非難の声はあったと言えばあった。

 だが、先の戦いにて、ぼろきれののように打ち上げられて真っ二つにされる魔物を見て、その意見が激化した。


 まあ、それでも被害が出ているために、その発言はすぐに炎上し終息している。

 あまりにもひどい意見はネットの特定班が動いたりしているが、それは真司たちの知ったことではない。


 『さて、今日の特集は早朝に出現した怪物騒ぎについてです。では、専門家の大門さん』

 『皆さん、おはようございます』

 『では、早速ですが、今回の件―――なにかわかることがあるんでしょうか?』

 『そうですね。この映像にある虫の怪物は、この相手の怪人と敵対関係にあるのではないかと思われます』

 『それはなぜでしょうか?』

 『みなさんも知っているように、この虫の怪物に限らず、相手の怪人は多くの怪物が騒ぎを起こすたびに怪物を討伐し、姿を隠しています。私たちの味方―――という見方もできるかもしれません。ですが、そうは言いきれないにしても、ここまでくると怪物たちとこの怪人は敵対関係にある可能性が高いとみられます』

 『それで、この怪人は―――はい……はい―――ここで速報が入りました。今朝政府の発表より、現未確認の存在である怪物をデモニアと呼称することとし、そのデモニアと対峙する存在も同一の存在として、デモニア第0号―――以後、この存在を0号とすることを決定しました』


 テレビの報道を見ていると、真司は唐突に政府から0号の名前を与えられてしまった。

 しかし、彼は大した興味を示すことはなく、ただぼーっと朝ごはんを食べているだけだった。


 「真司の名前、0号だって―――政府の割には微妙なセンスよね」

 「勝手にさせればいいだろ。いつまでも怪人怪人って言われるのも、あんまり気分は良くないし、名前があるだけマシだろ」

 「そういうもの?お義母さんは、0号って名前どう思うの?」

 「わ、私か!?―――し、真司は真司だし……でも、0号ってなんだかカッコよくないか?」

 「うーん……」

 「つか、ナチュラルにアリスがいるよな」

 「いいじゃない。お義母さんが作ってくれたのよ。いただかないと失礼じゃない」

 「……いや、いるなって言うつもりはないけどさ」


 言いながら真司は疲れ切った体と精神を回復させるためにゆっくりとする。

 そんな姿に一抹の安心を感じる母と愛しい彼が休めている姿を見てわずかな喜びを覚えるアリスだった。


 そんな家族団らんとも呼べる空間の中に、ついていた報道の中で整理がついたのか、また専門家がしゃべり始めた。


 『かいじ―――0号には少し気になることもあるんです』

 『気になること―――それはなんでしょうか?』

 『最近の0号の破壊行動が目立つようになっているんですよ』

 『そうですね。今のところ犠牲者は出ていませんが、すでにビルの倒壊など数億円規模の被害が出ています』

 『でも、その0号による被害は最近出てきているんです―――最初の0号の出現が確認されたのは、2年ほど前ですが、それまでの2年間、ほとんど0号は先頭による多少の破壊が見られても、今回などのように数億円規模の被害は一度では出していませんでした。ですが、これを見てください』

 『これは?』


 専門家が出したのは、二つの写真だった。

 片方は通常のクリムゾン。そしてもう片方は真司が暴走した時のクリムゾンだった。


 『皆さんは映像でも見たことがあり、0号は体の色を変化させて戦っています。この映像では赤いですが……青いときも黄色いときも黒いときもあります。ですが、今回の変化は違いました。―――これを見てください。赤の0号ともいえる姿ですが、違うとも言えます。遠目の写真を引き伸ばしているので、多少画像が荒いですが、マントのようなものを羽織っているようにも見えます』

 『それがなんの関係があるのでしょうか?』

 『この姿になったのは2回だけで確証はないのですが、私はなんども映像を見て気付いたんです。普段は理性的かつ、守るような戦い方をしている0号ですが、この姿になった瞬間―――行動パターンが変わったんですよ』

 『変わったというのは……』

 『破壊的―――いえ、前の姿よりも大胆かつ力に頼った戦い方になっているんです。例えばここ。通常の赤の状態では、的確に急所を捉えつつダメージを与えていますが、この姿になったときには力に身を任せるかのように執拗に距離を詰めるんですよ』

 『そんなことが……』

 『もちろん、私の気のせいということもあるかもしれませんが、もしかしたら0号は多重人格なのではないでしょうか?確証はないにしろ、この姿とこの姿では、明らかに違う人物が戦っているとしか―――』


 ぷつっ


 専門家が言い終える前に、アリスがテレビを消した。

 聞いていて、気分が悪かったのだろう。少しだけ不機嫌になっている彼女はぼやいた。


 「なによ―――好き勝手言って。真司はちゃんとした正義の味方よ」

 「そうとも言い切れないな」

 「真司はあいつに言われてることがムカつかないわけ!」

 「多重人格―――いい得て妙というか、半分あっているというか」

 「どういうこと?」


 真司の言葉にアリスはキョトンとする。まさか、彼が専門家の言葉をあっているだなんて言うとは思っていなかったのだろう。

 しかし、そんな彼女を置き去りにして彼は話した。


 「俺はそのマントを羽織った姿を知らない」

 「へ?」

 「記憶にない―――覚えていないんだ。そうなると、ある意味でそのマントを羽織っているとき、俺は暴走しているんだ。俺でない何かが戦っている。そう考えれば、多重人格というのもあながち間違いとも言い切れない」

 「ぼう、そう……?」


 この時には真司はもう気づいていた。

 自身の体に置き始めていた異変を―――そして、彼自身が人間という枠組みから飛び出して、段々と……


 わかってしまった。なぜ青龍との契約で死んでしまうことになるのか。

 それは、すべて魔物という言葉に帰結するということを。


 そして、母とアリスは暴走という言葉を聞いた時点で、彼を止めるべきだった。

 いつかの日―――運命の日はもっと早くにやってくる。

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