クリムゾン・アサルト
「グゴガ……」
クリムゾンに変化した真司に頭を鷲掴みにされて、魔物はどうにかその手を振りほどこうともがくが、少しもその手を引きはがすことができていない。
それどころか、段々と力が加わってきて、もっと締め上げてきた。
「ふぅ……まだいける―――暴走しないうちにケリをつけないと……」
そのまま彼は魔物を掴んでいる手を大きく振り上げて、吹っ飛んできた方向にぶっ飛ばした。
そのまま直線状にあるビルに衝突して、真司が作った穴と同等のものを生み出した。
現在はほとんどの人間が帰宅している。夜勤や残業でない限りはあのビルに人はいないはず。それに、避難も完了しているので、ある程度は倒壊しても人死にを出す可能性は低いはずだ。
魔物が吹き飛んだのを確認した真司は、崩れた壁の中から鉄筋の一部をへし折って剣に変形させる。
そこからゆっくりと歩き、魔物に近づいていく。
「グギャアアアアア!」
「ふんっ!」
危機を感知した魔物が高速化して真司に突っ込んできたが、彼はその突っ込んできたところにピンポイントで剣を振り下ろす。
その一撃は見事に魔物を捉えて、相手を地面にたたきつけた。
そのまま追撃を入れるために、もう一度振りかぶり一刀両断の動きで刀が魔物に向かっていく。
「グピッ!?」
「ふんっ!」
「グギャアアアアア!」
一撃を振り下ろし、さらにもう一撃と刀を振り上げた瞬間、魔物が咆哮し、先のプレッシャーで動きを止めようとしてくる。しかし、クリムゾンにそれは通用しない。
真司は、剣を下ろし、魔物の首を持って体を持ち上げると、そのまま振動している羽を掴んだ。
なにをするのかと思えば、おもむろにその羽をむしり取ったのだ。
「ギヤアアアアアアア!」
「うるせえ、よっ!」
羽を毟られて絶叫をあげる魔物の腹部にストレートをお見舞いしてさらに後方に吹き飛ばす。
後ろのビルも貫通して、もはや何が起きているのかがわからないが、少なくともテレビでやっているような正義のヒーローの戦い方ではない。わずかながらにも、あの電流の影響が―――
バチバチバチ
「ぐっ……」
「大丈夫か?」
「まだ、大丈夫。もっと冷静に……相手をつぶすことだけを……」
「相手は魔界の門がすでに開いている状態だ。今のままなら押し切れる。このまま興奮せずに―――真司?」
「つぶす……殺す……殺す……殺す殺す殺す!」
バチバチバチバチ!
「真司!?なんで急に!―――クソッ!落ち着け!」
「グアアアアアア!」
その咆哮と同時に、真司の背中にはボロボロのマントが生えて、腕には亀の甲羅を思わせるものができる。先の戦いで真司が暴走した時と同じようにだ。
それを青龍がなんとか制止しようとするが、すでに青龍の声が届かないところに真司は行ってしまっていた。
「ウワアアアアアア!」
さらなる変身が完了した真司は、クリムゾンとは思えないスピードで魔物と距離を詰めて剣を振り下ろした。
ズガァン!と音を立てて周りの瓦礫を吹き飛ばし、見事に剣の刃が敵の腹部に刺さった。
「グギギ……」
魔物から剣を抜き、首を乱暴につかみそのまま空中に放り投げる。
暴走した真司は、放られた魔物を一切見ることはなく、剣にクリスタルをかざした。
魔物のほうは、もうすでにボロボロで、先ほどに体の核―――人間の心臓とも呼べる場所を貫かれたことでもはや文字通りに虫の息だった。
その魔物はすぐにテレビカメラに押さえられるが、すぐにその姿をカメラに収めることはできなくなる。
魔物が飛んできた方向―――つまり、地上に存在する真司が容赦なくクリスタルをかざした剣を横凪に振ったのだ。
クリスタルをかざされた剣は、金色に発行し、刀身が伸びて魔物を一刀両断した。
カメラにとらえられていた魔物は、目の前二つに分断されて、爆発する―――人間でないにしろ、生き物がこんな殺され方をする。そんな刺激の強い映像が、深夜とはいえ全国で放送されてしまった。
またこれを発端に、世間では真司はやり過ぎだと非難する声と妥当だという声の二つに両断していくのだった。
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「あぁ……かはっ」
部屋に戻ってきた真司は、ベッドに横たわるなりすぐさまうめき声をあげた。
暴走の影響が大きいのだろう。
今回も暴走中の意識がなく、なにをしたのかわからなかったが、意外と意識を取り戻すのは早かった。
戦闘が終了した瞬間に彼はすぐに意識を取り戻して、誰かにつけられる前にコルバルトで戻ってきたのだ。
しかし、なにをしたのかわからなくても、暴走した状態で動かしていたのは自分の体。知らない疲労感と倦怠感―――そして、おおよそ人が体験するとは思えないレベルの痛みが伴う。
時刻は4時―――そろそろ自身の母親が起きてくる時間だが、真司は今から寝ないと体がもたない。
そう思っていると、横にいたアリスが目を覚ました。とはいっても、目をこすってほとんど覚醒はしていないみたいだ。
それを確認した真司は、そのまま寝ようとするが、アリスが彼の体に巻き付いてくる。
「あ、アリス……?」
「しんじぃ……おかえりぃ……」
寝ぼけたように言う彼女は見事に愛らしく、彼の心をまたも射止めた。
もう真司を救えるのは、アリスしかいないのだ。
そんな彼女の寝顔を見ながら、真司も安心して眠りについていった。
―――2時間後
コンコンコン
真司が起床して着替えをしていると、部屋の扉がノックされて母親が入ってきた。
「真司、起きてる?」
「起きてるよ……学校だから」
「今日、学校休みだって」
「そうか……」
「なんでも昨日―――怪物が出たんだって」
「それもそうか。結構近かったもんな」
「だから真司……」
「ん?」
「しっかりと休むんだよ。母さんも、今日は会社休みだから言ってくれればなんでもするよ」
「別に気にしなくていいよ。疲れてるけど、そんなのいつものことだから」
「よくねえよ。私は母親で、お前は私の息子だ。心配させろよ」
「悪い」
「あと、朝ごはん三人分作ってるからあと1時間くらいしたら降りてきなさい」
「わかった」
それを伝えると、彼の母はアリスの寝姿を見て下に降りていった。
その時の表情が、なんだか嬉しそうな、喜ばしそうな―――それでいて、すごく寂しそうな表情だった。




