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救世のディアフトライ  作者: 波多見錘


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“美穂”の独白

 帰宅した唯咲美穂は放心していた。


 今は、たまたま家に早く帰ることができ、加藤の頼みをなんとか実現しようと真司の家に寄ってきた後だった。

 しかし、彼女は加藤の望みを彼に伝えることなく戻ってきた。


 家に着き、真司を驚かせようとそろりそろりと足音を忍ばせながら部屋に向かっていた彼女は見てしまったのだ。


 ―――真司と転校生の喜瀬川がキスをしていたのを。

 それも、唇通しがぶつかるだけの子供みたいなキスではなかった。自分も真司にした大人のキスだった。


 本当は愛し合う者たちがするもの。一方的にしてはいけないキス。

 だというのに、真司は拒絶していなかった。それを見て美穂は、どん底に落とされたような気持になった。


 うすうす気づいてはいた。真司の心が、今は美穂ではなく喜瀬川に移っていることに。なにがあったのかわからないが、彼女が真司にとって必要な人になっている。


 でも、そんな現実を見るのが嫌で、辛くて―――彼が迷って心を決めあぐねている間に決着をつけようと、そう思っていた矢先だった。

 たぶん、他人を陥れて恋人になろうとしたから、天罰が下ってしまったのだ。


 寝取られなんて言うのもおぞましい。ただ、彼が本当の意味で幸せになれる人とくっついただけ。


 そう考えれば―――


 「呑み込めるわけ、ないでしょっ!」


 そう叫びながら美穂はベッドに置いてあったぬいぐるみを殴った。

 受け入れられるわけない。何年両思いをやってきたと思っているのか。どれだけ彼のことが好きだったか。誰にもわからない。


 でも―――


 「幼馴染は結ばれないって言われるけど……こんなのって―――ぐす」


 言葉にすればするほど腹からこみ上げてくる。

 感情が、涙が。


 段々と涙で彼女の視界が揺らいできたころ―――


 ピロン♪


 空気を読まずにメッセージアプリが、受信を知らせてくる。

 こんな時にふざけるなと思いながらスマホを起動すると、受信欄に加藤の名前が出ていた。


 「加藤、君?」


 なんでこんな時に?と思いながらも、トーク欄を開くとそこには


 『真司、泳いでくれるって?』


 たった一言、そんな言葉が打たれていた。


 「できるわけ……ないでしょ。バッカじゃないの?―――って、加藤君に当たっても仕方ないよね。もう、真司は……」


 加藤からメッセージが来ても結局、美穂は真司のことを考えてしまう。


 『ったく、これくらいは勉強しろって。本当に俺と同じ高校に行くのかよ』


 『はぁ……あんな噂流されても、お前がお前であることに変わりなんてないだろ?胸張って生きろ―――押し付けるな!』


 『もういいよ……お前たちの大事な大事なエース様を大事にしろよ?どのみち、俺はもう必要ないだろ?』


 なんだかんだモテる彼と両思いなのは、なんだか誇らしかった。

 そんな彼と幼馴染で小さいときから一緒にいれたのが、幸せだと思ってた。


 でも、結局それは一時的な幸福感。麻薬を吸っているのと変わらないってことだった。


 あの時、真司をサポートしていれば。自分が体を使ってでも、彼のストレスを緩和してあげれば。

 あの時、なにがなんでも外に出さなければ―――


 後悔していた。すべての行動が、すべて裏目に出て―――いつからか、なにもうまくいかなくなって。


 「あぁ……返信しないと……」


 呟きながら彼女は加藤に返信する。


 『ごめんね。やっぱり無理みたい―――どうしても、泳ぐつもりはもう……』


 そう送ると、すぐに返信がやってくる。


 『こっちこそごめん。俺が変なこと言ったせいで、嫌な思いさせちゃって

 でも、唯咲さんならきっと真司も振り向いてくれるよ!』


 バコン!


 そのメッセージを見た瞬間、彼女はスマホを壁にたたきつけた。

 理由なんか単純だ。加藤が応援してくれても、もうかなわない恋。そんなもの―――


 「ああああああああああ!」


 耐えきれなかった。

 もう彼女は限界なのだ。


 スマホを壁にたたきつけて壊した後、本棚も机も、なにもかもひっくり返して部屋の中で暴れまわった。

 好きの気持ちが伝わらない。それだけで壊れてしまうほど、長く辛い時間だった。


 しかし、それはもう仕方のないことだ。


 恋とは呪い―――恋した人と結ばれるまで解かれることはなく、その呪いはいつだって忘れたころにすら降りかかるような質の悪いものなのだから。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「し、翔一……?」

 「い、いや……普通に握っただけだぞ―――なのに」


 なぜ二人が驚いているのかというと、真司の握っていたシャーペンが真ん中からへし折れていたからだ。


 普通に握れば、まず壊れることはない。壊すこともない。

 アリスにとって驚きのことではあったが、真司にとっても初めてのことで困惑していた。


 なんせ、変身していないときは基本的に人間であったはずだから。


 「真司、大丈夫?」

 「いや、俺は大丈夫だ……でも」

 「シャーペンは仕方ないわ。また買えばいいわよ」

 「でも、母さんからもらった……」

 「壊しちゃったものをいつまでも引きずっちゃダメ。大丈夫、私の余ってるやつをあげるから―――学校でね」


 そうは言うが、今は真司の力のほうが問題だろう。

 真司の考えるとおりに、非変身状態では大した力は出ない。だが、出てしまった。


 ということは……


 「青龍、なんかしたか?」

 『いいや、我はなにもしていない。今の一連で、お前の力が膨れ上がったというのも感じなかった。完全に偶発的なものだ』

 「だが……」

 『我にもわからないことが、お前にもわかるはずがないだろう?対処法としては、日ごろから気を付けるようにして、なるべく力を大きく振るわないように常に冷静でい続けろ』


 青龍に言われて、彼は冷静にいることを心がけようとして、手をグーパーしてみるが、結局いつもの感覚と変わらない。なにをどうすればいいのか……


 「真司、とりあえず今日の勉強は終わりにして、寝ましょう?―――あなた、ここ数日、ストレスで寝れてないでしょう?」

 「いや、俺は―――」

 「声が嘘言おうとしてるわね。まあ、マスコミであれだけ叩かれたら、さすがのあなたも応えるでしょ?」

 「本当に、嘘つけねえなあ……」

 「ほら、ここにいらっしゃい」


 そう言ってアリスは、自身の横にスペースを開けて真司をベッドに誘う。

 もちろん、男女のまぐわいをここですることはなかった。

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