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救世のディアフトライ  作者: 波多見錘


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“アリス”の告白

 ダンダンダンダンダン―――バタン!


 自身の家を飛び出して真司の家に駆けこんできたアリスは、そのままの勢いで彼の部屋に突入した。

 勢いよく扉を開けて中に入った彼女は真司を確認するや否や彼をベッドに押し倒した。


 「青龍、思いっきり真司を拘束しなさい!」

 「あ、アリス……!?なにを―――青龍、本当に動けなくするな!」

 「よくやったわ……」

 『これくらいどうということはない』


 ここまで走ってきた彼女は、「はあはあ……」と息を切らしながら押し倒しているため、なんだかそういう場面に見えてしまう。


 一方の真司のほうも、アリスの言葉によって動いた青龍が彼の体の自由を奪い取り、なにもできない様子だった。

 どうにかして彼女から離れようするが、どうしても体が動かせず、彼はついに諦めたように質問を始める。


 「何の用だ……」

 「私―――あなたが好き!」

 「くっ……」

 「あなたはどうなの?―――私のこと、嫌い?」


 言いながら不安そうに彼の顔を伺うアリス。そんな彼女に真司は「俺も好き」だなんて口が裂けても言えない。

 事実としてあるその好意を口に出して認めてしまったら、彼はもう後戻りが利かなくなる。自身で面倒くさいと思ってはいるが、それでも長年一人で戦い、孤独を味わったものが愛される喜びを知ったらどうしようもないものだ。


 思春期の少年には一人で戦うなど、到底難しいことであることに変わりはない。


 「俺は……アリスのこと……」

 「私のこと……?」

 「き、き……」


 だからと言って、嘘もつきたくない。嘘をついて、彼女の泣く姿をまた見たくはない。

 そんな感情の狭間にいる彼はアリスを押しのけてうやむやにしたいが、そうもいかない。―――となると、ここで彼は答えを出さなくてはならない。


 「俺は……!アリスのことが―――」


 その瞬間、真司の頭の中には美穂の顔が浮かんできた。


 『すごいすごい!』


 『真司ならなんだってできるよ!』


 『ぶー……真司、また学年1位?―――なんで運動もできて頭もいいのー?』


 『真司……だ、大丈夫だよ。お医者さんはあんなこと言ってたけど、また泳げるようになるよ!』


 感情豊かで共感性が高い彼女。

 真司が泳げなくなったと知ったとき、彼に隠れて泣いていた彼女。全部知っていた。


 目を背けて、ふてくされて―――見ようとしていなかっただけで、彼女は何度も真司のサポートに回っていた。なんども監督に話をして、彼をどうにかスランプから脱すのを手伝おうと必死だった。

 それなのに、事故で運動器官の自由を失い、ろくにスポーツができなくなってしまった彼を一番悲しんでいた。


 その彼女が、自分のことを好きだと言ってくれた。アリスと引きはがしてでも自分が欲しかった彼女―――このまま何もせずに自分はアリスに「好き」を伝えてもいいのだろうか?


 だが、その曇りの表情を見て、アリスは真司がなにを考えているのかを察して、両手で彼の顔を挟み込んだ。


 「唯咲さんのこと考えてるでしょ?」

 「それは……」

 「今は……今だけは私だけのことを見て言って―――あなたの本当の気持ちが知りたい……ううん、確認したい」

 「だから俺はお前のことが―――」


 彼はもう嫌いというつもりだった。ここは嘘をついてでも、距離をとるべきだと最終的に判断した。だが、彼女の真っすぐできれいな瞳を見ていると、そんな付け焼刃の甘い気持ちなど簡単に破られる。


 「好き……」

 「なんて言ったの?」

 「ああ、好きだよ!お前のことが!なんでもかんでも見透かしたように俺の心に入り込みやがって!」

 「ふふ……あなたのことが好きだもの。―――にしても、これで両思いね。赤ちゃん作る?」

 「馬鹿言うな―――さすがにこれから死ぬって言うのに、お前への負担がデカすぎる」

 「だからなによ。私は、あなたの血を絶やさずにいられるちょうどいい女よ。それに、あなた今の状況わかってるかしら?」


 そういう彼女は、彼の胸元に手を置く。状況と言えば、彼が今まったく身動きが取れない状況だ。

 確かに、今はなにされても彼は成す術がない。


 「まあ、冗談だけど……」

 「はあ、勘弁してくれ……」

 「なによ、あなたの子供が欲しいのは本当よ?」

 「冗談はよせ……苦労することになるぞ」

 「好きな人との子供が欲しい。人として当たり前のことよ?私はね、ほかの学生みたいな生半可な付き合いなんてしないわ。好きになったら本気で愛して、死ぬまで添い遂げてやるわ」

 「結構な覚悟だ事……」

 「まあ、さすがにここでまぐわうのはハードルが高いかしらね―――なら、全身で私を感じなさい」


 そう言うと、なにかに気付いた彼女は、彼を窓側に向けるとアリスは真司の耳を手で覆って唇を塞いだ。

 体の自由が利かない彼は、それを成されるがままに受け入れていた。


 耳をふさがれて少しだけ触覚が敏感になった真司は、彼女言う通り「全身で感じる」を身をもって体感していた。

 しかも、そこで彼女のキスは終わらず、舌を侵入させてきた。


 ねちゃっとした感覚が自身の舌に絡みついてきて、本来は許容しがたい気持ち悪い感覚のはずだが、好きだと言葉にしてしまい、それを自覚してしまった自分はもう止まれなかった。

 それが気持ちのいいこと―――幸福なことだと無意識に思ってしまっていた。


 ガタン


 「……!?」

 「ちゅ……ダメ、まだ私を感じて……」


 なにか物音がして母が来たのだと思った彼は、どうにかしてアリスから離れようとしたが、再度がっちりと顔を掴まれて身動きが取れないようにされる。


 彼女の一つ一つの好意が彼の心を溶かしていく。氷のように冷え切った心を温めてくれる。

 みんなが敵だといわれても戦うのは、彼にとって辛いものがあった。


 そんな中で肯定してくれる彼女―――好きにならないはずがなかった。

 彼は、こんな幸せが長く続けばいいと、そう思うのだった。


 それから数分後


 ようやく真司はアリスから解放されて、自由に動き回れるようになった。

 だが、彼はアリスに抱き着いたまま動いていて、今度はアリスが困るほどにべったりだった。


 「ちょっ、真司……くっつきすぎ……」

 「んふふ……アリス、大好きだよ」

 「わ、私も大好きよ!―――くっ……こんなに真司が甘えてくるなんて、嬉しいけど誤算だったわ……」


 しかし、そこまでイチャついていると、身動きが取れないので、真司もそれなりにくっついたら離れていき、勉強をしようと机に向かい始めた。

 いきなりすっぽかしをくらったアリスは、少しだけ行動の早さに驚いたが、それよりも考えることがあった。


 (唯咲さんには、悪いことをしたわね……あんな表情をするなんて―――あの人も、真司のことが本気で好きだったのね……)


 ベキ!


 アリスが考え事をしていると、なにかが砕けるような音がした。

 その音源に目を向けると、真司が持っていたシャーペンが真ん中からへし折れていた。


 しかし、なによりも衝撃だったのが、へし折った本人がなにが起こったのかわからず硬直している様だった。

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