バイブレーションプレッシャー
魔物と対敵している真司は、メイズに変わり、中距離で射撃をしながら戦っていた。
この距離での銃の扱いは難しく、その上に少しでも手先の感覚が狂ったら詰められて、ジ・エンドだ。
クリムゾンを使えばいい話だが、前回の戦いでの突然の暴走が怖くて彼自身が使えないのだ。
あの時、彼は望んで力を発動させたが、その前までは自分の意思に関係なく発動しかけていたものだ。もしかしたら、彼の意思に関係なく発現するタイプの力だというのなら、また彼の意図と関係なく暴虐の限りを尽くしてしまうだろう。
それだけは避けなくてはならない。
幸い今回の相手は、力が強いタイプではなく、ちょこまかと動きながら粘質の液体を吐いてくる敵だった。
見てくれは昆虫だが、なんの昆虫かは判断がついてくれない。
「こいつはなんなんだ!」
「我にもわからん。だが、あの液体に触れてはダメだ。見たところ、直接的な害はなさそうだが、粘性が強く触れたらつかまるぞ」
「それはわかってる―――虫なのは確かだが……」
ズガン!
しゃべりながら相手の隙を見て射撃するが、すぐに避けられる。メイズの状態では防御が心もとないので、この状態が続くのは真司に避けたいところだ。
今の姿が真価を発揮するのはやはり長距離からの奇襲射撃だ。適材とは言えないその姿にこだわってしまうのは、彼自身が己を恐れているからに他ならない。
「相手に合わせるのなら、コルバルトのほうがいいぞ」
「いいや、もしかしたら接近戦が先の力の引き金になる可能性もある。というより、どの姿でもあれはなる可能性がある―――できるだけ感情的にならず、冷静に距離を取りつつ動くのが一番のはずだ」
「お前がそう言うのなら構わないが、あまり時間をかけるとまたマスコミに面倒なこと書かれるのではないのか?」
「世間がどう言おうと、俺がやることは変わらない」
「そうか……」
真司の暴走によって出た被害に、最近のメディアはよく反応している。
味方だと思っていた存在が建物を吹き飛ばしたともいえるのだ。専門家を自称する人たちも、発言が過激化していっている。
それでも、彼が守りたいものを守ろうとするのは、それだけ自身の母親や幼馴染たちが大切だからだ。
次々に弾を避けて移動する魔物を諦めずに撃ち続けていると、ついに戦いの状況が動いた。
「キィイイイイイ!!」
「ぐっ!?」
耳をつんざくような音―――相手の魔物が奇声を上げながら自身の羽をこすり合わせてくる。
黒板を爪でひっかいたような不快な音。周波数も相まって、真司の鼓膜に不快なダメージを与えてきた。
真司はそれに抵抗するために武器を持っていない左手で耳を押さえるが、特に意味は内容だ。
その攻撃によって動きが完全に止まってしまった彼に魔物が襲い掛かってくる。
「ギィイイイイ!」
「クソッ、たっれがあああ!」
絶叫しながら真司は魔物の動きについていこうとするが、うまくいかない。というのも、聴衆は攻撃によって、彼の三半規管がイカれて空間の把握能力が著しく低下しているのだ。
それでもなんとか相手に食らいついて、攻撃を入れるが肝心の銃の弾が当たらない。
(このままじゃ……いや、なぜ羽があるのに飛ばない?真上から攻め込めば、今の俺なら容易につぶせるはずだ―――だとするなら!)
相手が羽を展開して音を出している状態だと飛行できないことに気付いた彼は、ある策を取る。
手に持っている銃を、中距離特化の今の状態から、銃身を伸ばし、先の遠距離用のライフルモードに変形させる。
「なにを……?」
「周りに人はいない―――これしかない!」
「そうか。我もできるだけ力を込める」
周囲に人が確認した真司は、躊躇なく銃の引き金を引いた。引いてからも離すことなく、引き金を引き続けると、単発の弾が出るのではなく、銃口からは極太のレーザー砲が射出された。
「うああああああ!」
「グギャア!?」
彼はその放たれたレーザーを360度回転させて、無理やり魔物に直撃させた。
攻撃を受けた魔物は、その威力に押されて吹っ飛ばされたが、致命傷には至らず倒すには足らなかった。それと同時に音も止まり、真司は感覚を取り戻した。
「なあ、青龍―――ずっと思ってたんだが……」
「ああ、奴はもう門の光をすでに浴びている状態だ。これ以上は、強くならないはずだ」
「だよなあ……ここで、倒せばそれ以上はないよな」
そう判断した彼はメイズのままクリスタルを押し込む。
その瞬間に、青龍の幻影が現れ、真司もライフルモードになっていた銃をもとの状態に戻す。そのまま半身になりながら銃口を魔物に合わせる。
青龍の口にも膨大なエネルギーが集まったころ合いを見て、真司は引き金を引いた。その瞬間、銃から弾が放たれて、数瞬遅れて青龍も火球を放つ。
銃口から放たれた弾は見事に魔物に着弾し、あとから放たれた火球も綺麗に当たった。
エネルギーの衝突によって、小さい爆発が起こったが、その跡には跡形もなくなっていた―――ことはなく、ボロボロになった巨大な虫の羽が残されていた。
―――だが、
「逃げられた……」
「ああ……見事に本命の火球を羽で防御されたな」
「ちっ……」
敵を退けたものの、倒せなかったという事実が真司をイラつかせた。しかし、それをぶつけるところなんてありはしない。だからこそ、彼は切り替えてその場を離れるのだった。
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建設関係の会社の株が軒並み上がっている。
最近の怪物騒ぎや真司の戦いによって建物の倒壊などが相次いでいるからだ。最近は、世間の風当たりや彼への評価から、マスコミは視聴率稼ぎのために、入手した映像をうまいこと破壊しているところだけを流して専門家たちに彼は敵だと報道し続けた。
一方で、SNSなどではどこからか映像が流出し、マスコミが悪意のある切り取りをしていると話題になっている。
だが、SNSを使わない高齢者や使えない子供たちの間では評価は最悪なものとなっている。
町を歩けば、老人たちのデモばかり。
『あの化け物の対策を』というプラカードを掲げながら歩き、演説する人たちばかり。
国会の前も怪物殲滅デモが起こり、段々と国そのものが混乱の恐怖の渦に巻き込まれていくのだった。
そんな報道を見て、アリスは一人で苦しむ。そんな娘を見かねた彼女の母は、今日アリスの隠し事を全て話させようと決心するのだった。
見てくれてる人も多いわけではないので、たいして問題ないかもしれませんが近々タイトルを変更します。




