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救世のディアフトライ  作者: 波多見錘


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2人はヒロイン

 恋とはうまくいかないもの。

 それを唯咲美穂は、最近強く感じている。


 原因は、自身の好きな人である十神真司だ。小さいころに出会い、淡い初恋に気持ちを発展させた。今もそれは続いており、中学の時は両思いだということも知っていた。

 だが、高校に入り彼を支えるためにマネージャーになってからすべてが狂った。


 最初は、真司だけをマネージングするわけにもいかず、みんなのことにも気を使わなければならなかった。

 その間に、真司はスランプに陥っていき、いつの間にか本気で泳ぐ姿を見なくなっていった。

 彼女は水泳をしたことがなく、アドバイスらしいことも言えずに、マネージャー業にいそしんでいく。その間に段々と彼は笑わなくなり、自身との溝も深まっていた。


 当時は、真司と違って1年生ながらも最初の大会で結果を残した加藤のマネージングに力を込めるようになっていた。それが監督の指示でもあったから。

 将来有望な選手には、できるだけ苦労をさせずに協議に集中させろ。それが監督命令。それのせいで、ますます彼女は真司と話す機会を失っていった。


 そうして、どう彼に話しかけていいのかとくすぶっていると事件は起きた。


 『真司が車に轢かれた』


 その話はすぐに自身の母から伝えられて、美穂はすぐに病院に向かった。

 幸い意識もあり、ベッドに寝かせられているだけだった。彼は自力で起き上がることもできて、その時、美穂は何事もなくてよかったと思った。

 だが、現実はそううまくいかなかった。


 すぐに真司が二度と泳げないことを知り、少し前に夢見た真司に全国へと連れて行ってもらう夢が途絶えてしまった。

 どんなに腐っても、真司がものを諦めきれない性格を知っていた彼女は、いつか戻ってくる。いつか、全国で泳いでくれると思っていた彼女は、心から絶望した。自分好きな人の一番輝いている姿を二度と見れないと悟ったから。


 しかし、辛いのは彼女だけではない。それもわかっていた。でも、当人は絶対に人前で泣かなかった。

 事故の原因になった少女にも、笑いながら頭を撫でて慰めていた。それに、事故を起こしたドライバーにも、ずっと「あなたは悪くない」と言っていた。


 それでも美穂は気づいた。彼の表情からなにもかもが上辺だけになっていることに。だから、彼女はより真司に話しかけることができなかった。

 それで、拒絶されたら、本当に彼の隣にいられない気がするものだから。


 それからしばらくして、また彼は変わった。

 水泳が逃げて、事故にも遭い、クラスから同情されて―――それが原因かはわからないが、すべての生徒も教職員も、関わろうとしたすべての人を突っぱねて一人になろうとした。

 そして、なによりあのまじめな真司が、授業を頻繁に抜け出すようになった。それによって、彼の評判はどんどん暴落し、いつの間にか教員から一番嫌われる存在になり下がってしまった。


 それでも見捨てない人格者もいるが、それもいつまでもつか。


 そして、彼が深夜に外に出ることも増えた。

 そんな非行を彼の母親が許すはずがないが、明音はいつも疲れていて、ご飯を作るとすぐに倒れたように眠ることが多かった。


 最近は真司のことがわからない。

 転校生が彼のもとにつき、一緒になりそうで本当に焦ったが、どうにか引きはがした。でも、自分が彼と結ばれないのはなんとなくわかってた。


 あの時に真司が見せたあの表情は今でも忘れない。

 あの目は自分と同じ。自分の大事なもの―――愛する人が、傍から離れていくときにする目だった。


 いつの間にか、彼の心はあの転校生のもとに行っていた。だけど、それを認めたくない。認めたら、多分彼女は人目をはばからずに涙を流してしまう。


 転校生に自分が真司と結ばれないとはっきりと言われたとき、感情がうまくコントロールできなかったように。

 だが、冷静に考えると気になることを言っていた。


 「引き返せないって何?喜瀬川さんはなにか知ってるの?」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 屋上に取り残されたアリスは、一人で座りながら真司が来るのを待ち続ける。

 仲直りしたい。傍にいたい。彼の笑う姿を脳裏に焼き付けたい。


 彼の命が尽きる前にやりたいことはたくさんある。


 それでも、自分は彼を追い詰める一人となってしまった。果たして、自分が真司に言葉を投げかける資格があるのか疑問ではあるが、それでも彼女は真司を抱きしめて、彼を少しでも楽にしてあげたいのだ。


 彼の親を除けば、自分だけが知っていること、自分だけが知るからこそ、支えられる。


 そんな特権を自分は捨てかけているのだ。

 馬鹿以外、なにものでもない。


 彼と一緒にいるとなんだか心がざわついた。彼のために演奏した時、なんだか彼への思いが爆発しそうで、いつもよりピアノの鍵盤をたたく力が強くなっていた。自分でもわかるほどに、彼の影響で音色が変わっていた。


 そして、彼の声は、絶対音感のアリスからも心地よく癒されるような素晴らしい声だった。


 下心もなく、ただ純粋にみんなを救いたいという心。でも、それをわかってもらえない彼。

 それがどうしようもないほどにもどかしく、辛い。


 でも、自分だけが知るこの事実を誰にも知ってほしくない。真司を独占できることもそうだが、なにより他の奴らが、正体を知ったときに掌返しをする姿を想像したら、思いのほか気分が悪かった。


 だから、彼を知って本気で愛するのは自分だけで十分だ。


 「でも、彼はそれを望んでない……私すらも、傷つけないために遠くにやろうとする……どうすればいいのよ」


 アリスは自分が思っている以上に単純だ。

 愛した男を、抱きしめて、その人の子を孕みたいと思う。


 たとえ、彼が死ぬとわかっていてもそうしたい。彼女にとっての男とは、真司という存在以外、認める気はないから。彼女が人生で愛する男はたった一人と心に決めているのだ。たとえ死のうが、死んでも相手の子を育てるつもりなのだ。


 それを狂愛と呼ばずして何と呼ぶ。

 それだけ、アリスは真司のことを想い、今まで動いてきた。どれだけ転校してすぐに孤立しようとも、好きな人を愛することを貫く彼女は、絶対にあきらめない。どんなに辛くても、彼女は真司を懐柔するだろう。


 それが彼女の目的の一端なのだから。

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