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救世のディアフトライ  作者: 波多見錘


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33/214

選びようのない間違えた選択肢

 翌日―――玄関の扉を開けると、そこには美穂がいた。


 久しぶりに見せるとびっきりの笑顔で、俺を出迎えてくれる。


 「なにしてんだ?」

 「一緒に行こ」

 「俺にかかわるな」

 「ヤダ―――もうなんと言おうと、私は真司のことを諦めない!」

 「ちっ、ここに来て……」

 「ここに来て―――なに?なにか都合の悪いことがあるの?」

 「……」

 「あ、待ってよ!」


 俺は彼女のことを無視して、登校しようとするが裾をつかまれて引き留められる。

 ―――今日は早く出てきたというのに、これではなんの意味もないじゃないか……


 そう思いながら美穂に揺られていると、後ろから声をかけられる。それは、今の俺にとってどう接したらいいのかわからない女の子の声でもあった。


 「しん、じ……?」

 「アリス……」

 「なにしてるの?」

 「それは……」

 「あなたが真司に言い寄ってる転校生?」

 「言い寄ってるつもりは……」


 美穂に言われて少し言いよどむアリス。なぜ言い切れないかと言われれば、昨日の行動が原因だ。しかし、彼女はこうしてここに来た。言い寄るという感情よりも、真司を一人にせずに助けたい。その思いの方が大きいはずだ。


 だが、彼女はそれを言えない。


 真司一人だけなら言えたかもしれない。―――『言い寄るとかの前に、私は恩返しも込みであなたを救いたい』と。しかし、美穂がいる手前、不用意にそれを言えない。


 だが、それを知らない美穂は、言葉を紡げなくなったアリスを責めるように言った。


 「私は本気なの。邪魔をするのなら関わらないで」

 「そ、そんなつもりは……ただ、私は―――」

 「ただ、なんなの?好きでもないなら、四六時中真司と一緒にいないで」

 「私は真司のことが……」

 「真司も言ってよ。好きでもないなら、関わらないでって」

 「俺は……」


 場の空気は完全に美穂が掌握していた。

 なんといっても、昨日の今日だ。お互いに気まずくて思うように目を合わせられないのだ。


 ただ、美穂の質問にはお互いに目を合わせてしまった。


 アリスとしては一緒にいてほしい。真司も思いは同じだが、彼は生き方を簡単に曲げられない。

 彼は大切な人ほど、傷ついてほしくなかった。


 その思いと本音がせめぎあい、彼は自然と視線を下に落としながら言う。


 「お願いだ……アリス、も、もう―――」

 「し、真司……」


 彼は下を向いて言葉を続ける。


 「もう、俺と関わらないでくれ……」

 「っ……!」


 言葉返ってこない。

 真司の言葉にかなりのショックを受けたのか判断がつかないが、それを確認するために真司は顔をあげる。


 「っ!―――あ、アリス……?」


 アリスは泣いていた。声も出さず、ただその美しい瞳から涙を流していた。

 ただ茫然と真司の言葉を聞いたアリスは、静かに言う。


 「嘘でも―――言ってほしくなかった……」

 「……ごめん」

 「私……冗談なんかじゃ―――」

 「真司……ちゃんと言って。アリスさんのことどう思ってるの?」

 「俺は……」

 「イヤ!聞きたくない!」


 そう言って、アリスは涙を流しながら走り去っていった。


 (追いかけないと!)

 『魔物だ』


 アリスをつかもうと手をあげながら走り出そうとする真司に、無情にも響く青龍の声。

 しかし、青龍もなにかつらそうな声色があった。


 アリスはきっと真司の言葉が嘘であるのはわかっていた。


 それでも、アリスは言ってほしくないことを―――真司から拒絶されることを言われたのだ。

 たとえ嘘でも、傷つくのだ。


 『真司、追いかけるのだ。魔物は警察に任せて―――』

 「くっ!」

 「真司!?どこ行くの!?」


 青龍が言い終わる前に、真司はアリスが走っていった方向と真逆の方向を向いて走り出す。


 取り残された美穂は、真司に軽い怒りを覚えるのだった。


 「―――好きならアリスさんを追いかけなさいよ……」


 しかし、その表情はなにかを察したようで悲しそうだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 反対に走っていった真司は、後悔していた。

 誰かのためとはいえ、大事な人を追いかけないことを。今思えば―――いや、最初から負うべきなのはわかっていた。しかし、真司にはこの生き方を曲げられない。


 だとするのなら、一人でも多く誰かを助けるしかないのだ。


 「うわああああああああああ!」


 彼は発狂しながらクリスタルを押し込む。


 ブラックに変身した真司は、そのまま叫びながら魔物に殴り掛かる。


 「ぐえ!?」

 「ああああああああああ!」


 ドガッ!バキッ!


 クリムゾンやコルバルトになることなく、ただ己の拳のみをぶつけ続ける。

 自身への怒り―――追いかけられない理由を作ってしまった魔物たちへ……自分が戦いに巻き込まれることになった原因を殴り続ける。


 今までかつてないほどの怒りを覚えている真司は、もう歯止めが利かなくなっている。


 なんどもなんども殴るうちに、少しずつ真司の体にバチバチとなにかが走り始める。しかし、その変化に彼も青龍も気づくことはなく、ただ相手の魔物が憔悴していくのみ。


 そして、弱った魔物にとどめを撃つためにクリスタルを押し込む。


 顕現させた青龍の幻影を背に、真司は走り出した。


 「うおおおおおおおおおおおお!」


 絶叫しながら飛び上がり、背中に青龍の炎を受けながらその勢いで蹴りを放つ。

 魔物は、怒りのままふるまう真司になすすべもなく地面に沈められて爆発した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 登校したはずのアリスは、泣き腫らしながら自室に戻ってきた。

 今は、父は仕事で、母はパートで家に誰もいない。学校に連絡さえすればサボっても問題ない。そもそも、真司と絡んでいるだけで毎授業ちゃんと出ている彼女は、一回くらいの欠席はわけないのだ。


 しかし、そんなことも気にならないくらい彼女にとってショックなことがあった。


 真司に拒絶された。


 言葉に表すと簡単だが、彼女にとっては難しいことだった。


 昨日の今日で顔を合わせるのは気まずかったが、それでも彼と一緒にいたかった。

 だから、今日もいつも通りに真司の家に行った。しかし、いつもと違い彼の幼馴染がいて、少しだけ彼もまんざらではなさそうな顔をしていた。まあ、真司が幼馴染に気があったことはわかっているし、恋敵になるのなら真正面から争うつもりだった。


 しかし、彼から放たれた拒絶の言葉。


 声色で嘘なのは一瞬で分かった。だが、それは頭で理解しただけで、彼女が言われたことを心で受け入れたわけではない。


 アリスの心はなにかが砕けるような音がして、感情を抑えきれなくなった。


 彼から聞きたいのはそんな言葉じゃない。フラれたとしても、一緒にいれないのは本当に辛いから。

 真司から本当に聞きたい言葉というのは、ただシンプルな一言。


 『愛してる』


 ―――の一言だけだったというのに








 「ぐすっ……どうしてこうなっちゃうのよ」

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