支配権
「な、なにするんだ!」
「お前たちが先に手を出してきたんだ。セイトウボウエイ?というやつが適応されるのだろう?」
「なんだこいつ!」
真司(青龍)の雰囲気が変わり、口調も変わったことで男たちは少しだけ怯んだ。
だが、青龍はその男たちに目もくれることなく、アリスに手を出していた男たちに向かっていった。
誰にも感じることすらできない速度で間合いを詰めて、反応をする前に2人いるうちの一人の後頭部をつかんで、遠心力を使いながら顔面を電柱に打ち付ける。
ガコン!
その一撃だけで青龍はそれ以上の追い打ちをすることなく男を放す。
すると、解放された男は顔中から血を吹き出しながら気絶していた。
その姿にビビるもう一人だが、間髪入れずに青龍がアリスとそいつを引きはがす。
その瞬間に鈍い音がして、男の腕が折れたことに気付く。
「なっ!?―――いってええええええ!……げぶっ!?」
ありえない方向に曲がった腕を見た男は発狂するが、数秒とて意識を保つことは許されず、上から飛び乗るように青龍が拳を顔面にぶち込んだ。
グシャッと嫌な音がしながら、これまた血まみれでもう一人の男も気絶した。
ここで殺さないのは、青龍の自制心と真司の優しさだ。
「し、んじ……?」
「違うな。一度だけ、我を見たことがあるだろう?」
「もしかして―――真司と契約してる……」
「そうだ。だが、まあ真司がお前を助けようとしなかったわけではないぞ。むしろ、その逆だから、お前は真司のことをもっと慕ってやってくれ」
「な、なにを……」
アリスが困惑するようなことを言う青龍だが、返答することなく集団に向き直る。
そして、なにもいうこともなく静かに男たちを沈めていった。
男たちのうめき声が聞こえる中、素早く移動しながらその後にいた男たちは次々に血を吐きながら倒れ伏せる。
その死屍累々とした空気の中、青龍は何事もなかったかのようにアリスに近づいて言った。
「すまなかったな」
「な、なにがよ……」
「本当は真司に助けてもらいたかっただろ?」
「な、なんのこと……」
「隠さなくてもよい。我と入れ替わっているときは、真司は眠っている状態に近い。だから、あいつは聞いていなぞ」
「わ、悪かったわね!あの時みたいに―――とは思ったわよ!」
「そうだろうな。だが、真司は一般人には手を出さない。いや、出そうとしないのが正しいかな」
そう言って、青龍はアリスにブレザーを羽織らせて歩き出した。
「出そうとしないってどういうこと?」
「真司は、文字通り我と契約して人以上の力を得た。それと生来の性格も合わさって、真司は絶対に人に暴力を振るわないのだ」
「だから、さっきも拳を受けてばかりで……」
「いや、さっき真司は本当に殺したという罪を受け入れるつもりだった」
「どういうこと?」
「実際に真司は、死んだ男―――海翔とかいう生徒を助けられなかった。手を下していないとはいえ、守れなかった命。その怒りを受ける覚悟はしていたのだ」
「な、なにそれ……」
「な?バカだろ?それでも、この世界をたった一人で守ってきたのだ。死なれては困る。だから、我が出てきたのだ」
言いながら青龍は己の手を握る。
この時に、アリスは気づいた。真司が殴られてる時、一番悔しいのは青龍なんだと。
力を持ちながら、反撃しようとしない真司をどうにかしたいと思う気持ち―――そして、真司にこれ以上傷ついてほしくないという歯がゆさ。
一緒にいる時間が長いから、真司の考えていることはわかるし、それ以上に大切さも感じているのだろう。
「味覚、触覚自体を真司と共有することは簡単にできる。それは本人の意思と直結することではないからな。だが、体の支配を奪うのはそううまくいかない」
「体の支配?」
「いつもは真司が体を意思で動かしているが、ごくたまに我がこの体を支配していることがあるのだ」
「どういうときに?」
「最近はめっきり減ったが、授業に出ないとか意図しない不良行為のせいで喧嘩を売られることがあったのだ。それでも反撃しない真司を見かねて、我は支配権を奪おうとすることがあるのだ。まあ、たいていはすごい抵抗を受けて、面倒なことになるのだが……」
「今回も……?」
「いや、今回はすんなりといった。たぶん、お前をどうしても助けたかったのだろうな。何の抵抗もなく我が入れ替わることができた」
「だから、真司は私を救おうとしなかったわけじゃないって……」
「そうだ。あの状況で真司が変わらないという選択肢もあったが、あいにく奴の体は傷が開いて万全に殴れる状況ではない。ならば、少々の痛みなら我慢できる我がやればよいというだけだ」
「その……ありがとう、ございます?」
「なぜ疑問形なのかは甚だ気になるが、感謝は真司にしろ。奴が簡単に体を明け渡さなかったら、こうはなっていないはずだ―――ここがお前の家か?」
しゃべっているうちにずいぶんと進んでいたのか、アリスは自身の家の前についていた。
自分の家が見えるところについて、彼女が止まったので青龍は真司と変わることにする。
「じゃあ我は戻る。真司によろしく言っておいてくれ」
「そんなことしなくても、あなたたちはつながってるんじゃないの?」
「それとこれは別だ。我にも奴に直接は言いづらいこともあるものだ―――ちなみに、我と真司を見分ける方法は目だ。我が変わっているときは、碧眼になっているはずだ」
「本当だ……全然気づかなかった……」
アリスに見分け方を伝えた青龍は少しずつ真司の意識の表層から消えていき、次の瞬間には彼が戻ってきていた。
「―――アリス、大丈夫か?」
「え、ええ……私なら大丈夫よ。あなたが守ろうとしてくれたから」
「そうか。―――じゃあ、またな」
「ちょっと、どこ行こうとしてんのよ!」
意識が戻ってすぐに帰ろうとする真司を、アリスは急いで裾をつかんで引き留めた。
止められることはなんとなく感づいていた真司は、それを意にかえさずにそのまま歩みをすs目ようとする。
「どこ、行くのよ……」
「……っ!?」
もう一度力強く裾を引っ張られたとき、真司は気づいた。―――彼女の手がかすかにふるえていることに。
それに気づいた真司は、アリスのほうを見る。
「私ね……こういう性格だから、大丈夫って言われるんだけど―――本当は怖かった……あなたが傷つくのも、知らない男たちに体を触られるのも。全部怖かった……」
「アリス……」
「なのに、なんであなたは遠くに行こうとするの?」
「それは……」
「そばにいてよ……安心させてよ……あなたは正義のヒーローなんでしょ?だったら―――」
言いながらアリスは下を向いているので、真司からはどういう表情をしているのかはわからなかった。
だが、彼女が顔をあげた瞬間に表情を見て、ハッとした。
彼女は、泣いていた。
「だったら、傍にいてよ……」




