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救世のディアフトライ  作者: 波多見錘


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龍が咆える

 「どうすっかな?」


 真司はアリスと登校中にふと漏らした。


 「なにが?」

 「いや、俺ってさ今全身包帯巻きじゃん?体育着に着替えるのどうしよ……」

 「そういえば、あなた体育祭に出れないらしいわね―――悪かったわ。それを口実に来いなんて言って……」

 「別に気にしてない。知らないのはわかってたしな」

 「じゃあ、着替えなくてよくない?」

 「見学も着替えないといけねえんだよ。本当に面倒だよな」


 あんなことがあったのに、こんな他愛のない会話できるのは二人くらいだろう。

 ほかの生徒たちは会話こそしているものの、どこか暗い雰囲気が流れている。


 まあ、当たり前と言えば当たり前だ。


 校舎が半壊するまでの激しい戦闘がまじかで起きていた恐怖によるストレスの上に、知らない人とはいえ誰かが死んだのだ。

 美穂のクラスの生徒に至っては、死にかけた人もいる。


 あれ以来、初めて会う人も多く、どんな言葉をかければいいのか迷っているのだ。


 「ははっ、お通夜かよ」

 「真司、笑えないわ。リアルお通夜もあるのよ」

 「まあ、少し冗談が過ぎたな」

 「でも、一番つらいのは真司よ……こんな傷だらけになって―――」


 言いながら彼女は真司の体に手を這わせた。


 気持ちいいような悪いような―――変な感覚が真司を襲う。

 一つはっきりしていることは、悪くはないと思っていることだ。


 「黙ってないで、なにか言いなさいよ。落としどころがどこにもないじゃない」

 「そっちからやっといてそれはひどくないか?」

 「うっさいわね!ほら、行くわよ!」

 「あ、待てよ!」


 アリスは恥ずかしさを隠しながら学校に向かっていく。

 そして、学校に到着して教室に入ると一瞬だけクラスの視線がこちらに向くが、すぐに自分たちの会話に戻っていく。


 だが、ひそひそと真司のことを言っているような気がする。


 耳がいいアリスには、その会話の内容が聞こえてしまっていた。


 『あいつのせいだ』

 『あいつがあんな怪物を……』

 『あいつさえいなければ』


 そんな根も葉もない最悪の噂。香典を渡しに行った時点で耳にしていたが、ここまでおぞましいものだとは思っていなかった。

 話を聞いてしまったアリスは、事情を知っているために拳を握りしめた。


 しかし、その手を見えないところで真司が制した。


 「気にするな」

 「あなた……聞こえて……」

 「気にするな。どこにもぶつけようのない憎しみを俺にぶつけてるだけだ。まだ、子供だから―――仕方ない」

 「真司は―――それでいいの?」

 「良い悪いとかの話じゃないさ。あいつらには必要なんだよ。なにかをぶつけるための対象が」

 「……!」


 真司の言葉に、またもやるせない気持ちを持ってしまったが、ここでクラスメイト達に突っかかるのも彼が喜ばないこともわかっている。

 だから、彼女はその気持ちを押し殺すしかない。


 自身の手を制してくれている手は温かい。だが、その温かさももうじき消えてしまう。だというのに、彼はなぜこんなにも冷静に人の悪口を受け入れられるのだろうか。アリスには、呑み込めなかったが―――


 「アリスがわかってくれるなら……理解してくれる人がそばにいるだけで、俺は嬉しいよ」

 「……!?な、なんなのこいつ……自覚しているのかしら?」


 ふと、いきなり自分は特別だと微笑まれたことで、アリスは頬を染めながら勢いよく顔をそらした。

 彼女は、真司のこの行動をわざとではないかと疑うが、本人は全く自覚している様子はない。


 「このすけこまし……」

 「なんのことだよ……」


 アリスの言動に、真司は意味が分からないとばかりに首をかしげるが、アリスが少しだけ不機嫌ながらも席に座ったので、彼も着席しその後の授業に出席し続けた。


 その日は珍しく、魔物の登場もなく、久しぶりに彼は1日の授業をフルで出た。


 今日から授業が遅れた分を取り返すために少しだけ巻きで進んでいるため、真司は勉強で四苦八苦しているアリスに教えながら授業を受ける。


 「で、ここにこの形だと、さっきの式と同じだから……」

 「……なるほど。真司って頭いいのね」

 「まあな。これでも中学の模試で全国3位以内にはずっと入ってたしな」

 「私のほうが授業に出てるはずなのに、釈然としないわ」

 「まあ、勉強なんて才能8割、努力3割みたいな世界だからな」

 「はあ……才能が羨ましいわ」

 「お前も音楽の才能はすごいじゃん。今度、ピアノの演奏を聞かせてくれよ」

 「いいわよ。なんなら今日、うちにくるかしら?」

 「そうだな……このまま出てこなかったら、お邪魔しようかな」


 と、授業中にそんな会話をしたので、放課後に真司はアリスの家にお邪魔することになった。


 早速学校が終わり、真司がアリスについていく。

 さすがに真司も女子の部屋に上がるのは、幼馴染の美穂を除けば初めてのことになる。


 そんな真司は、内心すごく緊張している。


 「でも、なにげに初めてなのよね―――ピアノ目的の男の子を家にあげるなんて」

 「そうなのか?」

 「私個人が目的だったりする人たちがいたんだけど―――」

 「いたんだけど?」

 「もれなくその気をなくして帰っていったわ」

 「お。おう……」

 「ピアノの魅力について聞かれたから語ってあげたのに……」

 「ああ……」


 アリスの言葉で彼はなんとなく察した。

 口説く目的で軽い感じで聞いたら、本当にピアノの魅力を何時間も語り続けたのだろう


 そして、萎えて帰っていったと。

 正直、真司にはその感じがわかってしまった。アリスならやりかねないと。


 そんなことを話しながら歩いていると、二人はどこからともなくやってきた男たちに取り囲まれた。


 「知り合い?」

 「いや、俺も知らないやつらだな」


 突然取り囲まれたのにもかかわらず、冷静な二人に集団のリーダー格でありそうな男が話しかけてくる。


 「お前が、海翔かいとを殺したのか?」

 「かい、と?誰だそいつ」

 「お前と同じクラスのやつだよ。この間、葬式もあったはずだ」


 男の言葉で真司は思い出した。

 そして、こいつらは自身が助けられなかった男の友人なのだろうと考える。


 「お礼参りか?」

 「そうだよ。お前があの怪物たちを手引きしたって話を聞いたからな」

 「待って!真司はかんけ―――むぐっ!?」

 「あいつは関係ないだろ」

 「一緒にいたんだ。関係あるだろ?」


 そんなぐうの音も出ない正論に、真司は特に反論もしなかった。


 「わかってるよな?お前は海翔を殺したんだよ」

 「……ちっ」

 「なんだ、その舌打ち、は!」


 バコッ!


 男の怒りがこもった拳が的確に真司の鳩尾を捉えた。

 重く鋭い一撃―――普通の一般人なら倒れてもおかしくない威力だった。だが、それを受けても真司はただ立って何もしなかった。


 「んーっ!」

 「お前らもやっちまえ!」


 全員にリンチされる形で殴る蹴るの暴行を加えられ、真司の体にいくつもの傷が増えていき、吐血もしていた。

 そしてなにより、アヌビス戦の傷が開いてしまった。


 治りかけていた傷が開いたことで、真司からはただ殴られただけでは出てこないような出血をしてしまうことになった。

 だが、それでも立っている真司にいら立ちを覚えた男たちは、手を緩めることはなく、それどころかさっき以上に力を込めだした。


 「んー!んーっ!」


 アリスはじたばたと暴れて拘束を振りほどこうとするが、男女の筋力の差がそれを許してくれなかった。

 それどころかアリスを羽交い絞めにしていた男とそこにいたもう一人の男が体中を貪るように撫でまわし始めた。


 「こいつ、すげえスタイルよくね?」

 「ほんとだ。脱がすと胸でけえなこいつ」


 制服をはだけさせられて、胸を露わにされたアリス。声も出せず、何の抵抗もできず。普段なら、気丈にふるまってなんて事のないようにできるが、今日は違った。

 言いようのない恐怖。怖くて、自然と彼女の瞳から涙が流れた。


 それを見た真司は何かが切れるような音を感じた。


 ぷつんと切れたなにか―――そして、沸き上がる怒り。


 そして、真司がなにかをするよりも早く、動いたものがいた。


 真司を殴っていた男のうちの一人は、掌底をまともに顎に食らって、3メートルほど体が浮き上がった。


 「はあ……これ以上は我が見ていられん。人間ども、覚悟はいいな?」

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