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救世のディアフトライ  作者: 波多見錘


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家族

 真司がリビングに来て、しばらくはお互いが言葉を交わすことはなかった。

 真司も、母である明音もなにを話せばいいのかわからないのだ。


 しかし、ここで明音が口を開いた。


 「本当に死ぬのかい?」

 「うん……たぶん、あと1年もしないと思うし、戦いのさなかで死ぬかもしれないけど―――結局、俺が死ぬ未来に大した変わりはないと思う」

 「そうかい……それは、契約を破棄したら―――」

 「ダメ。今は実質青龍のおかげで延命できているようなもの。今契約を解除すれば、困るのは俺なんだ」


 そう言って明音の言葉を否定し続ける真司。


 淡々と告げているが、彼も言葉にするには辛いものがある。

 母親に自分の死が迫っていることを伝える。聞く側はもちろんだが、言う側も相当だ。


 明音が言うような契約は、実質的に不可能だ。


 今は青龍の治癒術式の一端で、毒の侵攻を食い止めている状態。

 契約の破棄は、その延命措置の停止を意味する。ゆえに、真司には青龍との契約を切るという選択肢はあり得ないのだ。


 「ど、どうにかして、あんたが生きる道は……」

 「……ない。そもそも契約した時点で、大幅に寿命は削っていた」

 「な、なら―――私の命を引き換えに」

 「母さん!」


 余計な提案をしようとした明音を、彼は大きな声で制した。

 自身の母の命を―――などと、考えたくもないのだろう。


 「諦めてくれ……」

 「そんな……」

 「母さん……」


 そしてついに泣き崩れてしまう明音。普段は元ヤンの空気などが漂っていて、強く見えるが、自身の家族がまた一人減ってしまう。今度は、自分が一人になってしまう。そう思うと、どうしてもこらえられなかったのだ。


 「ダメ……子供が親より先に逝っちゃ―――」

 「わかってるよ。でも、結果死ぬだけで、これからいっぱい親孝行するからさ」

 「バカ……生きてる以上の親孝行があるものか……」


 言いながらお互いの意見をぶつけ合うが、それも長く続かない。

 暗い空気がその場を支配し、また無言の時間が訪れる。


 「あんたが生まれてからすぐくらいから、あいつはほかの女と関係を持っていたらしいんだ。私は、あいつのことが好きで盲目になってた」

 「父さんのことか?」

 「今もあいつは生きている。浮気して子供を見捨てるようなクズがまだ生きてるんだ……なんで、お前が先なんだよ」

 「ごめん……」

 「お前が事故にあったって聞いて血の気が引いた。水泳ができないって言われた時もだ。なんで、うちの息子ばっかこんな思いを」

 「でも、母さんも……」

 「ああ、私もお前と同じ立場だったら―――命を懸けることになっても、戦う道を選ぶ。結局のところ、私とお前は親子で―――私に似たグレなかっただけの大馬鹿だ」


 そう言うと、彼女は立ち上がり真司を抱きしめた。

 話の順序と行動の意味をくみ取れず、彼は目を白黒させるが、明音はそのまま続ける。


 「それでも……世界を守るヒーローになったんだろ?苦しいことを私に隠すな。どうせ同じような理由で美穂ちゃんにも冷たく当たってるんだろ?」

 「それは……」

 「今更それを改めろとは言わないさ。似てるから、なんとなく考えてることはわかる。でもな、お前が私にそういうことを隠すの違うからな?」

 「ごめん……でも、母さんには泣いてほしく……」

 「自分のために泣いてくれる人がいたほうが、人は幸せってもんなんだよ。一人でカッコよくなろうとすんな。お前が戦ってる間は何もできなくても、この家で―――お前が返ってくる場所で、ご飯作って待ってるから。私をもっと頼ってくれ」

 「母さん……ごめん……」


 明音に言われて、自然と涙がこぼれてきた真司。

 なんだかんだ、一人は寂しいのだ。そうやって2年も過ごしてきて、誰からも嫌われて、誰からも話しかけてもらえず、仲が良かったはずの人たちにすら辛く当たり―――自業自得で一人になったはずなのに、人を守っていて自己満足だけでも得られるかと思えば、ただ空しいだけ。


 結局一人でいることに意味はなかった。


 こうやって、突き放しても最後には一緒にいてくれることを選ぶ人だっている。

 真司はこういう人に救われていく。


 彼の心の中には、守りたい人から誰よりも優先したい人が―――今日、二人もできた。


 アリスと自身の母親。

 たぶん、真司はこの二人の命が危険にさらされたとき、彼は命を投げ出しても守ることになるだろう。それがたとえ、自分を見失うことになったとしても。


 真司がひとしきり彼が泣いた後、二人は夜ご飯を食べながらテレビを見ていた。


 最近の話題は、真司の通う高校の話でもちきりだ。


 なんせ、魔物が襲撃に来た学校。その上、なぜか校舎が何者かの手によって直されたからだ。

 世間は“なぜか”授業が再開されることに違和感を持っていない。あんなことがあったのに、学校が治ったから行っても問題ないと考える。それが、青龍の賭けた世間への暗示のようなもの。


 現在は、なぜあの学校が狙われたのかについて考察が進められている。


 『いやー謎ですね。なぜ怪物はこの学校を狙ったのか……』

 『私が思うに、あの学校はなにか重大な秘密を隠しているんですよ!例えば……怪人を生み出す実験とかね!』

 『なるほど……』


 「バカかよ。あの学校は運動部の強豪とはいえ、一般の高校の枠は出てねえよ」

 「真司は、なんで魔物が来たのかわかってるのかい?」

 「……はっきりとは知らない。でも、青龍いわくたまたまらしい」

 「たまたま……」

 「よくわかんない目的に、あの高校の座標が、本当に偶然都合がよかっただけらしい。言っちゃえば、条件が合えばどこでもよかったらしい」

 「そうか……それを知ってから、テレビの話を聞くとバカみたいだな」

 「まあ、あっちは何も知らないから考察を立てるしかないんだろうけど―――だとしても滑稽だな」


 そう言いながらテレビのコメンテーターを鼻で笑う真司。だが、これをできるのは真実を知っていても、本当に戦う彼だけだ。そうでなければ、明音は彼を怒っていただろう。


 そして、テレビにはもう一つ画像が写された。


 そこには、ブレにブレまくってるが確かに結界を破って中に入る真司の姿が確認されていた。


 「撮られてたのか……」

 『たまたまだろうに。まあ、真司が気にすることではない。世間はお前のことを知らないから大丈夫だ』

 「そう簡単にいくかな?」


 そんなことを青龍と話しながら真司がおいしそうに焼けている肉を口の中に入れる。


 「ん!おいしい……」

 「そうかい……ちゃんと噛んで食べるんだよ」

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