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救世のディアフトライ  作者: 波多見錘


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事後数日

 真司が目を覚ましてから数日で、彼は体を起こすくらいはできるようになっていた。


 しかし、青龍でも直しきれないところが存在した。特に、胸に受けた大きな傷は数日の治癒術式程度では全くと言っていいほど歯が立たなかった。


 「っつ……」

 「動かないで―――私も初めてだから、あんまり動くと……」


 今は、アリスが真司の傷の手当てをしている。

 だが、素人が包帯を巻いたりするため、どうしても傷に触ったりとおぼつかないところがある。


 それでも真司がアリスに手当を頼む理由―――単純に病院にいけないからだ。


 こうなった原因を喋ることもできないうえに、一番の原因として死が迫っていることの宣告をされたくないからだ。

 ただでさえ死ぬという事実が彼を思いつめさせているのに、お前は死ぬと伝えられたら、わかっていても堪えてしまう。


 それが自分で分かっている真司は、病院に絶対に行くことはない。


 幸い、青龍が治癒の術式を扱えるため、少々の傷や病気程度なら行かなくても片が付く。


 そうこうしていると、アリスがようやく真司の体に包帯を巻き終わり、優しく体から手を放した。


 「はい……できたわよ」

 「ありがとな。わざわざ毎日来てもらって……」

 「いいのよ。今の私にはこれくらいしかできないもの」

 「それでも嬉しいよ」


 そう言って感謝を伝える真司。

 アリスも、その言葉に少しだけ嬉しさを覚えるものの、自分たちのためにここまで傷ついてるのだと考えると、その感謝をどうにも受け入れがたくなる。


 そう考える彼女は、感謝はいらないというわけにもいかず、無理やり話題をそらした。


 「そういえば、最近あなたのお母さんの元気がないようだけれど……まだ、話してないの?」

 「……そうだな。でも、俺が死ぬってことは受け入れられることじゃないだろ……」

 「そうだけど、ちゃんと話した方がいいんじゃないの?」


 アリスにはどうしても見ていられなかったのだ。真司は部屋で寝ているだけなので、リビングで暗い表情でいる明音のことを知らない。しかし、アリスはここ数日はおろか、真司が起きるまでの5日間―――本当に辛そうな顔をして過ごしていた。


 その真意も彼女にはわかっていた。浮気で出ていった元夫との寂しさを埋めるかの如く家族として接してきた息子が、もうすぐ死ぬということを―――親より先に死ぬという最悪の親不孝をしてくれる真司に、憤りすらも覚えてしまっている、と。


 「でも、話すつもりはないさ。このことで、母さんが俺のことを嫌うなら―――」


 パァン!


 部屋の中に乾いた音が響いた。


 音の正体は、アリスが真司の頬を張った音だ。

 突然の出来事に、真司はアリスの顔を見るが、俯いていて陰になりよく見えない、だが、なんとなく怒っているように見えるのは確かだった。


 「あ、アリス……?」

 「ばっ……かじゃないの!」


 ビンタされたかと思えば、今度は叫ばれてさすがの彼も動揺を隠せなかった。


 「ねえ、なんでそんなことするの!なんで、自分で嫌われようとするの!」

 「それは……俺が死んだときに、誰も泣かないように……」

 「だから、それが違うっていうのが、なんでわかんないの!」

 「なにが違うんだよ……」

 「なにもかもよ!嫌われれば、誰も泣かない?ふざけんな!真司が死んだとき、私は泣きたいわよ!―――みんなだってそう!身近な人が死んだとき、泣いて当たり前なのよ!なのに、泣けなかったときどれだけやるせないと思ってるの?」

 「それは……」


 アリスに言われて、ハッとする真司。だが、彼はそれに気づいても結局後戻りはできない。

 失った友人関係、崩れ去った幼馴染との縁。


 それら一つ一つをあげるだけで、自分がどれだけのことをしているのか理解されるはずだ。

 だが、アリスはそうではなかった。


 「その時泣けなくても、いつかあなたの真意を知ったとき、みんな後悔するわよ!―――なんであの時気づいてあげられなかったのか。なんで助けてあげられなかったのか。なんで……優しくしてあげられなかったのか。どれだけあなたが周りと距離をとっても、あなたの態度とは関係なくみんな傷つくのよ!」

 「でも……それでも俺なんかを相手にするよりよっぽど時間を有意義に……」

 「私があなたとの時間を無駄だと思ってるの?」

 「……!」

 「あなたは、私といるのが嫌なの?」

 「そんなこと……ない」


 アリスの言葉に否定を絞り出すが、その言葉は小さかった。


 理由は単純。心の片隅で、自分に構わないで彼女なりの青春を送ってほしいと思う気持ちとずっとそばにいてほしい気持ちがせめぎあっているからだ。

 別に恥ずかしいとかそういうことではない。ただ、自分の心と理性の意見が食い違いすぎてどちらが正しいことなのかわからないのだ。


 ただ、自分のしてほしいことはアリスにいてもらうこと。そして、アリスに一緒にいる時間を嫌だと思ってほしくない。


 そして、その言葉を肯定するようにアリスは真司の手を取り、こう言った。


 「私はたぶんあなたのために泣ける。でも、後悔はしないわ。だって、今もあなたのためにできることをしているから。だけどね―――あなたの幼馴染や友人だった人はどうなるの?泣けないし、笑えもしない。後悔もするのよ。あなたはそんな表情を自分の母親にさせたいの?」

 「それは……」

 「させないでよ。あなたがいなくなった後、あなたのお母さんとはまだまだかかわるつもりなんだから。つらそうに笑うお義母さんを見せないで」


 そう言うと彼女は手を放し、部屋を出ていこうとする。

 出ていこうとする彼女は、なにかを思い出したかのようにもう一度真司のほうを振り返り言った。


 「来週から学校が再開されるわ。体育祭も近いし、絶対に来なさいよ」

 「わかってるよ……今度ばかりは青龍に感謝しておいてくれ」

 「あなたね……私があなたとその契約している魔物?に感謝を忘れたことなんて―――ないわよ?」


 それだけ伝えると、アリスは真司の家を出て、自宅へと帰っていった。


 その後、残された真司は深く考えることなく、動かない体を無理やり動かしてリビングに向かうために階段をゆっくりと降りていく。


 足も腰も全部が弱っているために、簡単に転んでしまいそうだがなんとか到着した。


 「母さん……」


 リビングに入ると、いつも向かい合って食事をとっている場所で、真司の母親が俯きながら泣き腫らしていた。

 ここ最近は彼は見ていないが、彼女は情緒不安定もいいところだ。


 だが、ずっと落ち込んでいるのは変わらない。

 その点においては、安定しているとも言えてしまう。


 そして、真司の声を聴いた彼女はゆっくりとこちらの方に顔を向けてくる。


 「真司……」

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