THE HIJACKING
とにかく頭をつぶすこと。
相手のゾンビを仕留めるにはそれしかない。
それも、頭を切断するのでは意味がない。どういう仕組みかはわからないが、頭が離れただけでは命令系統が死んだ判定にならず、体が動き続ける。
しかし、くちばしをとったひよこのように、相手を傷つける能力を持たなくなる。
だが、再生能力がないとは限らない。放置していれば、頭をくっつける可能性を否めない。興味がないわけではないが、それを試しているわけにはいかない。そんな余裕があるはずがない。
「ちっ、どうしても剣戟だと切断が作業内に入るから、無駄なアクションが増えるな……」
「だったら剣の腹で攻撃してみるといい。そうすれば、斬撃というより打撃に近いものになるはずだ」
真司は玄武に言われたとおりに剣の腹でゾンビを殴った。
すると、見事に頭をぐちゃぐちゃにしながら分断した。その瞬間、打ち抜いたゾンビはゆっくりと体が地面に倒れていった。
「よし、これなら!」
先ほどまでは左手で相手をつかんで、力の限り接近し刃を振り下ろすという形でやっていた。しかし、今度は柄を両手で強く握り、全力でバッドのスイングを想起させるように振り抜くように変わっていた。
「どおらああああ!」
全力で振り抜き、来るゾンビを殺しにかかっていく。
ただ、数にキリがない。殺しても殺しても、やってくる。奥のほうからどんどんやってくる。
「こうなったら吹っ飛ばすしかねえよな……青龍、アリスたちの位置は?」
「破片やら何やらも、ある程度の出力まで抑えれば、問題ないはずだ。では、頼むぞ玄武」
「心得た―――真司、クリスタルを押し込め」
「あ、結局発動のトリガーはこれなのね……」
そういうと、真司左手にあるクリスタルを押し込んで、技を発動する。
青龍と玄武の内包する魔力を同時に押し固め、火球を生み出す。
それは少しずつ肥大化し、周りを赤々と光らせていく。
「さあ、吹っ飛べゾンビども!」
そういった瞬間、彼は火球を爆破させた。
彼は体幹のみでそれを耐えるが、半分自爆のような技だ。
爆風によって、ゾンビたちは跡形もなく消し飛び、とりあえずは周りに見える存在はなくなった。
第二波が終わった。
「いっつ……ちょっと無茶しすぎたか……?」
「とにかく修復の魔術を使っている。しばらくすれば痛みはすぐに引くだろう。周りにゾンビの気配はない―――いや、なんだこれは?」
「ああ、あいつの気配だな。この方向、アリスたちのほうか……アリスに手を出すなら洗脳されてようが何だろうが、ぶっ殺す」
そういうと彼は、アリスたちのいる方へと走っていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ズガァァン!
「「……っ!?」」
唐突に響いた爆発音に、アリスと南篠は来た道を振り返った。
特に何もきている様子はない。
ゾンビの足止めは真司がやっているのだから、彼女たちのもとにやってくるはずがない。
そう信じて走っていたのだが、今の爆発音はアリスにとって不安要素となるだけだった。
「今の爆発……」
「きっと彼が何かの策で爆発させたんですよ」
「なにを、爆発させたの……?」
「ガス栓とかですか?」
「いや、一番最初の爆発音―――金属の破裂する音とかなにも聞こえなかったわ。多分、単純で純粋な爆発―――真司の力によるものよ」
「そんなこと……そうですね。ゾンビそのものが爆発する事例は聞いていません。もしかしたら、彼が爆破した可能性はありますね」
「なんでそんな無茶なことを……?いや、真司ならそれくらいのこと……」
真司が無事なのかどうか。それがわからず、少しだけ錯乱する。
もうパニックで一般人の彼女はいつものような余裕を見せられないのだ。
それに反して、南篠は常に冷静であり、彼女にも目くばせをしておいた。
「ねえ、真司は大丈夫なのかしら?」
「それは私にはわかりません―――ですが、彼がやると言ったのです。信じる以外にないでしょう」
返事は冷淡なものだった。
自分のことでもないことには、彼はそう何か言える状況ではない。そういう性格でもない。自分が生きていけるかすらもわからない。
死にたくない気持なんか人並みにある。しかし、彼の警察としての使命がアリスを守ろうと動いている。
もしかしたら、彼の言動は自身の恐怖心を隠すためのものなのかもしれない。
アリスたちはそのまま空港の置くほうへと進んでいくが、彼女―――アリスの耳が何かをとらえた。
「何か来る?」
「……!?ゾンビですか?」
「ううん……これは―――上からだわ!」
彼女がそう言った瞬間、南篠は自分とアリスの体をかばうようにして後退しながら倒れこんだ。その直後、天井を突き破って何かが落ちてきた。
しかも、そのまますかさず腰から銃を抜き、何かが落ちてきた方向に構える。
煙が晴れていくにつれ、だんだんとその姿があらわになっていく。
そのシルエットは、人間の姿に似ており、ゆっくりと立ち上がるような動きも見える。
一瞬ゾンビかと思ったが、それにしては動きが鮮明だった。
煙が晴れ、その姿が露わになった瞬間に、南篠は思い出した。
「カメレオン男……」
「あれは……私に攻撃をした人物―――ここでなにを!」
「人類の進化のためだ。それを拒むなら、邪魔をするな。邪魔をするというのなら―――ぐっ!?」
なにか大仰なことを言いかけた目の前の男は、突然目を押さえ苦しみ始める。すると、先ほどとは違う声質でなにかをしゃべり始めた。
「お、俺は―――まだ飲み込めたわけじゃない!ほん、本当にこれで人は生きながらえるのかも……」
「黙れ!貴様にもうこの世界をどうこうすることはできない!」
「お前……っ!」
その姿を見て、2人はただ事ではないと悟る。
なにかの相反する意思がぶつかり合っている。
「後者の声が……宿主のほう?」
「……やはりあの人物も人間が」
「うるさいな。俺の邪魔をするなら、お前たちもアピス様の贄となれ」
苦しんでいる様子を見せていた相手が、唐突に襲い掛かってくる。
このままではやられる。そんな考えがよぎった瞬間に、南篠は発砲していた。
無論、威嚇ではなく直撃コースで。
だが、狙いが若干外れたのか、相手がよけきれなかったものの肩口に当たるのみだった。
もちろん、魔物と契約した人間にそういったものが有効打になるわけがない。もちろん、南篠の使っている弾は渡辺の開発したものでもない。
直撃した弾丸に対するお礼だと言わんばかりに相手はこちらに向かってくる。
その時だった。
ドォォン!
「やらせるかよ」
「またお前か!」
「なんか、こいつの喋り方おかしくね?」
壁を突き破って真司が―――0号が現れた。