WHAT YOU CAN DO BECAUSE OF YOU
「うぅ……」
「来たな―――第二波ってやつだろうな」
「とりあえず、私と喜瀬川さんとで行動して、ゾンビを回避します―――十神さんは、ご武運を」
「真司、気を付けてね」
二人はそう声をかけてラウンジを去っていく。その際に、できるだけ動きに制限がかからないようにしながら、持てるだけの飲食物を持って行った。パンだけでも食べられないよりはマシというものだ。
残された真司はクリスタルを押し込んだ。
変身先は紅きマントを羽織った姿。
バーストクリムゾンになった彼は、椅子から足だけをへし折って構える。
「来い……ここから先は通させない」
ゆっくりとゾンビたちのほうへと歩んでいき、思いっきり剣を振り上げる。
数などものともせずに彼はゾンビたちをなぎ倒していく。相手の髪の毛を剣で切りかからずに拳を使う。柄を握ったまま腕を回し、何度もゾンビの顔に入れる。
相手のぐちゃぐちゃになった顔を見ながら地面にたたきつける。
地面がへこむほどの勢いでたたきつけたが、すぐに床が抜けるんじゃないかと冷静になる。
しかし、すぐにそれでもいいかと考える。
ゾンビの進行路がなくなり、下にいるゾンビたちの相手もできる。
そう考えた彼は、思いっきり力を込めてたたきつけたゾンビにエルボードロップをお見舞いした。
すると、すでについていた床の陥没がさらに広くなり、大きな穴が開いてしまった。
ラウンジの突破に時間がかかっていたのか、下の階にはゾンビがたまっており、真司の放った攻撃と瓦礫によってゾンビたちに追撃が入った。
それで終わるわけではないのだが、何体かのゾンビは原型をとどめないほどにつぶれてしまい、図らずも彼にはしばし休息の時間が与えられた。
「これはラッキーというべきか?いやぁ……この数を見たら、幸運なのかどうかもわからん」
そう呟くと、間髪入れずに剣にクリスタルをかざす。
刀身にエネルギーをためていき、全力の限りで横に振りぬいた。
「どおおおらあああああ!」
気合の限りの横なぎの一閃―――前方のゾンビたちは胴と足が分かれていく。
飛ばされていった斬撃は、そのまま直進し、展望用のガラスも叩き割ってどこかへ飛んで行った。
エネルギーの消耗具合から、いつかは斬撃は消えるだろうが、もし誰かに当たったらという発想は彼にはない。気にしろというほうが難しい。
残ったゾンビたちは、フィジカルを生かしてとびかかり、地面にたたきつけたり、マウントをとって顔をつぶしたり―――普通の人間相手にやっていれば、大虐殺といわれてもおかしくないような惨状へと場を変えていった。
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背後のトレーラーに何人かの学生を抱える伊集院は、何が何でも後ろにはゾンビを通さまいとモルドレッドで応戦していた。
空港からだいぶ離れて市街地へと繰り出すことはできたが、ここで問題が発生した。
多くの人間を抱えているがゆえに、食料が尽きたのだ。そもそもトレーラーには、長時間にわたる戦闘を想定していないため、基本的な携帯食程度しか装備されていないのだ。
しかし、幸か不幸か市街地に出られたことによってスーパーやその他商業施設があった。
外が危険ということもあって、伊集院のみが単独で出撃し、施設内から飲食物をとってくるということになった。
やはりというかなんというか、スーパーの中にはゾンビが何体かたむろしていた。
だが、空港に比べれば微々たる数。ガトリングモードで一体ずつ倒しても、数的余裕が取れるようにはなっている。
『伊集院君、食料のほうは大丈夫そう?』
「はい、生鮮食品は壊滅的ですが、保存食品などはゾンビたちに食い荒らされた様子もないみたいです」
『やっぱり生ものはダメみたいね……とにかくカップラーメンとか常温で保存のきくものを持ってきててちょいうだい。このトレーラー、ポッドはあるけど、冷蔵庫はないのよ』
「わかりました」
無理をせず、だが、全員が苦しまないレベルの食料を調達しようと彼は考えていたが、一つ懸念があった。
(水泳部の方たちと聞いてはいますが、育ち盛りの運動部の集まり―――女子高生だから小食と勝手に決めて、持ち帰る量を絞るのはよくないかもしれませんね)
彼の思うように、マネージャーである美穂以外は男女関係なく食べる。
それはもう、打ち上げの場所を安い食べ放題の店ばかり行くような者たちなのだから。
伊集院の予想は当たっており、なかなかのファインプレーだ。
今の彼と渡辺のすることは、ただ守るだけではなく、保護した人たちをどれだけ不自由な思いをさせないために考えることだ。
食事の面ではできるだけそういった思いをさせないようにしたい。なぜなら、ほかの面での不自由が多すぎる。
家に帰れない。トレーラーから出れない。
多分探せばいくらでも思いついてしまうほどに。だからこそ、警察組織的にも、彼らの人道的にもそれだけは譲れないこと。そのために、かなり大きなバックパックを渡されている。
代わりに、装備が手薄になってしまっている。
装備の過信というわけじゃないが、その能力ならモルドレッドの2モードの身で戦えると判断したのだ。
それからしばらくして、食料の調達を終わらせた伊集院はトレーラーのほうに戻っていく。
あらかたのゾンビは殲滅したおかげか、帰りに遭遇することはなく、中に入ることができた。
「渡辺さん、これからトレーラーに入ります」
『わかったわ。後部ハッチを開けるから、ゾンビには気を付けてね』
「わかってます。周辺にゾンビがいないことはあらかじめ確認しています」
そういって伊集院はトレーラーの中に入っていった。
戻ってきた伊集院は、保護した学生たちにカップ麺を渡し、ポッドの場所も含めて自分でやるように言う。彼は奥にいる渡辺への報告があった。
「念のために水もあらかた持ってきました。おそらくこの調子なら数か月程度なら持たせることはできると思います。ですが……」
「あの子たちの精神状態が持つとは思えないわね。早急に状況の打破を図るしかないわ」
「それにしても残酷ですね……」
「どうしたの?」
「さっきのゾンビ―――ただの主婦の方やまだ年のいかない子供もたくさんいました」
「そりゃ、そういう施設だもの。そういう被害者もいるわよ―――今はもう、老若男女問わず被害が出てる。これ以上の被害を増やさないためには、あなたがためらわないこと。それがあなたにはできるはずよ」
「はい……ですが、いつ終わるんですかね。この悪夢は」