THERE IS NO SUCH THING AS GOOD OR EVIL.
空港に到着したDBTは即座にトレーラーから状況を把握し、伊集院を出動させた。
『V4ガトリングシステム―――モルドレット、装着確認。システムアップ―――どうぞ』
「V4―――伊集院、いきます」
渡辺の通信を聞いた伊集院は、言葉とともにガトリングを装着して、ベルトから伸ばした装着ラインを接続した。
その瞬間、V4の背部ユニットが展開されて、両肩と腰の両脇に一つずつ―――計4つの砲台がアクティブ化された。
『エネルギー出力確認―――発射OKよ』
「モルドレッドバスター!発射っ!」
伊集院は力強く叫び、空港の前に群がるゾンビを一気に薙ぎ払う。
横射線に撃ち抜き、ゾンビたちを跡形もなく吹き飛ばした。射線外にいたゾンビたちのその衝撃に引き寄せられたのか、空港内に向いていた意識が完全にV4に向いた。
『伊集院君―――エネルギー装填のことは気にしなくていいわ。ただ、最大4発までの背部バッテリーと、スーツ動力の腰部バッテリーは別のものだから―――自分のタイミングで撃ちなさい。バッテリーの切り替えで、モルドレッドバスターからガトリングに切り替えられるわよ』
「わかりました。とにかく、空港内にいる子供たちを早急に保護します」
そう言うと、バッテリーを消費しないモード。実弾を使用するガトリングモードに切り替えた。
ちなみに、マガジンの総数は気にするほどではない。一つの容量が大きいうえに、そこは都度補給すれば、ほぼ無尽蔵に撃つことができる。
モルドレッドの重さゆえに伊集院はゆっくりと空港に近づいていくが、ガトリングにより、確実にゾンビたちを殲滅していく。
殲滅により、空港までの道が十分に開き、彼は警告を出した。
「扉から離れてください!もう一度言います!扉から離れてください!」
二度の警告から、子供たちが扉から離れたのを確認してからすぐに真司はバスターモードに切り替えて、扉を吹き飛ばした。
威力が高く、弾の速度も以上に速い故に、窓ガラスは綺麗に円形に打ち抜かれた。
しかし、これだけでは、撃ち漏らしたゾンビたちが中に入ってしまう。
だが、それを考慮したうえでの作戦だ。彼らに抜かりはない。
「渡辺さん!」
『わかってるわよ!』
伊集院の言葉を受けた渡辺はドライバーに向けて後進の指示を出した。
一気にバックをし、それとは思えないほどの速度で円状に打ち抜かれたガラスに突っ込んだ。
いともたやすくガラスは割れ、空港内部にトレーラーが入る。
「皆さん、今すぐ入ってください!ここから一時的に避難します!」
その言葉を皮切りに、これ幸いと子供たちは乗り込んでいく。
伊集院の誘導もあってか、スムーズに事が進み、その場にゾンビが集まっていることもなく終わらせることができた。
「渡辺さん!」
『一時避難者の乗車を確認したわ。発進して』
指示を出し、トレーラーを発進させる。
目の前に歩くゾンビたちはトレーラーの機動力をもってして、なぎ倒していく。
いともたやすく蹴散らし、その場から撤退することに成功する。
子供たちは安堵するも、ただ一人だけは顔色が優れないようだった。
だが、彼らは知らない。
―――こんなにも簡単に空港から出れたのは、真司のおかげだということを。
彼がゾンビをひきつけ、“第一波”を蹴散らした。だから、伊集院のいた場所にゾンビが集まり切っていなかったのだ。
そして、第一波であることを聞き逃してはならない。
それある意味、絶望を意味するのかもしれないのだから。
誰がゾンビは繁殖しないと決めたのだ?
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「真司!真司っ!」
アリスは近くに南條がいるということも気にせずに、何度も何度も彼に呼び掛けた。
しかし、目を覚ますことはない。何か苦しそうにしていて、呻いていた。
「これは……やはり0号の正体は―――」
「そうよ……人間よ!なにか悪いの?あなたたちが勝手に敵対して、真司を殺そうとして……反撃を受けて―――それだから敵だって。治安維持もわかるわよ!あなたが、無理に殺そうとしているとは思ってないわよ!でも、でも……!」
少しだけアリスは苦しそうに言った。
「0号が……人間でなにがいけないの?私は、真司に―――正義の味方に救われたのよ……」
「……私は0号が敵か味方か決めあぐねていました。ですが、これではっきりしました。0号は味方です。なぜなら彼が人だから。私はそれを信じます」
そう南條は真っすぐ答えた。
その根拠が何なのかはわからないが、本心で言っていた。彼女にはそれがわかるがゆえに理解できない。なぜ、そんな飛躍した考えになるのか。
「警戒していますね?あなたは、性善説と性悪説、どちらを信じますか?」
「それは人は生まれながらに善か悪かってこと?」
「そうですね」
「私は―――悪だと思います。だからこそ人は善行を積み、許されようとするのでは?」
「違いますね。人は生まれながらに善人です。なぜなら、私が善人だから」
「はい?」
「人は善人なのです。間違いを犯し、道を誤れば、それは悪となる。だが、私のように誠実に生きる人間が悪なわけがない。だからこそ、私は彼を善人だと思うのです」
やはり理解できなかった。
ただ、この男が想像以上の自信過剰だということはわかった。
それがわかったからどうするのかと聞きたいところではあるが、今はそんなことを聞いている余裕はない。
先ほど南條はとどまることほどの愚行はないと言った。
その通り、少しずつゾンビのうめき声が集まり始めているのをアリスは感じ取っていた。
そんな彼女は、真司を抱え歩こうとする。だが、あまり力に自信のない彼女では彼を運ぶなど中々難しいことだった。
「やめてください―――喜瀬川アリスさん」
「私が運ぶのよ。私が―――待って?なんで私の名前……?」
「気付かないとお思いですか?先ほど思い出しました。あなたは、アメリカで活躍していた天才ハーフピアニストのアリス キセガワですね?あなたの音色、よく聞いていましたよ」
「ここを切り抜けたら、いくらでも演奏してあげるわよ!だから、真司を―――」
「私を見くびってもらっては困ります。そんなものを提示されなくても、私は運ぶつもりですよ。ただ、あなたに無理なことをしてほしくないだけだ」
そう言うと、南條は真司を抱えて歩き出す。
「さあ、行きましょう―――この凄惨な地獄は0号……いや、彼が終わらせてくれるでしょう」