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TO NOT LOSE. TO NOT GIVE UP. TO NOT RUN AWAY. TO BELIEVE IN YOURSELF.

 「私は―――捜査一課所属の南篠です。立てますか?」


 その言葉を受けたアリスは、男に手を引かれるまま走っていた。

 だんだんと現場から離れていき、窮地に立たされ彼女は、いつの間にかそれを脱していた。


 しかし、ゾンビ自体はこちらのほうに向かってきていて、そういう意味ではいまだ彼女は―――彼女たちはピンチのままだろう。


 現状、ゾンビの影響か、先ほどの飛行機が墜落したからかはわからないが、空港内は完全に停電していた。

 動く歩道が機能しなくなり、ゾンビの移動能力がわずかにでも少なくなったのは幸いだろう。しかし、自動ドアが開かないのは少々致命的だ。


 仕方なく彼女たちはゾンビたちの視界から外れるように壁に隠れ、息をひそめる。

 しばらくすると、彼女たちを見失ったゾンビはその場を離れていき、つかの間の安どの時間が訪れる。


 「はぁ……はぁ……どこかに、行ってくれた?」

 「……落ち着きましたか?」

 「はぁ……はぁ……その、ありがとうございます」

 「いいんですよ。あなた方弱き一般人を救うのが我々警察の役目ですから」


 少々物言いに苛立ちを覚えたが、アリスは何も言わなかった。さすがに恩人に対してそんな口の使い方はできないからだ。

 それに、彼女にはもう一つだけわかっていることがあった。


 (この人……物言いは気に入らないけど、善人の感じだわ。真司と同じタイプかしら?)


 そう思うと、今までの焦りがすっと晴れた。

 目の前の南篠と名乗る人物がねの優しい善人なら、必ず自分を助けてくれると思えるのだ。


 「それにしてもどうしましょうか……」

 「空港から脱出するんじゃ……いや、外にもいる感じかしら?」

 「そうですね。先ほど私が飛び込んだ時にはそう数はいませんでしたが、今の空港の占拠具合を見ると、脱出できないくらい外にいてもおかしくありません。それに―――」

 「……?」

 「それに、今現在千葉県から出ることができません」

 「は?なんで!?」

 「県民全体がゾンビ感染の疑いがあるために、県境はほぼすべて封鎖―――ネズミ一匹通れないほどです。今この場を脱しても、いつも通りの生活に戻れるかどうか―――いえ、これはあなたを不安にさせるだけですね―――安心してください。この私の名に懸けて、あなたを必ず自宅まで送り届けます」


 アリスを安心させようといった言葉。なぜだか、説得力を感じた。

 自分に対する絶対的な自身なのか、ここまではっきりと結果を宣言できるのはすごいことだ。彼女の中で南篠のイメージは、かなりのエリートの警察となった。―――事実、そうなのだが。


 「とにかく、ここを移動しましょう。こういう状況では、一か所にとどまるのは愚策です」

 「はい」


 ただ一言、返事を返して走り出そうとする。

 その瞬間―――


 ガシャァン!


 外のガラスをたたき割って、数体のゾンビと変身した真司が飛び込んできた。


 「グアアアアアアアアアアアア!!」

 「―――っ!?伏せて!」


 状況の異変を感じ取った南篠が、なぜか身動きをとらなくなったアリスの頭をもって伏せさせた。

 それが功を奏して、周りのゾンビは一掃されたものの、アリスと南篠は無事だった。


 「はぁ……はぁ……0号……今のあなたは敵か味方か―――見極めさせてもらいます」


 彼はそうつぶやくが、そんな言葉とは裏腹に0号はその場に倒れた。

 体力切れ―――暴走状態で戦いすぎたのだ。しかも、アリス以外の人がいるというのに、強制的に変身が解除される。


 それを見たアリスは思わず南篠の手を振りほどいて飛び出した。


 「真司っ!」


 仰向けで倒れて気を失っている真司を揺らしながら彼女は涙を流す。


 「真司……真司……」


 先ほどより時は遅れた。おそらく、暴走している状態の彼にはそんな気もなかったのだろう。

 だが、彼女は彼に助けられた。ただ、その気持ちだけでいっぱいだった。うれしかった。


 ほかの人にばれただなんてことはもうどうでもよかった。


 しかし、南篠のほうはそうもいかなかった。


 「やはり、0号は人間―――それに、異性に慕われるほどの優しい人物……」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 真司たちと別れた後の水泳部の面々は混乱していた。


 飛行機が墜落したかと思えば、テレビ越しにしか見たことないゾンビが現れた。

 そのうえ、いの一番に逃げようとした部員たちがゾンビに感染し、かろうじて逃げ切った部員たちも空港から出れずにいた。


 「おい!どうして開かないんだよ!」

 「停電に決まってるでしょ!こんなことするくらいならどこかに隠れたほうがマシよ!」

 「こんなにゾンビがいるのに、どうしろっていうんだよ!」

 「やめて!こんなところで、喧嘩しないでっ!」


 ここで普段声を荒げることのない美穂が叫んだ。

 普段おとなしく、清楚を体現したような彼女がこんなことをするのは、誰の目から見ても想定外のことだった。


 「はぁ……はぁ……今は喧嘩をするんじゃなくて、助けが間に合うようにどうするかを考える以外にはありえないよ」

 「それは……」

 「もう、三人―――いの一番に助かろうとした人たちはゾンビになってた。その中には、ここにいる人の友人、だってこともあると思う。それを思う気持ちはわかる。みんなはそうじゃなくても、私は真司が心配なの。本当はここを飛び出していきたい。でも、生きるためには、みんなと生きて帰るには今をどうするか考えなきゃ!」


 美穂の考えにその場にいる全員が賛同した。

 確かにと、全員で周りを警戒するように移動するようにした。今はとにかく出口を目指すしかない。


 安全策をとったおかげか、いち早くゾンビ接近に気づき、それ以降は犠牲者を出すことなく出口までたどり着いた。

 しかし―――


 「嘘……こんな……」

 「くっそがよおおお!」


 外にはゾンビがあふれかえっていた。

 彼らの存在に気づいていたのか、バンバンと開かない自動ドアをたたき続けていた。


 その絶望的な状況に、女子部員は膝から崩れ落ち、男子部員は雄たけびを上げながら地面を殴った。

 美穂も、絶望しながら外を眺めていた。まだ―――まだ脱出の手段があるのではないかと必死に見ていた。だから気づけた。


 かすかにゾンビたちが打ち上げられていくのが見えた。

 よくよく見ると、それはテレビで見た対デモニア戦闘用特殊スーツ―――に似たなにか。V4システムがあった。


 それは彼女たちにとって確かな希望の光だった。

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