QUITE INTERCEPTION
伊集院はフルオートで、連続してくる攻撃を迎撃し続けていた。
だが、彼も機械任せで殴っているのではない。
しばらく静かに静観していると、あることに気付いた。
「渡辺さん、アシストをオフにしてもらえますか?」
『でも、それをしたら―――』
「大丈夫です。思いのほか相手の攻撃は単調なので」
明らかになにかの自信がある声。
渡辺はそれに賭けるしかない。
『わかったわ。ただし、アシスト解除後に攻撃を受けたらすぐに作動しようとし始めるわ。そうなったらあなたの制御権は一切アシスト機能に譲渡される。あなたを守るためのシステムにね』
「わかっています。ちゃんと仕様書は読んでありますから」
渡辺の警告を聞いた伊集院は即座に動き始める。アシストの解除が認められた瞬間に、先ほどのような防御姿勢は取らなくなる。その代わりに、彼は迫りくる攻撃のすべてを避ける。
しかし、彼に攻撃は見えていない。すべてが見えていないわけじゃないが、それでも黙視するのは確認するので精一杯だ。
しかし、それでも攻撃の一つも当たらない。
『すごい―――私もカメラ越しに見てるけどなにも見えてないのに……』
「単純、ですよ!攻撃は、順番に右側方、左斜め上、上方の順に攻撃を受けてます。動いても、それが変わらないみたいなんです。アシストの時の基本防御姿勢は変わらずに、その方向からの攻撃に対処していました」
『でも、その速度に対応して動けるのは限られた人間だけよ』
「渡辺さんに選ばれるだけの仕事はしますよ。僕にだって、プライドはあります!」
そう言って彼は攻撃を避けながら壁際に立つ。
上段の攻撃を確認したら、その次にやって来るはずの攻撃はわずかに遅れてくる。
建物の壁に当たり、少しだけタイミングがずれたのだ。
その隙を狙って攻撃の嵐から少しだけ体をずらし、携行銃で前方を射撃する。
すると、少しだけ爆発が起こり、攻撃がこなくなる。
後には白い煙を発生させる地面だけが残っている。
「倒した、のか?」
『目標の反応の消失の確認。敵はいなくなったわ。伊集院君、まだ帰還せずに周辺住民に残った人がいないか確認して頂戴。私もすぐにそっちに向かうから』
「わかりました。逃げ遅れた人がいないか確認してみます」
『そこだけど、おかしいのよね』
「なにがですか?」
『こんな状況なのに、避難命令が出ていないのよ。なにか嫌な予感がするわね』
「じゃあ、僕たちが避難指示に当たりましょう。ちょうど僕たちがいますし」
そう言うと伊集院は周辺の確認を。渡辺は上の方に避難指示の許可をとることにした。
―――ほぼ同刻
空港に少しだけ人だかりができていた。保安検査場の前でたむろする人たちは漏れなく真司の通う高校の水泳部の人たちだった。
結構な人数ではあるが、決して人の迷惑にならずに行動する部員たちが囲むのは、今より海外に飛ぶ長谷川臨時コーチだった。まあ、臨時とは名ばかりの飛び入りコーチではあったが、それでも彼らの成績の向上に大きく貢献した。
夏の大会にも少しだけ顔を見せたが、肝心の生徒たちの活躍を見守ることはできなかった。
だが、後の成績発表だけを聞くと、大半の生徒が自己ベストを更新し、中には入賞する人たちもいた。
そんな誇らしい功績にも彼は鼻にかけることなく過ごしていく。
そこには十神真司という誰にも引けをとらないほど優れた選手が移っていた。そのため、彼は自分が思っている以上に生徒たちに期待することはやめていた。
もちろん真司に肉薄できるような選手もいるにはいる。だが、それは全国レベルの話。この高校の部活にはそんあ競い合える相手もいない。
そんな残念ともいえるような寂しい気持ちが彼を襲う。
結局彼の姿は見えないし、見送りには来てくれないのかと考えてしまう。
そうこうしていると、見覚えのある人物が長谷川の見送りの場にやってきた。
その人物は水泳部の中でもちょっとした有名人で、全員が全員、なぜここに?と、首をかしげてしまうものだった。
部のマドンナともいえるマネージャーを捨ておいて選ばれた女子。あんなにも健気で守ろうとしていた彼女をフった男の彼女。
なぜ本人がこないのかという疑問もさることながら、なぜ来る資格があると思っているのか甚だ怒りすら覚えてしまう。
そのためか女子部員たちが長谷川のもとに行くことをブロックする。
しかし、彼女はそんなことでは引かなかった。
「邪魔よ―――その先生に一番音があるのはあいつなのよ」
「それでもあなたが来る資格はないわ。ましてや、あなたは水泳部ですらないじゃない」
「その人は水泳部のものじゃないわ。あいつ―――真司の恩師でもあるのよ」
「うるさい―――ここはあなたのような女が来ていい場所じゃないのよ」
彼女はやってきた少女―――アリスの言葉には一切耳を貸さなかった。
なぜだか必死に長谷川をブロックしているが、当の本人はどこで出ようかと見計らっているようだった。
だが、アリスはここで相手の神経を逆撫でするようなことを言ってしまう。
「へぇ……あなた、真司のことが好きだったのね?」
「なっ!?」
「唯咲さんがいるから諦めてたけど、その唯咲さんすらフラれて。あなたの気持ちのやりようが―――」
パァン
その瞬間、乾いた音が響いた。
域に空港内が静まり返るが、mすぐにその喧騒を取り戻した。
「あなたに―――なにがわかるの!」
「わかるわよ。急に真実を衝かれて焦ってる。本当のことを見抜かれてムカつく―――いろんな感情があなたの声にこもってる。でも、わかるわよ?真司、カッコいいものね。水泳をやってる時の姿も相当だったんでしょう?」
「お前っ……!?」
アリスの言葉に耐えきれず、女子は彼女に殴り掛かろうとする。
さすがに静観するわけにもいかないとほかの部員たちが止めるが、彼女への侮蔑の視線が集まる。
しかし、彼女はそんなことも意にかえさず、女子を取り押さえるためにひとがなgレ、空いた道をゆっくりと歩く。
「出発までまだ時間はあるかしら?」
「うん、まだあるよ。それより、頬の方は大丈夫?」
「大丈夫よ―――あの時に比べたらかわいいものだわ」
「あの時……?」
「ふふ、想像に任せるわ」
少しだけ妖艶な表情を作り長谷川に見せる。だが、まったく効いた様子はなく、これも真司にしか通じないのかと思うことになる。まあ、他にやって相手がその気になっても彼女は相手にする気もないのだが。
「時間があるのなら、ギリギリまで真司を待ってほしいわ。ちょっとトラブって来れなくなってるから」
「わかった。出発自体はまだ時間があるから―――真司を待とう」