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THE KILLING OF DEATH

 気配をたどって彼がたどり着いたのは、地獄だった。

 比喩的表現であるものの、その言葉は言い得て妙ともとらえることができる。


 「うがぁ……」

 「うぅ……」


 辺りには人間がいた。

 本来魔物が出たのを見たら逃げ惑っていてもおかしくない。もしかしたら、すでに魔物は移動しているのかもしれない。


 否である。

 駅前に集中する人間の集合の中心にその気配は存在している。


 そしてそこから導かれる最悪の結論。考えなくてもわかることだった。


 「真司……」

 「わかってる。こいつら全員ゾンビだ―――しかも、力の根源は奴らの中心にある。アピスはあの中だ」

 「いいのか?アピスを倒しても術が解けることはない。救う手立ては存在しないぞ」

 「もういいよ。俺はその業を背負う。ゾンビにされたやつらも、家族を殺すことに幸せは覚えないはずだ」


 そう言うと、真司はブラックに変身する。

 武器を使わずに、一人一人順番に殺していく。武器を使わずに、彼らをゾンビではなく人として殺すために。


 骨は拾えない。この遺体がこの後どうなろうとも真司は干渉できない。

 だからなのか、彼はゾンビの集団の中に叫びながら飛び込んだ。


 次々に迫りくるゾンビたちを己の拳で殴りつける。

 殴ったときの感触は最悪だった。ゾンビ化によって急速に体が劣化しているのか、真司の力が強くなっているのも相まってベチャッと相手の頭をつぶすことができた。


 すごいことに、頭蓋骨も腐食し溶けかけているからか簡単に崩れてしまう。

 それはもう、人と呼べるものではなかった。


 「ぐぎゃあっ!?」

 「クソッ―――こんなの……クソッたれガアアアアアア!」


 どうしようもない怒りを募らせていく。殴った相手が声にもならない叫びをあげて死んでいく。

 彼として形容できるものではない。だが、やり切るしかない。吐きたい気持ちを抑えながらようやく彼はこの件の首謀者の元へとたどり着いた。


 「見つけたぞ、アピス」

 「オリジン……お前もゾンビにあればいいじゃないか」

 「あ?」

 「そんな苦しそうな顔をするのなら、すべてを忘れて死を超えた存在になれ―――苦しむことがなくなるぞ」

 「お前は死を捨てたのか……?」

 「死……?それは、お前に真っ二つに斬られたときに通過した!お前が、お前させいなければ!」


 突然激昂したように暴れ始める。

 真司に攻撃するために先の鞭を振り回しながら攻撃をする。その際に、自身で生み出した配下ともいえるゾンビたちも巻き込まれて殺されていく。


 しかし、その光景を見て彼は少しだけ落ち着いた。


 「やはりアピスは死んでいる。今ので一瞬だけ冷静に慣れたから気付けた。今のやつの魔力の波動―――アピスのものに似てはいるが、まったくの別物だ。この状況で考えられる可能性はあるか?」

 「別個体の反応、昔の魔物―――恨み……少なくとも純粋なアピスという存在ではなさそうだ。まさか、即身体の弊害か?」

 「一度殺したから―――奴はある意味で怨霊のような存在としてこの世界にいるんじゃないのか?」

 「そこはまだわからない。我ら四神に即身体を使う能力はない。記憶が完全でない以上、それ以上を知ることはできん」

 「そうだよ、なっ!」


 相手は怨霊のようなもの。そう結論つければある程度納得はいく。気配の差異はあれど先の戦闘での行動パターンの変化はない。進出武器ではあるが、鞭ももう見た。彼にはもう通用しない。


 アピスもそれがわかっているのか、攻撃以外にも周りにいるゾンビを絡めとり、真司に投げつける。

 しかし、その攻撃は真司の拳によってすべて粉砕される。


 そうしているとだんだん鈍ってくる。

 彼が一般人を殺しているという事実に対して。


 次々に彼へとゾンビが迫ってくる。アピスの方向から飛ばされてくるものとは違い、ゾンビたちが自発的に寄ってくる。


 後ろから側方からどんどんと彼の体を掴んでいく。


 「かかったなオリジン!」

 「なに言ってやがる?」

 「ゾンビがただお前に群がるだけだと思うな!」


 そう言うとアピスは自身の手を前に掲げ、なにかの力を込め始める。その瞬間、破壊せずとも振りほどけていたゾンビたちの拘束が突然強固なものとなった。


 「ん……?」


 ズガァァン!


 唐突な爆発―――真司はそれにもろに受けてしまう。

 はたから見れば真司は死んだ。しかし、彼もそんなことでやられるほどの力量でもない。


 「やったか……」

 「そう言うのは味方の仲間が言うからいいんだろうが―――敵が言ったら世話ねえだろ」

 「やはりだめか……!」


 爆発の煙が晴れると同時に真司は姿を現す。

 その姿はいつの間にか赤く、マントを羽織っていた。さすがにブラックのままじゃあれは耐えられなかったのだ。


 とりあえず、赤に変化したのなら武器を持ちたいところだが、ちょうどいいものが見当たらない。

 だが、少し離れれば今の爆発で倒壊した家がある。そこから拾える。


 「シャオラッ!」

 「うおっ!?」


 思考を巡らせているとアピスは鞭での攻撃を仕掛けてくる。

 厄介なのがゾンビの山で視界が遮られ始めていることだ。


 「ちっ、やっぱりゾンビを遠隔で操作できるわけか―――さっきの爆発も、今のこのバリケードも」

 「鞭の一撃も気をつけろ。忘れてるかもしれないが、あれを食らえば血を失う。いや、奪われるか。腕脚ならどうにかなるが、頭とかに受けたらひとたまりもないぞ」

 「わかってる。さっきからそれを警戒してる。だから動けないんだ―――いや、待てよ。そういえば―――」


 真司は思い出した。

 前回の戦いで、彼の腕はアピスの撤退後に治った。それに、鞭を撃たれてから彼の腕が完全に動かなくなるまで若干ではあるが、隙間時間があった。


 そこから考えられることはいくつかある。


 一つ、鞭が当たっても術式の発動ないし完了に数瞬だけラグがある。

 一つ、アピスが撤退することにより術式が作動しなくなる。もしくは、一定効果範囲をが定められていて、それを出ると蘇陽不能になる。ならびに解除される。

 一つ―――一度解除された術式は再度の発動は不能。戦闘の始まりでそれをしない理由はないので、これはほぼ確定次項。


 そこから導き出される結論は一つ……


 「もう11時……今からやることを考えると『転』の使用はできないだろうな」

 「なにをするつもりだ?」

 「すぅ……少しを無理をする。このままだと空港に間に合わない。そのうち治るなら、腕の一本犠牲にするくらいはなんの問題もない」

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