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転校生がときめく

 「あと一年生きれるかわからない」


 その言葉はアリスに重くのしかかった。

 言う前に気付いてしまったが、本当に彼に死が近づいているとは考えたくなかった。


 「どういうこと、なの……」

 「そのままの意味。本当に長くない―――かもしれない」

 「だから、それがどういう……」

 「そういう契約なんだ。ただ戦うだけじゃない。この体に負荷をかけすぎると、俺の本当の体が限界を迎える」

 「本当の、体?」


 真司は誰にも言ったことない秘密―――それをアリスに打ち明ける。

 しかし、それは彼女にとって信じがたいことでもある。


 戸惑う彼女をよそに真司はさらに続ける。

 自分のした本当の契約内容―――母親に伝えていない親として感じる残酷な真実を。


 「俺の体は、今ここにはない。今の俺は、自分の契約した青龍が生み出した模造品のようなもの。それも魂をもとに作られた故に、状態は本体と繋がっている。ある程度なら致命傷でもなんとかなる。だが、長期的な浸食などの攻撃にはめっぽう弱いんだ」

 「だから、死んじゃうの……?」

 「もとから、契約したことによって寿命自体は半分くらい消えてる」

 「な、なんでそんな契約を!」

 「もう、アリスならわかるだろ?俺はそういう奴なんだ。知ってしまった以上、俺はなにもできないなんて嫌なんだ。この契約をしてさえいれば守れた命がある。そう考えたとき、たぶん俺は耐えられなくなる」


 わかってた。彼女は真司が命に危険があろうとも、戦いを選ぶことは出会って、抱きしめて、彼のなく姿を見てわかっていた。

 彼の嫌うことは、自分が傷つくことじゃなくて―――他人が傷つくこと。


 だが、その心は彼女のことを苦しめる。


 「待って、じゃあなんであと1年しか?」

 「毒を食らったんだ。アリスと会う前―――いや、アリスを救う前に、蜂型の魔物と戦った時に毒を受けた。青龍の治癒術式で侵攻を止めているが、徐々に毒が体を蝕んできている。そして、その治癒術式がどうしようもない状態に到達するのが、感覚ではあるけどあと1年くらいってことだ」

 「毒……なら、血清とか!」

 「ないんだよ。異界の毒に対する血清がこの世界にあるはずないだろ?」

 「なら、その魔界に―――」

 「青龍は魔界を捨てた身。もう戻ることはできないみたいだ。もう手の施しようがない―――だけど、後悔はないかな。助けた人たちが元気になって。こうやって俺を助けてくれる。それだけで、良い気がしてきた」


 その言葉から、アリスは嘘を見いだせない。本気で言っているのだ。

 彼女自身も、自分のことを助けてよかったと思われている。そう思うと、胸が熱くなり―――ものすごく頬が熱くなった。


 「私を助けたこと、後悔してないの?」

 「そうだな……人を助けたのに後悔とかはしないよ。でも、アリスは別かな」

 「え?」

 「俺が生きたくなる理由になっちゃうからさ。でも、だからって離れてほしくないなあ……」

 「……!?」


 すべてを達観したような雰囲気を出しながら放たれた言葉。無自覚ゆえに、アリスにはとんでもない攻撃力をたたき出した。

 さすがに、命を救ってくれた男になにも思わないはずもなく、その上にこの言葉だ。

 彼女は自分が落ちていることに気付いた。我ながらちょろいとは思うが、仕方がない。


 「ほんとバカね。1人になりたいなら、そういう惚れさせるような言葉を言わないのよ」

 「悪い……」

 「なんであなたはテンプレ通りの反応にならないのよ……」

 「なにがテンプレなのかよくわかんないけど、俺はアリスがいてくれて嬉しいよ」

 「また!?もう、ちょっと一回黙って!」

 「えぇ……」


 少し声を荒げながらそっぽを向くアリス。彼女の顔は真っ赤になっている。


 (これ、真司の幼馴染が惚れているの―――悔しいけどわかってしまうわ……)


 そう考えるが、彼女にはその言葉を伝える勇気はない。

 ただフラれるだけなら構わない。だが、たとえ受け入れてくれてもそうでなくても、自分の恋人と一年しか関係を紡げないのは、本当に辛いからだ。

 なら、ある程度割り切って一緒にいたほうがいいのかもしれない。心の込めすぎは互いによくない。


 「はぁ……にしても、この公園は静かね。今時子供もいないのかしら?」

 「みんなテレビゲームとかやってんだよ。むしろ、今時外で遊ぶ子供のほうが少ないだろ」

 「そんなもん?恋人と座っているベンチの背景に子供の遊んでいる姿がるっていうのは中々エモいものがあると思うのだけれど……」

 「やけに具体的な風景……」

 「いいじゃない。まあ、私と真司、2人で思い出を作っていきましょう。友達として、これからの人生にやり残しがないように」

 「うん、ありがとな」

 「当然よ。私は恩を仇で返すような女じゃないのよ!」


 そう言うと、彼女は真司の手を取り家とは反対の方向に走り出していく。


 「どこ行くんだ?」

 「カラオケで点数勝負よ!」

 「俺、アリスに音楽で勝てる見込みないんだけど……」

 「うっさいわね!つべこべ言わずにレッツゴー!」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 『アリスとカラオケ行ってくる』


 明音のメールにはそんな文面が届いていた。


 ふさぎこんだと思った息子が、変なことに巻き込まれてて、そうかと思ったら息子を理解してくれる女の子が現れてくれたり―――

 最近の自分の息子には驚かされてばかりだ。


 少し前まで、彼の幼馴染の女の子が助けてくれるかと思っていたが、まさかの人物で驚いた。

 知らないことはいえ、助けた人が息子を助けてくれた。


 自業自得―――いいことをした彼に、良いことが返ってきたのだ。明音としては、そのまま恋人にでもなって幸せになってほしいとも思うが、そうは言えない。


 なぜなら―――


 「ほんとバカね。真司、あたしが気付かないとでも思ったか?」


 そうつぶやく彼女の目は少しうるんでいた。

 一人になると考えてしまうのだ。なぜ息子が自分にすべてを話さなかったのか。それはおのずと答えにたどり着く。


 ―――自分の子供が死ぬかもしれない。


 それに気づいたとき、彼の行動のすべてに合点がいった。人を近づけずに生きるようになったのもそのためだ。母親である明音も遠ざけようとしたのだろうが、彼の性格上自身のたった一人の親にそんな態度が取れなかっただけ。


 しかし、真司が死ねば、明音は一人になる。


 夫に浮気され、真司を女手一つで育ててきた彼女にとって、息子が先に死ぬのは耐えられないこと。


 母として、彼女は一人になったとき、どうしようもなく弱くなる。

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