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THE HAPPINESS AFTER STORM

 翌日、目を覚ますもののあたりは真っ暗だった。

 時刻はだいたい5時過ぎくらい、なぜこんな時間に目が覚めたかと聞かれても、彼は答えることはできない。


 なぜか目が覚めた。まあ、昨日の夜は疲れることがあったわけだし、疲労感で目が覚めること自体はそう珍しいことじゃない。


 昨日の夜のことは誰かに話すようなことではない。それだけ、二人の大切な時間だったというわけだ。


 総長ということもあって、隣に寝ているアリスはまだすやすやと寝息を立てている。ちなみに、彼女のいびきは大きくなかった。なんども同じ布団の中で一緒に過ごすことは何度もあったが、彼女のいびきで起こされたことはないし、真司の記憶の中でも聞いた覚えはない


 彼の母である明音は疲労度にもよるが、繁忙期のいびきがひどい。

 昔はそれで言い合いに発展したことはあったが、結局彼のために働いている母親を責めきれずに彼が我慢することで終わった。


 そのおかげで大分気にすることはなくなったが、ここで思わぬ弊害があったことに気が付く。


 「いびきが聞こえないなら聞こえないで、生きてるか不安になるな……」


 そんなしょうもない不安に駆られる。彼の中に魔物に襲われて―――などという考えはない。自分の手で守る気だということもあるが、自分の近親者に対してそんな不謹慎なことを考えられないというのが大きい。


 ツンツンと彼女の頬をつついてみる

 「んん……」と、少しだけ寝苦しそうな顔を上げるが、手を放した瞬間にそれは収まる。


 ぷにぷにとした頬の感触を楽しみながらつついていると、さすがにやり過ぎてしまったのか彼女が起きてしまう。

 目を覚ました彼女ははっきりとした口調で言った。


 「なにしてるの?」

 「アリスの頬をつついてる」

 「そこがよくわからないのよ……」


 ふらふらとした頭で起きたアリスが最初に取った行動は―――


 ガバッと真司の頭を掴んで布団の中に抱きかかえながら倒れこむことだった。抱きしめられた状態で倒れこまれたことで、彼は身動きが取れないまま寝転ぶことになってしまう。


 別に抵抗してもよいが、自分の好きな相手がやっていることだ。断る必要もなければ、少しだけ今の状態で心が満たされている。

 まだまだ時間が早い。二度寝しても全然起きれる時間だろう。


 そう判断した真司はゆっくりと瞼を閉じていく。

 段々と温かい感覚の中で迫ってくる暗闇が、彼を短い眠りの中へといざなっていく。


 それを確認したアリスは、少し満足げに笑いながら―――


 「久しぶりに見れたわね。あなたの笑顔の浮かぶ寝顔……」


 その声はなぜだか少しだけ寂しそうだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 二度寝を始めてから数時間後


 真司とアリスはほぼ同時に目を覚まし、今度こそ8時に起きることができた。高校に行く時なら遅刻確定だが、そんな心配をしなくていいのは学生として喜ばしいことだろう。


 「おはよう、アリス」

 「おはよう、真司。昨日はよく眠れたかしら?」

 「おかげさまでな。いい布団と枕だったから快適だったよ。それに―――」

 「それに?」


 アリスは可愛く疑問を示す。少しあざといが、彼にはそんなところも愛おしく見える。

 そんな彼女に質問の答えを返す。


 「アリスが隣にいたからな。寂しさもなかったのが大きいな」

 「私がいないときは寂しいのかしら?」

 「そういうことじゃねえ。ただ、アリスと出会う前は一人だったから……どこかで求めてたのかもしれねえな。最近はそう言うのも満たされて、結構幸せ者だなって思えてる」

 「そうね。海外じゃ、私と寝るなんて発狂されるわよ?」

 「はは、夜道には背中に気を付けないとな」


 そう言うと、彼は布団から出る。

 寝起きとは思えないほどに整えられた着物を着ながら朝ごはんの予定を見る。


 対して、アリスが自分の体を起こすと状況に気付く。

 自分が下着しかまとっていないことに―――


 それにようやく気付いた彼女は昨日の出来事もあって驚きはしなかったが、羞恥で頬を染めた。顔全体まで染まらなかったのは、もっと恥ずかしいところを見られたりしているからだろう。


 「あ、あの、真司……?」

 「なんだ?」

 「昨日の夜の記憶がないんだけど……いや、してたところまでは覚えてるんだけど、途中から記憶が……」

 「そうだな……あれじゃね?アリスが寝落ちしたところからじゃねえか?」

 「え、私寝たの?どこで?」

 「憶えてねえか?布団を汚すわけにはいかないって言って、備え付けの露天風呂でしたこと」

 「お、憶えてるわよ……皆まで言わなくても」

 「それで達した瞬間にアリス寝ちゃったんだよ。カクンって意識が落ちたもんだから無理させすぎたんじゃないかって焦ったよ。まあ、すぐに寝息が聞こえてきたから目落ちなのはわかったけどな」


 そう言いながら真司は顔を洗う。なんでもないことのように話す真司に、つい憤慨しそうになったが、よくよく見ると彼の耳が真っ赤に染まっていたのでその溜飲も下がってしまう。


 だが、意識が途切れただけではこの状況に説明がつかない。


 「その後どうしたの?」

 「とりあえず、汚れを流して、体が冷えると悪いから湯船に少しだけ一緒に浸かってから体を拭いた」

 「ち、ちょっと待って―――私の体を洗ったの?どうやって?」

 「普通にボディソープで―――この際裸を見るのは仕方ないだろ」

 「そこはいいのよ。ただ、私の体が知らぬ間にまさぐられていたのね……」

 「人聞きの悪いこと言うなよ。その後は、着物着させたかったけど、うまくいかなくてな。とりあえず下着だけでも着せて、って感じだ」

 「色々とあったみたいね……まあ、風邪をひかなかったのは奇跡ね」

 「いや、そこはちゃんとしてたよ。夏とはいえ、下着姿で寝かしたら悪いから、一旦起きるまで抱きしめてた。俺の着物を緩めて、アリスをくるむようにしながら」


 驚きの発言だが、責めたりはしない。

 結局彼は彼女のためにしてくれていた。昨日は半ば無理やり肉体的交流を迫った。それに応えてくれたのだ。彼と一緒に決めた約束をお互いに破って。


 それだというのに、彼は怒らずにアフターケアまでしてくれた。

 そんな状況になってまで彼女に手を出さないことは、アリスにとって好印象なことだった。


 襲ってほしいというか願望がないわけじゃなかったが、彼が誠実だということがわかってなんだかうれしかったのだ。

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