COULD BE THE LAST
チェックインも終わり、ロビーでのまったり時間も終え、二人は指定された部屋に入っていった。
部屋はそれなりの広さで、テレビ、冷蔵庫は当然のようにあり、お湯ポッドも置いてあった。
「ポッドあるならここでコーヒー飲めたんじゃね?」
「いいのよ。そういうことを追及しなくて」
だいたいのホテルなら置いてある装備だが、すべて小綺麗で高級感あふれるものばかりだった。
見たことないものたちばかりなので、真司は恐縮するが、アリスはなんでもないことのように荷物を置く。
「なんだか、こういういろいろな意味で高い空間にいると落ち着かないな……」
「あら?このくらいで落ち着かないの?私の仕事についてきたら失神しちゃうかもね」
「そんなにヤバいのか?」
「まあ、始めたばかりの頃は安いホテルもよくあてがわれたけど、チケットが完売するのが当たり前になるようになってから、こういうホテル、もしくはそれ以上のホテルをあてがわれることも増えたわね」
「まあ、アリスはお嬢様ってわけじゃねえもんな」
ピアニストとして活動している間は事務所の負担費用などで少しいホテルに泊まることが可能だった彼女はホテル慣れしている。しかも、高級ホテル系のものたちに。
移動も海外生活ということで飛行機だし、実家もお金持ちなので、彼女は一応高級志向だった。
まあ、そうとは思えないくらいに物欲が死んでいるのだが。
今の彼女が欲しいものは、真司のすべてくらいなものだろう。
つまるところ、金で買えない愛がほしい。と、言ったものだ。
「明日の予定はどうするんだっけ?」
「明日は、14時出発の先生を見送る。だから、13時くらいには先生がラウンジ入っちゃうと思う。だから、最低限12時半には空港にいたいな」
「じゃあ、お昼ご飯はその後にするのね?」
「だな。ちょっと遅くなるのは許してほしい」
「いいわよ。お腹すかせておくから、美味しいものをお腹いっぱい詰め込みましょ」
「詰め込むって……まあ、アリスの幸せそうに食べる姿は愛おしいものがあるからな」
「……っ!?き、急にそういうこと言わないでよ……恥ずかしいじゃない」
ボフッと一気に顔を真っ赤にしたアリスは和装の部屋の壁に顔を突っ伏した。
しばらくして平静を取り戻した彼女は、どうにか真司の方に顔を向ける。
「まあ、とりあえず明日はそんなに早く起きなくていいのね?」
「そうだな……一応電車ですぐに行ける距離だから、チェックアウトの時間に出ても問題ないはずだな」
明日の予定を再度確認し、間に合わなくなるなんてことがないように何時何分に出るなど、事細かに決めておいた。
本当は、アリスには家に自宅にいても問題なかったのだが、彼がビジネスホテルにでも泊まると言ったら着いてきた。
まあ、彼と一緒にいたいという気持ちもあったのだろうが。
それからは風呂に入りに行ったり、部屋でテレビを眺めたり、ゆっくり過ごしていく。
部屋には、露天風呂が備え付けであったが、二人ともお互いに遠慮して、入ることはなかった。
それからまったり過ごしていると、いつの間にか食事の時間になっていた。
ホテルのスタッフが料理を持ってくる。部屋に持ち込まれたのは、これから一生手を付けることはないであろう豪華なものだった。
それこそ、真司がテレビで見たような品揃えばかりだった。
ホテルの人がいなくなってのを確認した真司は、ようやくいえると安堵しながら吐露する。
「すげえな……これ」
「なにも気にしないで食べなさい。お酒も、さっき近くのコンビニで買ってきたから」
「はい?いや、お前未成年だろ?」
「いやー、物は試しってこのことね。年確されなかったわ!」
「いや、いいのかそれ?」
「大丈夫よ。もう飲酒してる人なんかごまんといるし、少しくらい悪いことしてもいいでしょ?」
確かに彼女の言う通りかもしれない。
未成年飲酒はダメだ。だが、高校にもすでに飲んでる人もたくさんいる。指導を受けた者もいれば、それをかいくぐる人もたくさんいる。
これくらいのことはよくあることだ。
「あなたもお酒は初めてでしょ?私もよ」
「いや、そりゃそうだろって……」
「私と一緒に、初めてを卒業しない?というか、初めての晩酌―――あなたと過ごしたいんだけど?」
「はぁ……わかった。そこまでのことをそんな顔で言われたら断れないじゃんか……」
少しだけすがるようなあざとい表情。それが彼女の巧妙な技だとしても、彼は落とされてしまう。
まあ、このくらいの不良行為は別にいいだろう。誰にもバレなければ文句は言われまい。
「あ、そうだ。昼のボーリング憶えてる?」
「ああ、惨敗したやつか」
「あれの罰ゲームがまだ残ってるの憶えてる?」
「そういや、あったな。あとにするって言って、放置してたな」
「それを行使するわ。酔っ払って、意識が酩酊していても、私の言うことを全部聞いて」
「それは……」
「わかった?」
「……わかったよ」
アリスの覇気を感じた。
それに押されて彼は言われるがままに答える。こういう要求をされたとき、アリスがどんな願いをするのかなんとなく察したので、本当は断りたかったが、ホテルのお金のこともあり、断る選択肢は与えられていない。そんなこと関係なく断っても彼女は怒ったりはしないだろうが、悲しそうにするのは目に見えてる。
しばらくして―――
「むふふ……!」
缶ビール2本で酔っ払った彼女は真司の上に馬乗りになって胸に指を這わせている。
べろべろにはなっていないが、まあほろ酔い程度には顔が赤くなっている。
「酒、あんま強くないのな」
「うっさいわね―――いいでしょ?脳が壊れるまで飲んで、あなたとイチャイチャできれば……!」
「テンションがおかしくなってきたな。というか、どうするんだよ。この酒の量……」
彼の目線の先には、大量の缶があった。
ビールに酎ハイ―――ほかにもたくさんのものがある。初めてだから、どのくらい飲めるのかわからなかったのだろうが、明らかに買いすぎだ。
思いのほか自分が酒に強いことに気付いた彼がすべてを処理しようとは思っているが、さすがに量が多くて飲み切れる自信はない。
アリスの方は酔いが回るのは早いようだったが、その状態から酔いが悪化することがない。
顔を赤くしていても、意識はちゃんと保っていてぐびぐび飲んでいるが倒れる様子はない。さすがに怖いので自制をするように促すが、彼は彼女に最初の要求を受けた。
「じゃあ、キスして……!ちゅーって!舌を絡ませるやつ!」
「……始まった」
わかってはいた。
彼女のブレーキが壊れたら、彼の勝手な思い出押さえ込んでしまっている欲求が浮き彫りになってしまうことは。
袋の中にゴムがあったのを見れる当たり、彼女もそこらへんはわかっていたようだった。