CONCEIT AND ARROGANCE
陛下から承った命令は一つ。
与えられし変位種である私が、人間と契約し、人界に滅びの一手を与えること。
そのために契約した人間が加藤俊也とかいう男だった。
初めて会った時、こいつはなぜか知らないが疲弊していて、壊れかけていた。
しかし、私はそれをチャンスとばかりに彼に暗示かけた。
すると、簡単に思考パターンの掌握ができるようになり、オリジンに対する怒りも簡単に芽生えさせることができた。
ただ、オリジンの正体を教えてもらえれば攻撃を仕掛けられるのに陛下は教えてくれない。
おそらく、なにかの目的だろうが、それすらも教えてくれない。
まあ、陛下なりの考え方があって情報を秘匿しているのだろう。
今、私が考えることは目の前の男をどう使い捨てるかだ。
この間の戦闘で自爆技も試してみた。見てくれにダメージはなかったが、やはり魂に疲弊は見られた。
自爆によってばらばらになった体を修復―――再生する段階で魂を使うみたいだった。
人間との契約はいまだブラックボックスの中と言える。まだまだ知らないこと、わからないことが多い。
人間側の契約者が死ねば、私が大変なことになるかと思うが、それは間違いだ。
一般に契約の破棄は人間側に一方的にデメリットがある。なんせ、大きな力を得るからだ。
今までできたことができなくなることはもちろん、その力によってなにか延命措置のようなことをしていれば問答無用で死亡する。
魔物は人間より強いのだから当たり前だろう。
過去に人間との契約は数例だけ存在し、いずれも高位の魔物のみではあるが、私でも問題ない。
変位種である私は同種とは違う。上へ、上へと進化した存在。あんな雑魚どもとはわけが違うのだ。
だが、人界側に来ていいこともあった。
それはこちらの世界の飯だ。
魔界にあった品質の悪い固い肉やパン―――それすらも高級品。我々の世界の食事はこの世界の人間だったら形容できないほど悍ましいものだろう。
私もこちらの食事を味わってしまえば、あっちの飯は食えない。
もし魔界が人界を支配したら、料理人を数名もらおう。
私のもとで、死ぬまで奉仕させる。一応女も男もどちらも見繕って、料理人の人間が費えないようにもしておこう。
今から想像するだけで涎が出てくるな。
まあ、とにかく今はオリジン―――それこの世界で言われる0号を排除すること最優先だ。
四神たちも馬鹿な奴らだ。神である魔王様に歯向かうなど自殺にも等しい。神に最も近いからと奢ったようなその行動が裏目に出ないといいな?
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真司は今日、最寄りの駅に来ていた。
誰かを待つようにある程度分かりやすいところで待機している。
彼の今日の予定はデートだ。
最近、家でイチャイチャしていたとはいえ、外で遊ぶことはまるっきりなかったので、ちょうどいい機会だ。
まあ、デートはついでみたいなもので、本当は恩師を見送るために前日入りをするだけだ。
明日の昼手前くらいに長谷川は飛行機に乗る。成田空港は東京からさほど遠いわけじゃないが、首都圏から離れると少々アクセスが悪い。なので、前日にビジネスホテルにでも泊まって時間に余裕を持たせようとしているのだ。
待ち合わせをしているのは彼女曰く雰囲気だそう。
家まで彼が迎えに行くことも考えたが、待っていてほしいと彼女に言われてしまった。
集合時間は今から10分ほど―――アリスの性格とかを加味するとこの時間にやってきてもおかしくはない。彼女が10分前行動で来るのなら、待たせるわけにはいかないと20分前に来た。
そんなに朝早くないため、通勤ラッシュほどの込み具合ではないが、それでも人はそこそこ多かった。
―――10分後
「来ねえな……」
集合時間になったというのに、彼女は来なかった。
いたずらでデートしようとか言うような人となりではないので、そこは疑っていないのだが、こう遅いとなにかに巻き込まれたのではないかと勘繰ってしまう。
まあ、まだ集合時間に来なかった程度―――さらに10分経ってこなかったら電話でもしようと真司は考えた。
―――さらに10分後
「来ないな……本当に大丈夫か?」
さらに10分経っても来なかったので、結局電話をかけてみる。
しかし、呼び出し音は鳴るものの、本人が出ることはなかった。
本気で心配になるものの、ここで入れ違いになっても困るので動くに動けなかった。
すると、そこから5分くらいしてからようやくアリスが集合場所に来た。
見てみると、ところどころ服がはだけかけていて、動きづらい恰好で走ってきたのだと考えられる。
「はぁ……はぁ……遅れて、ごめんなさい―――言い訳になるかもしれないけど、パパが離してくれなくて」
「あー、そういう感じか。よかったよ、アリスになにもなくて」
「怒ってない?」
「別に―――でも、遅れるときは連絡してほしいな。怖いから」
「わ、悪かったわ……ちょっと待って……息を整えて―――」
「それよりも服を整えようぜ。その、見てらんないよ」
真司のその言葉で自分の格好を改めて見たのか、みるみるうちに彼女は顔を真っ赤にしていく。
かぁーっと面白いくらいに赤くなっていくが、その後の行動は早く、目にもとまらぬ速さで化粧室に駆け込んでいった。
そのすぐ後、メッセージが飛んできて
『10分だけ待って!!!!!』
とのことだ。
その言葉通りに10分待ち、彼女の化粧直しを待った。とは言っても、彼女、化粧はしていなかったのだが。
時間が経過するとともに、アリスが戻ってきて、その顔はほんのり赤かったものの、もう息も服も整っていた。
ファッションセンス皆無な真司は服の詳細とかはなにもわからないが、とりあえず可愛かった。
いつもはひざ丈くらいのスカートかズボンかくらいしか見たことなかったが、今日は珍しく長いめのスカートをはいていた。
「いつもと違う格好だな」
「そりゃあね。あなたの家でまったりする時はそこまで気合い入れないけど、今日はデートだから―――おめかしもしっかりするわよ」
「ごめんな。そう言うのわからないから、可愛いしか出てこない」
「いいわよ。それだけ十分よ。ほら、行きましょ―――電車が行っちゃう」
そう言うとアリスは真司の手を引っ張って駅の改札を通過するのだった。