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LONELINESS IS NOT ALWAYS LONELINESS

 「無茶苦茶しやがる……」


 爆発の煙の後から真司が姿を現した。

 無論、カメレオンは爆発とともに消滅した。


 おそらく転移かなにかを併用した技なのだろうが、それにしても無茶苦茶な戦い方だった。


 自信を爆発させて、相打ち覚悟―――いや、真司相手なら一方的にあちらが負けていた可能性すらある。

 現に今の真司はダメージを受けてはいるが、致命傷を負ったわけではない。その上、青龍の力で治らない傷もなかった。


 まあ、青龍ほどの上位種なら治せない傷を作るのが難しいのではあるのだが。


 それは置いといて、真司は相手の無茶苦茶すぎる戦い方を振り返っていた。

 しかし、なんど振り返っても理解ができない。


 「ば、バカなのか……?バカだからこんなことできるのか……?ゴホッゴホッ」

 『大丈夫か?』

 「大丈夫だけどさ……この攻撃、なんの意味があるんだよ。本当に勝てないから無理やり俺に嫌がらせをしようとしてんのか?」


 やはり自爆の意味が理解できない。

 煮え湯を飲ませる。その発言が正しいのなら、本当に彼に嫌がらせをしたかっただけなのだろう。


 勝てないのをわかっていながら、それでも相手に食い下がりたいとそういう判断なのだろうが、そこに彼の目指した生きざまはない。

 ゆえに理解できない。


 彼の思う姿とは、たとえ命付き用とも最後まであきらめずに戦い続ける。決して、こんな自爆まがいの諦めた戦いは違うものだった。


 そうこうしていると、真司のいる場所の空間がぐらつき始める。

 アピスの人払いの結界が解け始めているのだ。


 「行こう、青龍……」

 『ああ―――だが、アピスとの決着は早めにした方がいいかもしれないな』

 「だな……明らかに戦闘中に意識がはっきりしていくのがわかった。あれは、ゾンビ状態から元の状態―――いや、元の意識の状態に戻ろうとしてる。もしかしたら、それがなにかの引き金になるかもしれない」

 『魔物はイレギュラーが多いからな。しかも、魔王即身体か……まさかあの大戦以降に使う魔物が現れるとは……』


 気になる単語が出てきたが、ひとまずはその場を離れるために歩き始める。

 おぼつかない足つきでふらふらと進んでいく。すると、10分もしないうちにひとが現れ始め、いつもの喧騒が取り戻されていく。


 すでにほとんどの家屋の修正は住んでいる。

 真司が結界の崩壊寸前まで動かなかったのはそういうことだ。


 このまま足つきでは変えることは難しいので、そのまま路地に入り、人目を完全に避ける。

 防犯カメラも人の気配もないことを確認してから、『転』を使い、彼の家まで移動した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 カタカタとアリスと明音は淡々と昼ごはんの準備を進めていた。


 真司を心配する気持ちから二人とも口数が少ない。

 せっかくアリスが頑張って卵焼きを作ったというのに、うまくできた喜びを表現できなかった。


 しかも、今回はよりによって警察の介入もテレビの報道も確認できなかった。

 彼から聞いていた人払いの結界というものを聞いていたアリスはすぐに事情を察したが、逆に言えば現場状況を知る術がない。


 そんな少しだけ重い空気の中、明音がアリスに聞いた。


 「あいつは帰ってきそうにないし、先に食べるか?」

 「―――私は待ちます。冷めちゃっても、温め直せばいいので」

 「そうだよな。あいつを待ってやるのが家族ってもんだよな」

 「はい……それに、真司に卵焼きの感想が欲しいんです」

 「うまくできてると思うぞ。この間に見たときより、ずっとうまくなってる」


 明音はそう言いながら椅子に座る。だが、そこから箸に手を付けることはなく、食事にも一切手を付けなかった。

 アリスの思う通りに彼女も彼の帰りを待つことにした。


 アリスのいないときや彼女が真司と付き合う以前では彼の帰りを待たずに食べることもしばしばあった。

 しかし、そんな食事はなぜだか異様な虚脱感を放ち、おいしさもそこまでなかった。


 家族なりの喜びをちゃんと覚えているからだ。


 彼と一緒に食べられることが何よりの幸せだったのかもしれない。

 まさか、アリスに再認識させられるとは思わなかった。まあ、彼女の場合は夫に浮気され、一人の時間が多かったからこそ家族の時間を求める気持ちが人一倍強いだけなのかもしれないが。


 「久しぶりにあいつを待つのも悪くないな」

 「いつもは一人で?」

 「そうだね。あんまり遅いときは一人で食べてるかな。まあ、今ほど寂しく思ったことはないよ」

 「今は二人じゃ?」

 「二人ともあいつを求めてる。共感者がいるのは心強いことでもあって、同時に心を弱くするもんさ。アリスと一緒にいると、よりあいつと一緒に―――三人でそろって食べたいって気持ちが湧いてくるな」


 少しだけ寂しそうなその表情がアリスに刺さる。

 しかも明音の声は少しだけ震えていた。普通だったらわからないレベルではあるが、アリスの耳にはちゃんと聞き分けられていた。


 結局年をとっても、怖いものは変わらない。

 孤独だけが寂しさとは限らない。そんなことを知ったような気になれた。


 「まあ、あいつならそのうち帰って来るんじゃねえか?今、まさに転移なんかで帰ってきたりして―――」


 ガチャ


 「正解……まあ、なんだ……ただいま」


 唐突に帰ってきた真司に二人は驚いたが、同時に歓迎した。

 まだ昼ご飯は冷めていない。今から食べれば温かいままで食べられるだろう。


 「真司、今日は卵焼きを作ったわ。あの時より出来がいいわよ」

 「前の時もおいしかったって」

 「真司、アリスがそう言ってるんだ。一旦食べてみろ」


 なんでもない家族団欒―――そうなるはずだった。


 もう限界とばかりに真司が倒れてしまった。

 アリスたちが悪いわけじゃない。彼自身は帰ってきた時点で、すでに限界だったのだ。


 アリスの卵焼きに手を付けようとした瞬間に後ろに倒れこんでしまった。

 

 「「真司っ!?」」


 あまりにも突然の出来事に二人はパニックになってしまうが、意外と慣れてはいたのかおろおろしながらも彼を寝室に運ぶ行為は二人とも同時に行った。


 昼ご飯はラップして冷蔵庫にしまい、すぐに看病態勢になる。愛する彼氏を思う女の子。愛する息子を思う母―――思えば二人は似たもの同士だったのかもしれない。

 そんな二人に囲まれている真司は、幸せ者だ。

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