THE WAR OF ATTRITION
接近が駄目ならば、それ以外で攻めるしかない。
そして、刀剣での接近戦を除けば、彼に残された戦法は文字通り射撃しか残っていない。
拳なんか議論にも上がらない。
当たったら終わりの戦いで、そんなリスキーなことはできない。
銃を構え、照準を合わせる。
こちらから相手の姿は見えない。だが、それは相手も同じだということでもある。
高速で回転する鞭によって砂煙などを巻き上げ、本体の魔物が見えない。しかし、相手を被う鞭自体は細く、どんなに高速で回転したとしていても、何度も繰り返される一瞬の間に相手を守らない隙があるはず。
それを見極めたいところではあるが、やはり砂煙が邪魔をする。
「照準が合わせづらい。このままじゃ攻撃もできない」
「鞭に当てることも考えたらどうだ?」
「あの鞭の強度がわからない。もし、あの速度で弾かれたらどうなるか」
彼の想像通り、むやみに射撃すれば付近の家屋などにも被害が出る。カウンターになる可能性も大いにある。
射撃すらも完璧な準備を整えなければならない。
彼の認識の通り、ライフルモードで一撃を強力にしても、弾かれるだけだ。
どう戦うべきか。その選択を迫られる。ここで時間をかけるのも得策でないことも理解しているし、もっと早く後世に出るべきだろうが、相手の能力がわからない以上は、下手に前に出れない。
そんな状況に真司は硬直するしかなかった。
だが、それは誘いにもなりうる。
動かない真司に対して相手が動けば、それも隙になる。
この勝負は精神力が試される場。
しびれを切らした方が負ける。その点で言えば、真司が不利だ。
なぜなら―――
「真司、ここは動くべきだ」
「黙れ。お前、本当に魔物の上位種か?この状況で先に動く方がバカだろ」
意識が二つも三つもある彼には分が悪い。
彼が我慢できたとしても、他の意識存在がしびれを切らせば、彼に負荷をかける。
言葉だけでも攻めるような物言いをすれば、真司の精神にも異常をきたすだろう。
十秒―――二十秒―――
どんどん時間が経過していく。
しばらく経過して、おおよそ3分ほどだろうか。
彼の望む展開が訪れた。
「ぐっ……」
「しめた……!やっぱり、このままなら相手の消耗のほうが早い」
彼の望んだ展開―――それは、相手の消耗だ。
アピスは動かない真司と違って、猛烈な勢いで鞭を回転させている。
そうなれば魔力でも体力でも消耗するだろう。
完全に力が抜けなくても鞭の速度は落ちる。そうすれば砂煙も収まってくるだろうし、鞭の隙間も大きくなる。攻撃のしどきだ。
あらゆるブラフの可能性を考慮したうえで、彼は決心する。
「ここしかない……」
魔力の反応から弱っているのは明白。
(漫画とかアニメならそういうの隠蔽とか偽装ができるとかあるが、現実は違う。潜在的な力の偽装などできるものではない。いままでの戦いでも、青龍の言質でもそれは明らかになっている)
両手で力を込めながら照準を合わせて、ライフルモードで発射した。
射撃によって放たれた弾丸は空気を切り裂きながらまっすぐ飛んでいき、回転する鞭へと侵入してくる。
高速で鞭が通過していく中、わずかな間を通っていき、鞭を振り回している手をはじいた。
その瞬間、アピスは一瞬だけノックバックする。
その隙に彼が走り出して、さらに近い位置で変形させて射撃する。
「だあああああ!」
「ぐっ……!?クッソがあああ!」
5回ほど手に射撃すると、鞭を後ろに放りだされてしまう。
血を失う恐れをなくした彼はそのまま膝蹴りから入り、近接戦に持ち込む。
膝を顎に入れられて顔を大きくのけぞらせて、後方にのけぞる。
彼も前方に飛んでいく勢いをそのまま使って、ラリアットで地面に着地する。すると、右腕に巻き込んでアピスが彼の落下と同時に後方の地面に叩きつけられて確かなダメージを受ける。
着地後すぐはお互いの顔の位置が同じ場所にあったが、体の向きは逆だった。
すぐに組み立てしなおし、真司がアピスの上に馬乗りになると、そのまま相手の頭に向かって連射した。
魔物とはいえ、ヘッドショットをまともに食らえばただじゃすまないからだ。
しかし、反動で何度も頭が地面に叩きつけられているのは確認できるが、それでもダメージが入っているようには見えなかった。
反撃の可能性はあるが、彼はその場を離れなかった。
単純に相手が鞭を拾う可能性を考えると、反撃などは問題にならなかった。今は完全に手を塞いでノーガードで弾丸を撃ちこみ続ける。
「人間ごときが―――があああ!」
「そんなに喚いてもどうしようもないぞ。俺とお前じゃ、もう力の差が歴然なんだよ」
「うるさい!お前が、お前がいなければ!」
「そうだ―――お前がゾンビ化の原因か?」
「ゾンビ化?ああ、眷属化のことか―――なら、それはこの私の仕業だ!人間を奴隷にする!貴様のせいで失った私の眷属を補填するために!」
どこまでも人間を見下している発言。
その上に―――
「己の同族まで道具として扱うか!」
「だからなんだ!セクト級などは大した知能もないのに、増えるだけのゴミだ!あんな使い捨ての種族は―――!」
「だったらなんだ!お前たちは、自分たちの世界のために戦ってるんじゃないのか!」
「そうだ!だから私たちは……お前を殺すために!」
その瞬間、足で抑えていたアピス手が、拘束を破り、彼の頬を捉えた。
「ぐっ……!?」
「私は、雪辱を晴らす!そして、陛下の御心のままに!」
「てめえらがどうこうできる世界じゃねえんだよ!さっさと世界もろとも消えちまえ!」
拳を入れられて、一瞬のけぞった真司だったが、そのまま無理やり態勢を立て直してマウントポジションでタコ殴りにする。
ポジション取り上、結局真司が優位になる。
しかし、いきなり彼は速報に吹き飛ばされた。
「っ……!?なんだ?」
驚いて、なにか殴られたような感覚に襲われた方向を見る。
しかし、そこには誰もいなかった。
だが、ある意味それが答えだった。
「カメレオンか―――もう、それは通用しないって言ったはずだけどな」
そう言って、真司は虚空に向かって拳を振るう。
すると、なにかに当たったような感覚とともに鈍い音がして、相手が姿を現した。
「オリジン……」
「邪魔をするなよ―――三下が……」