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THE VERITY

 「できたわ!」

 「うわあっ!?」


 部に届いたものをもいて、渡辺は叫び声に近いほどの声量で言った。

 その場にいた伊集院は余りの声量に驚いてしまうが、彼女はそんなこと気にしなかった。


 そして、一応なにができたのかは聞いてみることにする。


 「なにができたんですか?」

 「なにって、決まってるじゃない!待ちに待ったV4ユニットよ!」

 「4って、まだ特殊スーツ時代からの2代目ですよ」


 そう言って伊集院は渡辺にツッコミを入れるが、彼女はこの名前が当たり前だと言わんばかりの憩いで喋り始める。


 「いい?このスーツは特殊スーツの名前を仮にV1、新規造形の試作段階をV2とすると、今回のは3回目の開発。つまり、初代からの4号機なのよ」

 「だから、V4……なんのVなんですか?Victoryとかですか?」

 「そんなガキみたいなネーミングはしないわよ」


 渡辺は馬鹿にしたように伊集院を見る。

 その姿に一瞬怪訝な顔をするも、伊集院は聞き続ける。


 「Verity―――真実、真理を意味する言葉。このスーツはあなただけが扱えるもの。ほかの人が装着しても100%を引き出すことはほぼ不可能よ。私が道を踏み間違えても、あなただけは真実を見ることができる人間でいなさい。そんな願いを込めた名前よ」

 「真実……0号のことですか?」

 「ううん、もちろんそれのこともあるわ。でもね、このスーツはいずれ兵器に転用されるかもしれない。戦争をしないとこの国は唱っているけど、結局人が変われば思想も変わる。多胡君情勢が不安定になれば、またいつか戦争は起きるかもしれない。それは私にもわからないことだけどね。だからこそあなたには最後まで真実を見ていてほしい。誰が悪くて、とかじゃない。誰を守るべきか、愛すべきか。人としての真理を見失わないでほしい」


 その言葉を言ったとき、少しだけ彼女の目は据わっていた。

 その表情に伊集院はドキっとしたが、ただそれ以上の緊張感が走った。


 なんせ、その空気感は現場でも味わったことがないほどの闇を孕んだものだったからだ。


 「あなたは自分のすべきことを見失う人?」

 「……違います」

 「あなたは0号を攻撃する?」

 「そんなことはしません」

 「あなたは、あの時の間違いを正当化できる?」

 「っ……!?そんなの!―――渡辺さんでも、そういうのは看過できません」


 一瞬だけ伊集院の怒りにふれたが、彼女が彼を試しているだけなのはすぐにわかったのでそれ以上の言及はしなかった。


 ぐっと拳を握ったのを見た彼女はすぐに表情を緩め、自身の言葉を撤回する。そして、満足したように彼女は言った。


 「まあ、こういうのは置いておいて、私がこの名前を付けた一番の理由は、今の警察への皮肉ね」

 「皮肉……ですか?」

 「ええ、私の能力が正当に評価されなかったとかはもうどうでもいいのよ。国民をヘイトをほかに向けたいがために0号をいまだに警戒対象から外してないからね。真実なんて何も見えていないわ」

 「たしかに、討滅対象から外されましたけど、要監視対象ですもんね」

 「でも、表向きはそうでもほかの舞台はまだ0号を狙ってる。この間のゾンビの件も上からの通達にゾンビ化の主な原因は0号にされてる。おそらく機会があれば、かならず0号に対しての討伐体が組まれるわよ」


 それは予知にも近い彼女の予測だった。

 現に完全な水面下でそう言った動きがある。その危機が迫ってくるのはもうすぐかもしれない。


 そうして届いたスーツを見ると、想像とはかけ離れたものがそこにはあった。


 特殊スーツのようなごついものを想定していた伊集院だったが、そこにあったのはパワードスーツと言った方がいいのかわからないが、明らかに彼の肌にピタッと張り付きそうなものだった。


 「僕が想像していたものと違うんですけど……」

 「これは基盤部分ね。装備はほかにあるわ」

 「装備って―――」


 訝しむ彼をよそに彼女は止まらない。


 「まずはこの武器!今まで出現したデモニアとの記録をもとに作り出した剣。その名もV4ユニット001―――これを使えば、相手の装甲を簡単に破れるわ」

 「じゃあ、この銃は?」

 「それはユニット002―――ハンドガンね。でも、それの用途は正確に言うと、鍵ね」

 「鍵、ですか?」


 伊集院の質問に答えるように、渡辺はまとめられた荷物の中から鉄塊を取り出した。

 それは形だけを見ると、ガトリングがんにも見えたが、ある重要な部分が欠けている。


 「これ、引き金の部分が丸々抜けてませんか?」

 「ええ、この武器はかなり強力だからね。常にロックをかけてある。これを解除するには、システム的に私がやるのとは別に、あなたがこの鍵となる002をトリガー部分にはめることで、使用可能になるわ」

 「―――わかりました。つまり、主力武器はこれということですか?」

 「そういうこと。さらに、出力を上げれば、理論上デモニアを倒すのも可能よ」


 その言葉を聞いた彼は、デモニアに有効になる武器というだけで興奮した。

 今まではろくに戦えるような装備はなく、運よく効果的だとか、0号のアシストになったりと単独撃破がろくにできなかったが、これで彼一人でも戦えるようになる。


 そんな期待感を込めたような目をしていた伊集院を、一転して渡辺は表情を曇らせた。


 「なんてね……威力の調整はまだうまくいってないの」

 「ど、どうしてですか?」

 「絶対数が足りないのよ。相手は基本的に爆散。検体があれば少しマシなんでしょうけど、その武器たちが通じる保証はどこにもないわ。まあ、それでもV1よりは圧倒的に火力を上げているから、ダメ0字にはなるはずだけど……」

 「それならいいじゃないですか」

 「開発者として、私は不完全なものを渡しているのよ。これで失敗したらあなたが死ぬかもしれない。そう思うと、私もこれを使えとは言えないわ」


 言葉の意図は汲めた。

 彼は彼女の葛藤も全部わかった。そのうえで彼は言う。


 「それでも、僕はあなたに感謝しても、恨むことはしません。あなたのおかげでここまで来れました。だから僕は、あなたを信じます」

 「でも、私はあなたの期待に応えられないかもしれない」

 「答えますよ。渡辺さんですから」


 その言葉に含まれる感情は、期待や羨望ではなかった。

 彼の目に映るのは、本当に純粋な信用。彼女はその視線に、言葉を失うしかなかった。


 だが、決して彼女が諦めることはない。

 最後の最後までたった一人の命を生かすために、彼女の戦場で戦い続ける。

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