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SLIGHT DIFFERENCE

 「―――と、いうわけで戦うことになったんだ」


 その真司の言葉にその場にいた全員がなにも言わなくなった。

 しかし、唯一アリスだけは疑いの目で彼に言葉を投げかける。


 「あなた、真司じゃないでしょ?―――たぶん、青龍かしら?」

 「せ、青龍……?十神と契約したっていう……?」

 「……よくわかったな。できるだけ自然に代わったつもりだったが」

 「それで完璧だと思ってるなら、詰めが甘いわよ。あなた、消したはずの記憶の部分を話してるじゃない。真司が話せるはずがないことを喋っちゃったらバレるわよ」


 呆れたように言う彼女は少しだけ真司の隣から距離をとる。

 側は真司とはいえ、中身が別人なのなら彼女が好意を寄せる理由はない。まあ、自分が真司に助けてもらえたのは、この青龍のおかげなのだが、気にするところでもないだろう。


 「お前たちにこれだけを伝えに出てきた。今は真司の意識は完全に遮断しているから気を付ける必要はないから、聞きたいことがあるのなら今のうちだ」

 「それで、言いたいことって?」

 「さっきの話でも出てきたが、今の状態なら真司は一度命を落とすことにはなるが、すぐに元の生活に戻れるようになる」

 「肉体を使った変身で四神を受け付けなければ、ね」

 「そうだ。だからお前たちは、真司が死ぬと悲しむ必要はない。明音―――母も悲しむ必要はない。そっちの長谷川という奴も、心配する必要はない。戦いはもうじき終わる。真司は一般人に戻れる」


 真司がいかに安全かをアピールする青龍。

 その言葉になにもわかっていない長谷川は安堵する。しかし、明音の険しい顔は緩むことはなかった。


 「お義母さん?」

 「あたしは、真司がそう簡単に済ませるような奴だとは思えないね」

 「なにを言っているんだ?自分の息子が助かると言っているんだぞ?嬉しくないのか?」

 「別に嬉しかねえよ。むしろあたしは、あいつがちゃんと覚悟を決めて何かする姿に喜んでたさ。もちろん、生きて帰ってくることに越したことはないが、あたしの息子が命を投げ出すと決めたら、助かる見込みなんて言う甘えた逃げ道、使わねえと思うな」


 その言葉に青龍は少しはっ、とされた。

 さすがに真司を育ててきただけのことはある。自分以上に真司のことを理解していてすごいと思った。


 確かにそう言われればその可能性はある。

 だが、絶対にありえないとも言い切れる。


 「真司は本来の姿のこともなにもかも忘れている。そもそも、契約の系譜の話は、明音の家系ではないからな」

 「……てことは―――」

 「そう、お前の考えるとおりだ。発動にはその家に秘められたものを使う必要がある。思い出そうが意味はないってことだ」

 「つまり、あいつに関わらなければ、絶対に死ぬことはないってことか……」


 少しだけ光が見えたことに安堵はすれど、結局不安はぬぐえない。

 これまでだって、彼はなにも言わずに戦っていた。ゆえに、今回もなにも言わずにどこかに行ってしまいそうだと。


 彼と長く時間を共有している明音は、やはり不安はぬぐえない。


 「ほかに質問はあるか?もうこれ以上は、我の力も持たない」

 「じ、じゃあ―――十神は、人間なのか?」

 「それを聞いてどうする?人間じゃないから、対等に接することができないとでもいうのか?」

 「それは―――どうしたらいいのかわからない。今の十神が人間じゃないとわかったとき、どうするのかも。でも、怖くて逃げだすなんてことはないと思う。これでも、そいつの指導者なんだ。短くても、そいつが努力する姿を近くで見てきたから」

 「―――やはり、真司は周りに恵まれているな。先の答えを返すのなら、今の真司は人間ではない。肉体を失った、魂だけの存在だ。つまるところ、肉体を取り戻せば、何ら問題なく人間に戻れる」


 その言葉を聞いて、長谷川は踏ん切りをつけた。

 もう少し彼と歩み寄ろうと。おそらく答えがどんなものでもそう思えただろう。彼はそういう人間だ。


 「じゃあ、我はこれで戻る。次にいつ出てくるかはわからないが、決して真司は死なせない。これは約束しよう」

 「ええ、私もあなたに会うことがないこと願ってるわ」

 「―――ふっ、確かに我が表に出るときは緊急時だけだな。そうなることのないように善処する」


 そう言うと、真司(青龍)はなにかのつきものが落ちたようにかくんと首を下におろした。

 次の瞬間には、真司が意識を取り戻した。


 「あれ?なんか、一瞬だけ記憶が飛んでるなあ」

 「き、気のせいじゃない?」

 「いや、そんなはずないな。そこの時計―――さっきよりかなりズレてる。……青龍か」


 真司の察しの良さに全員が戦慄した。

 一瞬の違和感に気付き、時計を普段無意識に注意していることをうかがわせる。その速さには全員を息を呑まされた。


 「すごいわね」

 「いや、大概気付くだろ。あからさまにおかしいし―――青龍がなんか言ってたか?」

 「いや、あなたに代わって話してただけね」

 「そうか―――なら、特段問題ないか」


 そう言って真司は気にしない素振りを見せる。だが、この時点で気付いていた。何かあったのだと。

 アリスの言葉の嘘にも気づいていた。


 そんな真司の感情の機微にはアリスが気付いていた。

 この空間には読み読まれの関係が、意図せずに出来上がっていた。これでも、頭の回転が速い明音。その遺伝子を持って頭もいい真司。そして天才肌のアリス。

 そう言ったことになるのは案外当然のことかもしれない。


 唯一凡人枠の長谷川は、特に何も気づけず、置いてかれるのみだった。

 しかし、彼は彼なりに真司に言葉をかける。


 「なあ、十神……」

 「なんすか?」

 「二人で話がしたいから、明日の夜飯でも行かないか?もちろん、この場でお前の母さんが駄目だって言ったら諦めるけど」

 「あたしはかまわない」

 「俺も問題ないです。明日の夜ですね。空けときます」


 その言葉を聞いた長谷川は家族団欒を邪魔してはならないと、すぐに荷物をまとめて家を出ようとする。


 「じゃあ、明日の18時にここの最寄り駅に来てくれ」

 「わかりました」


 集合場所と集合時間だけを伝えて、長谷川は玄関をまたいでいく。玄関先で恩師の帰る姿を見送った真司は、静かに家の中に戻っていく。


 その後、3人だけとなったリビングで、アリスは彼の手を握るのだった。

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